「僕には翼がない それでも僕ははばたき続ける」 中島清志 作 〔キャスト〕♀5人      ♀ アイ(高校3年生・演劇部員)      ♀  母(アイの母)      ♀ マユ(高校3年生・演劇部員)      ♀ スズ(高校3年生・演劇部員)      ♀ 先生(演劇部及び放送部顧問)      アイの部屋である       アイ、小テ−ブルで書きものをしている アイ「僕、お話書いてるんだよ。    僕、演劇部だからさあ・・・」      母、部屋の外から 母「アイちゃ−ん。」      母、入って来る  母「早くお風呂に入りなさい。」 アイ「最後でいいよ。」  母「お父さん入っちゃうから。」 アイ「いいって。」  母「いいの?    アンタいつも嫌がってるのに(アカが浮くから)」 アイ「しっかり洗ってから入るように言ってよ。」  母「仕方がないの。    男の人なんですから。」      アイ、あぐらをかき、ペンシルを持って考え込んでいる  母「何ですか、女の子がはしたない。」 アイ「いいじゃん。」  母「女の子らしく座りなさい。」 アイ「わかんないよ。」      母、座ってみせる アイ「トドみたい。」  母「こら!    女の子はヒザを揃えて座るものですよ。」 アイ「わかった、わかった。」      アイ立ち上がる アイ「ねえ、お母さん。」  母「何ですか。」 アイ「まだ残ってるよね。    お兄ちゃんの制服。」  母「そこに入ってますよ。」 アイ「借りていい?」  母「どうするんですか、そんな物。」 アイ「劇の衣装に使うんだ。」  母「アイちゃん、あなたもう関係ないんでしょ。」 アイ「まだ演劇部やめたわけじゃないよ。」  母「・・・大事になさいね、お兄ちゃんの制服。」 アイ「わかってるよ。    アメリカに行ってお兄ちゃんに会うんだから。」  母「アイちゃん・・・」 アイ「冗談だよ。    僕はお兄ちゃんには会わずに帰って来るんだ。」  母「・・・お兄ちゃんがこのお部屋見たらビックリするわよ。」 アイ「そうかなあ?   (写真立ての写真に話しかける)どう、お兄ちゃん?・・・    気にならないって。」  母「お兄ちゃんはキレイ好きだったのに。」 アイ「僕、気にしない方だから・・・    あ、掃除してくれてもいいよ、お母さん。」  母「自分でやりなさい!    女の子のくせに・・・」 アイ「やっぱいいよ・・・    僕が帰って来なかったら、このまましといて。」  母「アイちゃん・・・」 アイ「泣かない約束だよ。」  母「ごめんなさい。」      母、出て行きながら  母「後で必ず入るんですよ。」      アイ、母が出て行ったのを確認して アイ「ねえ、さっきの続き。」      アイ、書きものを見ながら アイ「『モグラのうた』って言うんだ・・・    ある日モグラは、空を飛ぶ鳥に恋をしました。    『僕も空を飛びたい』そう思ったモグラは、毎日毎日前足を翼のようにバタバタさせて飛ぼうとしました。」      アイ、自分の両手ではばたくフリ アイ「超カッコワリイ・・・    『翼がないのに飛べるわけないよ』    鳥たちはモグラを馬鹿にしました。    『そんなにお天道様に当たってちゃ体壊すよ』    モグラの仲間たちは心配して言いました。    けれどもモグラはやっぱり毎日毎日飛ぼうとしていました。」      アイ、はばたくフリ アイ「ある日、モグラは両の前足を広げたまま死んでいました。    でもその顔はとてもしあわせそうでした。    モグラは地面に指で遺書を残していました・・・    僕には翼がない、それでも僕ははばたき続ける・・・    飛ぶんだ・・・    飛ぶんだ・・・    モグラだって空を飛ぶんだ!」      アイ、兄の制服を取り出して アイ「モグラだって空を飛びたいんだよね。」      アイ、制服を着ながら アイ「お兄ちゃん・・・    僕も空を飛んでみるよ。」      アイ、テ−ブルに乗り、両手をバタバタさせながら飛び下りる行為を何度も繰り返す アイ「僕には翼がない・・・    それでも僕ははばたき続ける・・・    飛ぶんだ・・・    飛ぶんだ・・・    モグラだって空を飛ぶんだ!」      アイ、そのうちに疲れてうつ伏せになりながら、それでもはばたくフリ アイ「僕には翼がない・・・    それでも・・・    僕ははばたき続ける・・・」  母「アイちゃん・・・」      動かなくなったアイに、いつからか見ていた母は毛布をかけてやる       夜がふける       いろんな音が断続的に流れたかと思うと「演劇部」と書かれた部室の扉(開いている)の前で、スズが大量のカセットテ−プやMDをかけて聞いている       そこへマユがやってくるとスズは作業中断 マユ「おー、わりいわりい。」 スズ「ずいぶんかかったねー。」 マユ「いやー、ジョンナムの奴なげーんだ、話が。」 スズ「誰、それ?」 マユ「知らね?    ウチとこの担任。」 スズ「それは知ってるけど、何で(ジョンナムなの)?」 マユ「似てんだろ?    あの、オタクっぽいとことか。」 スズ「いや、あの、ジョンナムって・・・(一体、誰)」 マユ「えー、ジョンナム知らねえの?    オメエ、あのキムジョンナムだぜ?」 スズ「知らないけど。」 マユ「そっか、知らないか・・・    つーか、ま、フツーの女子高生は知らなくて当然だけどな。」 スズ「だから、誰よ、それ。」 マユ「キムジョンイルの息子。」 スズ「何で、そんなマニアックな・・・」 マユ「こないだ、ニュースで出たろ?」 スズ「聞いたような気はする。」 マユ「ま、俺は知らねえけど、見てたクラスの連中がさ、ソックリだって。」 スズ「あんたらの担任と?」 マユ「そ。    だから、以来ジョンナムって呼んでる。」 スズ「その人を知らないだけに何も言えない。」 マユ「でな、ジョンナムの奴話がなげーのなんの。」 スズ「ずっと話してたの?    1時間も。    面接で。」 マユ「なっげーだろ。」 スズ「そんなんじゃ、クラスの面接終わらないんじゃない?」 マユ「いや、俺だけ特別なげーんだな、これが。」 スズ「そんなに話すことがあるんだ?」 マユ「ねえよ!    な、どう思う?    もしかして、ジョンナムの奴俺に気でもあんのかな?」 スズ「それはない。」 マユ「断言すんなよ。    な、俺って見た目イケてるだろ?」 スズ「しゃべんなきゃね。」 マユ「何か視線をムネのあたりに感じるんだよな。」 スズ「それは気があるのとは違うと思う。    ただのスケベ。」 マユ「で、そのイヤラシイ視線で俺を見ながら、長々と話すわけだ。」 スズ「私なんか5分で終わったけど。    進路のこと聞かれて、あと、どのくらい勉強してますか、とか、その程度。」 マユ「だろ?    ジョンナムの奴何話したと思う?」 スズ「あの先生、いろんな事聞くんだ?」 マユ「いきなりさ、スカートが短か過ぎる、とか、マスカラ付けてる、とかピアス付けてる、とかグチグチ言い出して、話の終わりにゃ、色の付いた下着を着るな、スケて見える、何て言い出すんだぜ。    オメエはヘンタイかっ、つうの。」 スズ「それはマユが悪いと思うけど・・・」 マユ「先生の言うことじゃねえだろ。」 スズ「いや、フツーに校則違反だから。」 マユ「黒い下着を着ちゃいけねえって校則があるのか!」 スズ「黒はやめなよ。    黒いパンツはヤバイでしょ。」 マユ「パンツは見えねえよ!    アホ!」 スズ「そんな怒らなくても。」 マユ「ピンクならいいのか!」 スズ「まだ許せると思う。」 マユ「黄色は?    青は?    赤ならどうだ!」 スズ「信号機みたいだね・・・    あ、でもホントにスケて見えてるよ、ムネのとこ。」 マユ「どわーっ!    早く言えーっ!」 スズ「マユーッ!    帰って来てー。」 マユ「あっちゃー。    ホントにスケてるとは思わなかったな。」 スズ「花柄だね。」 マユ「うっせーよ。    あ、オメエ俺に変な気起こすんじゃねえぞ。」 スズ「そういう趣味はないって。」 マユ「ちなみに花柄じゃねえ。    これはピンクのクマ柄だ。」 スズ「パンツもクマさん?」 マユ「言えるかっ!・・・    しかしこういうのって、面と向かって注意するもんなのか?」 スズ「シャツが出てる、とか鼻毛が出てる、というのと次元が違うもんね。」 マユ「鼻毛はしないだろ!」 スズ「まあ男の先生としては、精一杯の勇気を振り絞った注意だと思う。」 マユ「1時間ずっと見てたって事だぜ。」 スズ「それくらい注意する決断ができかねたんだよ。」 マユ「あのヤロー・・・(怒りに震えるマユ)」 スズ「注意したってすぐ直せるもんでもないし。」 マユ「それにだ、何だって俺のことをそんなにチェックしてやがんだ。」  スズ「そりゃ担任だから。」 マユ「俺に気があるとしか思えねえだろ。」 スズ「違うって・・・    マユってそっち方面じゃ有名人なんだよ。」 マユ「どっち方面だよ。」 スズ「だから、服装が乱れてる人、化粧がケバイ人、ついでに派手な下着を着けてそうな人の校内ランキング1位だって。」 マユ「誰が決めたんだ、そのランキング!」 スズ「見たまんまだもん。    みんなそう思ってるよ。」 マユ「下着なんか見えねえだろ!」 スズ「だから着けてそうって・・・    何だ、クマさんか。」 マユ「てめえ、ぶっ殺すぞ!」 スズ「はいはい落ち着いて。    一緒に目をつぶって5まで数えよう。」      2人ともしばらく目をつぶる マユ「何かオメエ、俺との付き合い方よく知ってんなあ。」 スズ「そりゃ長い付き合いですから。    で、服装だけで1時間も話したわけじゃないんでしょ?」 マユ「ああ。    ま、いろいろ説教されたよ。」 スズ「特別なこともないのに、先生に1時間も説教させるマユは、ある意味すごいと思う。」 マユ「説教だけじゃねえよ!」 スズ「ごめん。    やっぱ進路のこととかも聞かれた?」 マユ「あれ?」 スズ「もしかして、進路の話なかったとか?」 マユ「えーっと・・・」 スズ「それって凄くない?    3年のこの時期に、担任と1時間話して進路の話ゼロってのは。」 マユ「えへへっ・・・    そうかな?」 スズ「笑い事じゃない気がする。    しかも、ブリッコ。」 マユ「だーっ!    ジョンナムのバカヤロー!」      マユ、その辺にあったハリボテか何かに当たる スズ「スッキリした?」 マユ「ああ。」 スズ「それは良かった。」 マユ「かなり、スッキリした。」 スズ「それじゃ片づけ手伝ってよね。」 マユ「おお、そうだそうだ。    で、仕事の進み具合はどうかね、演劇部部長君。」 スズ「部長って言わないでよ。」 マユ「引退出来ないんだから、しょうがないだろ。」 スズ「部長の私に向かってエラソーな口を利くアンタは何なのさ。」 マユ「部長の上?    じゃ、社長ってことで。」 スズ「あー、もう、冗談はこのくらいにして。    いきなりこの音響関係で行き詰まってるんだから。    マユも一緒に聞いて。」      スズ、中断していた音響テープ類のチェックを再開する マユ「これ全部聞くのか?    日が暮れるぞ。」 スズ「中身わかんなきゃ(捨てられない)。」 マユ「どうせもう関係ないっちゅうに。」 スズ「あ、これ・・・」 マユ「1年の文化祭ときか・・・    うう・・・    ここまでタイトルが出かかっとるのに。」 スズ「オケラ座の怪人だよ。」 マユ「おお、おお。    怪人のテーマ。」 スズ「懐かしい・・・    これチェック。」      スズ、テ−プを取り出すと他と別に置く マユ「それ、どうすんの?」 スズ「持って帰る。」 マユ「意味ねー。」 スズ「思い出だもん・・・    これも、聞き覚えあるね。」 マユ「チンタラやってないで、捨てる捨てる!」 スズ「ナガハマ殺人事件だよ。    私ら入学してすぐん時の。」 マユ「あ、そっか・・・    じゃ、俺これもらうわ。」 スズ「え?    ズルー。」 マユ「だって、あれ俺の初舞台だったし。」 スズ「そうそう。    マユが死体役でデビュ−したんだよね。」 マユ「思い出したいような、思い出したくないような・・・」      スズ、思い出し笑い マユ「急に笑うなよ。」 スズ「ごめん。    思い出しちゃって。」 マユ「思い出さんでいい!」 スズ「タナカ先輩のギックリ腰。」 マユ「だから忘れろ!」 スズ「マユを抱えたら、イテテテッ!って。」 マユ「後でえらい怒られたんだよな。」 スズ「え、そうだったの?マユ怒ったってしょうがないのに。」 マユ「だろ。    お前、もっと抱えやすくなるように協力しろって。」 スズ「協力しようがないよね。」 マユ「さすがにあれはちょっとショックだった。」 スズ「マユにも純情だった時代がある、と。」 マユ「実は、あれで俺ダイエットする決心をした。」 スズ「それ初耳。」 マユ「俺さあ、夢があるんだ。」 スズ「へえ。マユが?」 マユ「笑うなよ。」 スズ「ごめん。    無理っぽい。」 マユ「じゃ、言うのやめた。」 スズ「あ、ウソウソ。    絶対笑わないから。」 マユ「絶対だな?」 スズ「絶対。」 マユ「誰にも言うなよ。」 スズ「言わないって。」 マユ「将来さあ・・・    結婚・・・    するだろ。」 スズ「う、うん。」 マユ「あ、今、笑ったな。    結婚っちゅうとこで。」 スズ「笑ってないって!」 マユ「思いっ切り笑ってるじゃねえか!」 スズ「ごめんなさい。」 マユ「い、いやま、そんなかしこまって謝られてもなあ・・・」 スズ「じゃあ教えて。」 マユ「態度を変えるな!    もう言わん。    絶対言わん。」 スズ「言っちゃった方がいいよ。」 マユ「何で?」 スズ「せっかく言う気になってたのに言わないと、後で後悔するよ。」 マユ「しねえよ。」 スズ「勇気が出た時にコクらないと、結局そのままになって後悔する。」 マユ「何の話だよ。」 スズ「心当たりがあるくせに。」 マユ「話を変えろ!」 スズ「あ、じゃあ、便秘の時って、出そうで出ないじゃない?」 マユ「変え過ぎだっちゅうの。」 スズ「出そうな時に出しとかないと、後から出なくなって後悔するぞ・・・」 マユ「話が汚ねえよ。」 スズ「ごめん。    調子に乗っちゃった。」 マユ「いやいい。    話す気になった。」 スズ「ホントにい?    マユって便秘?」 マユ「オメエ、俺の話す気なくそうとしてんのか?」 スズ「そういうわけじゃないから。    教えてよ、マユの夢。」 マユ「とにかく結婚すんだよ。    ○○○○みたいな人と。」 スズ「○○○○?    それは無理。」 マユ「みたいな男だよ。    ま、俺みたいな美少女はイケメンじゃないと釣り合わねえから。」 スズ「それで?」 マユ「そしたら、結婚式して、その夜に・・・」      マユ、立ち上がってスズを抱える(又は抱えようとする) マユ「・・・こういう風に運んでもらうのだ。    ベッドまで。」 スズ「それでギックリ腰じゃ、シャレにならないわね。」 マユ「だろ?」 スズ「で、ダイエットの効果あった?」 マユ「全然。    かえって太った。」 スズ「私も太った。」 マユ「1年ときは、まだ部活で走ったりとかしてたからなー。」 スズ「2年ときがね。」 マユ「結局1度も公演出来なかったもんな。」 スズ「3年のぞいたらアイと3人だけになっちゃったから。」 マユ「アイはあの調子だし。」 スズ「仕方ないよ、心臓良くないんだから。」 マユ「でもなあ、いつもいつも公演直前とかに寝込んでくれなくてもいいと思わねえか?    もうちょっと根性出してくれても・・・」 スズ「根性で病気は治らないよ。」 マユ「あいつ心臓が悪いって言っても、体育出来ないくらいだろ。    ほかの事は普通に出来るんだし・・・」 スズ「どっちにしても、もうアイの事言ったって・・・」 マユ「そうだよな。」      スズ、しばらく止めていたテ−プ聞きを再開し スズ「これこれ。    1年の大会のやつのラストシ−ン。」 マユ「あったな・・・」      いかにも感動のラストシ−ンという感じの音楽が流れる スズ「キミエ先輩がさ、本番でホントに泣いてたんだ。」 マユ「ああ。    知ってるよ。」 スズ「私も、袖で見てて・・・」 マユ「泣くなよ。」 スズ「泣かないよ。」 マユ「泣くような奴を手伝ってらんねえよ。」 スズ「だから泣いてなんかいないって!」 マユ「俺だってさ・・・(泣きそうなんだよ)」      先生現れる       スズ、あわてて音楽を止める 先生「あ−ら、元演劇部さん、少しは片づいた?」 スズ「先生。    お久しぶりです。」 マユ「目一杯イヤミですか。」 スズ「まだ元じゃありません。」 先生「おんなじようなもんでしょ。」 マユ「先生、どっか転勤じゃなかったんですか。」 先生「顧問にむかってずいぶんな言い方ね。」 マユ「え−と、4月、5月、6月、7月・・・    何しろ、3年になって4か月目で始めて先生を見ましたから。」 スズ「先生、何の用ですか?」 先生「用がなかったら顧問が来ちゃいけないのかしら?」 スズ「そりゃそうですけど・・・    でも用があるんでしょう?」 先生「あなたどうしたの?    今日は妙に鋭いじゃない。」 スズ「だって先生が来られるのは、用がある時だけです。」 マユ「それもロクな用じゃない。」 先生「そうかしら?」 スズ「そうです。    前の時は、後1年活動がなかったら廃部ですって、わざわざ確認書を取りに来られました。」 先生「あなたたち、さっきからおしゃべりばっかりのようだけど・・・」 マユ「ちゃんと片付けてます。」 スズ「夏休みまでには、中カラにしますから。」 先生「放送部の物はないでしょうね?」 マユ「全部返しました。」 先生「放送部で使えるような物があったら、残しといてもいいわよ。」 マユ「そんな物ありません。」 先生「あら、いいのよ。    処分するの大変でしょう?」 マユ「ありません。    全部演劇部の物です。    私らで処分します。」 スズ「先生!・・・    先生は演劇部の顧問じゃないんですか?」 先生「一応ね。    でも本業は放送部の方。」 スズ「放送、放送って、少しは私たちの方も・・・」 先生「だから、来たんじゃないの。」 マユ「4か月ぶりにですね。」 先生「あなたたちねえ、偉そうな事言っても駄目よ。    全然活動してないじゃない。」 スズ「発声練習とか・・・    ずっとやってました。」 先生「校内での発表もない、大会にも不参加、これじゃ活動してないのと同じでしょ。」 スズ「でも!・・・」 マユ「スズ、もういいよ。    先生の言う通りだから。」 スズ「去年はたまたま部員が少なかっただけです!」 先生「今年はどうなの?    新入部員は入ったの?」 スズ「それは・・・    でも、2年前までは活発でした。」 先生「ふうん。    放送部はね、この5年くらい毎年全国大会まで行ってるの。    演劇は何か大会で入賞とかあるわけ?」 スズ「2年前は、地区大会の優秀賞でした。」 先生「県大会に行く所以外は全部優秀賞でしょ・・・    県大会に出た事もないわよね、この所。」 スズ「放送より演劇の方がずっと大変なんです!」 マユ「スズ、やめなよ。    こんな先生相手にする事ないって。」      マユとスズ、先生を無視して、部室からさまざまな物を運び出し始める 先生「うちの学校、昔は10クラスあったのよ。    それが今じゃ5クラス。    どういう事かわかる?・・・    生徒が半分になれば先生も半分になるの。    それに生徒会の予算なんかもみ−んな半分・・・    だからクラブだって半分にしなきゃやっていけないのよ。」      マユとスズ、ひたすら運び出している 先生「大体、うちの学校クラブの数多過ぎるのよね。    だから私なんか2つも顧問持たなくちゃいけない。    アニメ同好部だの、鉄道研究部、室内遊戯研究部、日本野鳥の会・・・」 スズ「そんな変なクラブと一緒にしないで下さい!」 先生「1人2人でア−だのウ−だの言ってるだけじゃ、おんなじ事よ。」 マユ「先生。    もう話終わりだったら帰って下さい。」 先生「あなたたち、悔しくないの?」      マユとスズ、作業の手を止める 先生「こんなにムチャクチャ言われて・・・」 スズ「ムチャクチャ言った後で言わないで下さい。」 先生「コスプレばっかやってるアニメ同好部や、ウノで遊んでる室内遊戯研究部と、同じって言われたのよ。」 マユ「でもそれ、うちに近いものが・・・」 スズ「マユ!」 マユ「あ、冗談っす。」 先生「誰が部室を片づけろって言ったの?」 スズ「生徒会の先生が・・・」 マユ「夏休みまでに、放送部に明け渡してやれって・・・」 先生「どうして顧問に話が来ないのよ。」 スズ「知りませんよ。」 マユ「先生、もしかして校内で浮いてるんじゃないですか?」 先生「誰が浮かしてると思ってるの。」 マユ「えっ?・・・    あ、あの、今のも冗談ですから・・・」 先生「体育館でスモ−ク炊いてスプリンクラ−作動させちゃったり、校内を怪獣の着ぐるみでねり歩いたり、大道具で倉庫を塞いじゃったり、発声がうるさいってご近所から苦情が来たり・・・    一体誰が処理してると思ってんの?」 マユ「先生も大変なんですねえ。」 スズ「最後は迷惑かけませんから。」 先生「あなたたち、どうして私に相談しないの!」 マユ「いや何しろ、4か月ぶりですから・・・」 先生「(せき払い)とにかく、まだ今年一杯は演劇部なんだから。」 スズ「でも、どうせやらなきゃなりませんし。」 マユ「一応受験生ですから、今のうちにやっとく方が・・・」 先生「お黙りなさい!    あなたたちの代で演劇部を潰すつもり?」 スズ「そんな事言われても。」 マユ「手の打ちようないですから。」 先生「2人でも劇は出来ます。    文化祭で上演しなさい。」 スズ「無理ですよ。」 マユ「先生、受験生なんですよ、私たち・・・」 先生「口先だけの受験生が何を言ってるの!」 スズ「そりゃあ、まだあまり勉強してませんけど・・・」 マユ「こいつ痛いとこ突くよな・・・」 先生「受験生なんて偉そうな口を聞くのは、1日10時間勉強してからにすることね。」 スズ「先生、10時間は無理ですよ。」 マユ「睡眠時間ならそのくらいオッケ−ですけど・・・」 先生「受験生は1日3時間しか寝なくていいの!」 マユ「授業だけで5時間は寝てるよな・・・」 先生「受験生は10分で食事をすます!    授業中に寝ない!    ケイタイで遊ばない!    枝毛を抜かない!    化粧もしない!    ムダ毛の処理もしない!」 マユ「先生、誰に言ってるんですか。」 スズ「全部、あんたによ。」 先生「それからね、スカ−ト短くしない!    ピアスをしない!    爪を塗らない!    △△先生のマネをしない!    教室で□□のメドレ−歌わない!    学校サボってプリクラ撮りにも行かないの!」 マユ「うう・・・(頭を抱えている)」 スズ「先生、マユの事よく御存知ですね。」 先生「これでも受験生だって言い張るつもり?・・・    よくお考えなさい、オッホッホッ・・・」      先生、高笑いしながら出て行く マユ「くそう・・・    オバギャル一直線のくせに・・・」      先生、すぐに戻って来る マユ「地獄耳だ・・・」 先生「何か言った?」 スズ「い、いえ、何も・・・」 先生「あらそう?    期待してるわよ、演劇部の復活をね・・・」      先生、出て行く       マユ、後をつけ先生が向こうに行ったのを確認 スズ「行っちゃった?」 マユ「ああ・・・    悪い先生じゃないんだけど。」 スズ「ちょっとキャラ濃過ぎよねえ。」 マユ「さっき出しちゃったの、どうする?」 スズ「よくこんなガラクタばっか詰まってたもんね。」 マユ「ホント、これなんか何に使ったんだろう?」      マユが背の高い物体を調べていると、先生が後じさりしながら戻って来て、マユと背中合わせでぶつかる 2人「うわあ!」 マユ「な、何やってんですか、先生。」 先生「あれ・・・    あれ・・・」      先生が指さす向こうから、男子の制服を来たアイ登場       暑いのに上着まで着ている アイ「チワ。」 マユ「アイじゃん。」 スズ「今日休んでなかった?」 アイ「昼から良くなったから・・・」      アイ、口をあんぐりと開けている先生の前を通る 先生「ど、ど、どうしたの、その恰好は・・・」 スズ「先生驚き過ぎです。」 マユ「演劇部ですから。サンタの衣装で授業受けたり朝飯前です。」 先生「それとこれとは別でしょう!」 アイ「僕さあ、朝から着て来ようって思ったんだけど・・・」 先生「服装違反よ!・・・    あなたがこんな生徒だったなんて・・・」 スズ「先生。」 マユ「元々こういう奴ですから。」 先生「シマダさん!    何があったの?    悩み事があるんだったら、先生に相談なさい。」 アイ「いえ、別に・・・」 先生「言いにくい事だっていうのは、先生よ−くわかっていますからね。」 アイ「あ、あの・・・」 先生「シマダさん!    先生はあなたの味方ですからね。    絶対に聞いた話を人にもらしたりしませんよ。」 スズ「オ−バ−ですよ、先生。」 先生「黙らっしゃい!    あんたたち、とっとと席を外すのよ!」      先生、マユとスズを強引に引っ張って退場させる 先生「(オ−バ−に声を上げて泣く)シマダさん、ごめんね・・・    先生、あなたがこんなに悩んでるなんて、少しもわからなかった・・・(泣く)」 アイ「そんな大した事じゃないですよ。」 先生「シマダさん・・・    辛いかも知れないけど、先生の質問に、正直に答えてちょうだい。    男の人の服を着たいって思ったのは、いつから?」 アイ「中学入ってから、すぐ・・・」 先生「まあ、何て痛ましい!    小学校の頃は?    まだその症状は現れてなかったの?」 アイ「あの、僕ふたごのお兄ちゃん、いたんですよ。」 先生「あ−!    はいはい、そのふたごのお兄ちゃんが・・・    まあ何て破廉恥な!」 アイ「先生、何か勘違いしてませんか?」 先生「そのふたごのお兄ちゃんが、幼い頃あなたに性的ないたずらを・・・」 アイ「馬鹿な事言わないで下さい!」 先生「違うの?」 アイ「当たり前じゃないですか。」 先生「わかった・・・    じゃお父さんね。    お父さまのお仕事は?」 アイ「大学教授です・・・    医学部の。」 先生「もう完璧だわ・・・    先生と医者は変態が多い・・・」 アイ「いい加減にして下さい!    僕が言いたかったのは、小学校まではふたごのお兄ちゃんとほとんど同じような服だったのに、中学で急に全然違う制服になったんで、ちょっと嫌だなって・・・」 先生「(自分の世界に入っている)お父様は大学の医学部の教授・・・    立派だわ、立派過ぎる肩がき・・・    でもその肩がきが重荷になったお父様は、内に秘めた鬱屈したものを晴らすため、とうとう人の道に外れる事をしておしまいになったのね・・・    あなたはショックだった。   『あの優しかったお父様が、あんな事をなさるなんて・・・    それもこれも、私が女に生まれて来てしまったためなんだわ!』・・・    こうしてあなたは、女を捨てたい、出来れば、男性に性転換したいと・・・    」 アイ「先生。」 先生「はあ?」 アイ「想像の世界で遊ぶのはやめて下さい。」 先生「間違ってたかしら?」 アイ「全然違います。」 先生「そうか、このパタ−ンは違うのか・・・    う−んと、ちょっと待ってちょうだい。」 アイ「僕、もう先生に用ないですよ。」 先生「わかったわ!」 アイ「何がわかったんですか?」 先生「あなた、中学の制服が男女で違うのが嫌だったって言ったわね。」 アイ「言いましたけど。」 先生「鋭いわ!    あなた、フェミニズムの論者たちが今まさに問題視している、学校における性差別を中学生の段階で見抜いていたのね。」 アイ「そんなオ−バ−なもんじゃないですよ。」 先生「日本の学校は、暗黙のうちに男女の差別というものを子供たちの心に植え付ける働きをしています。    名簿がそうです。    男が先で女が後、というのが当然だという意識はまず学校で・・・」 アイ「あのう、だからうちの学校男女混合名簿に変わったんじゃないですか?」 先生「あなたやっぱり素晴らしい感覚の持ち主ね・・・    しかし、学校にはもっと深刻なもっと根強い性差別の発動装置があります。    それが男女別の制服です。」 アイ「僕、別にそこまで考えたわけじゃありません。」 先生「(自分の世界に入っている)あなたは中学に入ってすぐに思った。    『どうして男の子はズボンなのに、女の子はスカ−トはかなくちゃいけないの?』    注意して見ると、何もかも女の子のスカ−トは男の子のズボンより不利な事ばかりです。    運動には向きません。    冬は寒いです。    風が吹けばめくれます。    階段の下からのぞかれます・・・    こうしてスカ−トをはかされる事によって、女の子はおとなしく、行儀良くして、体を動かす事は男の子にまかせて、細かい仕事をやりなさいという、性別役割分担の考え方を・・・」 アイ「先生、もういいですか?」 先生「シマダさん!(両手でアイの手をとる)    先生、応援してるからね!    誰が何と言おうと頑張って男の子の制服を着続けるのよ!    日本社会の男女差別撤廃のために!」      先生、アイと固く握手を交わすと去って行く       様子を見ていたマユとスズ戻って来る マユ「やっと行ったか。」 スズ「大変だったね、アイ。」 アイ「全くだよ。」 マユ「その制服、誰に借りたの?」 アイ「お兄ちゃん。」 スズ「ふたごのお兄ちゃんがいるなんて、始めて知ったわ。」 アイ「・・・今はいないんだ。    よそに行ってるから。」 マユ「一緒に住んでないの?」 アイ「お兄ちゃんも生まれつき心臓が弱いんだ。    だから、田舎の空気のいい所に行ってる。    医者がさ、何年か転地療養すれば大人になる頃には良くなるって言うから。」 スズ「アイは行かなくていいの?」 アイ「お兄ちゃんの方が症状重かったから・・・」 マユ「あ、それで今度アイも引っ越すんだ。」 アイ「そういう事・・・    どうしたの?このガラクタの山。」 スズ「部室の片付け。」 マユ「演劇部出てかないといけないんだ。」 アイ「・・・ねえ演劇部潰さないでよ。」 スズ「先生と同じ事言ってる。」 マユ「出て行く人間は気楽でいいけどさ。」 スズ「そんな言い方、アイに悪いよ。」 マユ「大体、去年1度も公演出来なかったんだって・・・」 スズ「マユ!」 アイ「ごめん。    僕もこんな事言えた立場じゃないって良くわかってるんだ。    だけど・・・」 マユ「今日はもう片付けよう。」 アイ「僕、学校にこの恰好で来るの、結構勇気いったんだ。」 スズ「でしょうね。」 アイ「前々からやってみたかったんだよ。    でも勇気がなくって・・・」 マユ「何が言いたいんだよ。」 アイ「でもやってみたらさ、意外とすんなり行くもんだなって・・・」 スズ「確かに、そう違和感ないよね。」 アイ「だから、何でも出来ないってあきらめるんじゃなくて、とにかくやってみたらどうかなって・・   ・」 マユ「回りくどい事やってんじゃねえよ。    そんなら朝から着てくりゃいいだろうが!」 スズ「もういいじゃない・・・    ねえ、アイの送別会しないといけないね。」 アイ「いいよ。    休み入ったらすぐだから。」 スズ「もう1週間もないじゃない!」 アイ「じゃあ、もし良かったら明日の夜僕んち来てくれない。    渡したい物があるんだ。」 スズ「行く行く!・・・    マユも来るでしょ。」 マユ「・・・考えとくよ。」 アイ「(咳き込む)ごめん、又ちょっと調子が・・・」      アイ、帰って行く マユ「何なんだよ、あいつ。」 スズ「喧嘩する事ないのに。    どうせ後ちょっとの人と。」 マユ「あいつ、何か都合悪くなると体調も悪くなると思わないか?」 スズ「考え過ぎだよ。」 マユ「去年だって・・・」 スズ「いくらマユでも言い過ぎよ!」 マユ「・・・片付けやっちゃお。」 スズ「ねえ。」 マユ「日が暮れるから。」 スズ「やってみない、2人で公演。」 マユ「無理だってわかってんだろ。」 スズ「1人芝居なら・・・」 マユ「よく考えてみなよ。    キャスト1、照明1、これで終わりだよ。    それに1人芝居ったって、どこにその脚本があんだよ。」 スズ「アイも言ってたじゃない。    とにかくやってみればって・・・」 マユ「あいつの言う事なんか、聞いてらんないよ。」 スズ「・・・マユはいいよね。    何回もキャストで出てるもん。」 マユ「スズ・・・」 スズ「私1回でいいから舞台に立ってみたかった。    でも声も小っちゃかったし、演技だって下手ってわかってたから、いつも裏方の仕事・・・    キャストがサボったって、私は1回も発声しなかった日はなかった・・・」      スズ、1人で立って声を出す マユ「やめろよ。」      スズ、やめない マユ「やめろって言ってんだろ!」      マユ、スズを抱え込むようにして、発声をやめさせる スズ「始めっから役もらってさ・・・    なのに練習はいっつもいい加減。    あんたなんかに、私の気持ちなんわかんないわよね!」 マユ「わかってたよ。」 スズ「嘘ばっか。」 マユ「よくわかってたって言ってんだよ!・・・    スズはさ、いつも一番公演やりたがってた。    1人だけでも毎日発声してた。    なのに、いつもアイが直前でダウンしちゃってさ・・・    だから、俺はあいつに腹立ててるんだよ・・・」 スズ「病気の人を責めて恥ずかしくないの?」 マユ「いつもそうだ・・・    スズはいつもアイの事かばってよ・・・    去年の大会なんか本当はアイがいなくても、無理すりゃ上演出来たんだよ。    でも、オメエがアイと一緒じゃなきゃ駄目だって、言い張りやがって・・・」 スズ「当たり前じゃない・・・    アイも一緒に頑張って来たんだから・・・」 マユ「だけど俺は知ってる・・・    スズ、オメエ上演しないって決まった後、トイレにこもってずっと泣いてただろ・・・    あれがオメエの初舞台だったんだから。」 スズ「マユ・・・」 マユ「やりたいよ!    俺だって出来るもんだったら、オメエを舞台に上げてやりてえんだよ!・・・    でもな、俺馬鹿ばっかやってっけど、ホントはメチャ焦ってる。    このまんまじゃ、俺卒業しても行くとこねえし・・・」 スズ「私だって一緒よ。」 マユ「スズはそこそこ勉強出来るからいいよ・・・    中途半端なんだよな。    今だって受験勉強なんかやってないんだし、その気になっても自分がそんなガリ勉なんて出来っこないって、よくわかってる・・・    でもな、やっぱふんぎり付かないんだよ!    こんな気持ちじゃ、絶対劇なんか出来ない・・・」      マユとスズ、暗く落ち込んでいる       夜になる       アイの部屋である       家にやって来たマユとスズ、小テ−ブルで母と話している  母「・・・本当に申し訳ありません。」 マユ「もう出発したって・・・」  母「はい。    今日のお昼に・・・」 スズ「渡したい物があるから、今晩来てくれって言われてたんですが。」  母「絶対誰にも会わずに出発すると言い張っておりましたので。    察してやって下さい。」      母、写真立てをマユとスズに見せる マユ「ふたごのお兄さんですか?」  母「お兄ちゃんの事まで話しておりましたか?」 スズ「昨日始めて聞きました。」  母「お兄ちゃんも、去年アメリカに参りまして・・・」 マユ「アメリカ?」 スズ「空気のいい田舎に行かれたんでは・・・」  母「アイから、あなたたちだけには話しておいてくれ、と言われております。    友達だからって・・・   」 マユ「な、何か変わった事でも?」  母「病気の事は聞かれましたか?」 スズ「転地療養すれば、そのうち治るとか・・・」  母「学校にはそう申しております。    でも、本当は治らないんです・・・    長くもって後2年・・・    もし助かるとしたら、他の方の心臓を頂いて移植するしかありません・・・    父親の大学病院に手配してもらって、アメリカで生態移植の手術を受ける事に・・・」 マユ「あの、凄いお金かかるやつですか?」 スズ「マユ!・・・    治るんですか、移植すれば?」  母「・・・いいえ、成功の確率はとてつもなく低い。」 マユ「そんな!」  母「私が言うのもなんですが、一種の研究材料なんです・・・    もし成功すれば、医学界では大ニュースなんだそうです。」 スズ「・・・ひど過ぎます。」  母「お兄ちゃんは去年手術を受けにアメリカへ渡りました・・・    でも戻っては参りませんでした。」 マユ「アイは、そんな危険な手術を受けに行ったんですか?」  母「・・・ええ。    家族で毎日のように話し合いました。    とりあえず今の生を生きるのか、とてつもなく危険な手術であっても、それにかけてみるのか・・・    お兄ちゃんもアイも・・・(涙ぐむ)    私は子供たちを誇りに思っておりますよ。    たとえ他の方が何とおっしゃいましょうとね。」      母、立ち上がって紙束を持って来て、マユとスズに渡す  母「アイは、これを渡してくれと・・・」 マユ「『モグラのうた』・・・」 スズ「原稿だ・・・    一人芝居の・・・」 マユ「ある日モグラは・・・」  母「アイちゃん!」      母の驚いた視線の先に、アイの幻影が アイ「・・・僕にはつばさがない・・・    それでも僕ははばたき続ける・・・    飛ぶんだ・・・    飛ぶんだ・・・    モグラだって空を飛ぶんだ!」      アイ倒れて動かなくなり幻影は消える マユ「アイ・・・    あんたモグラなんかじゃないよ。」  母「いいえ、モグラよ。」 スズ「お母さん・・・」  母「アイちゃんも、お兄ちゃんも・・・    いいえ、私もあなたたちも、人間はみんなモグラだと思うのよ。」 マユ「でも、モグラだって空を飛びたい・・・」      暗くなり「翼を下さい」流れる       明るくなり翌日の学校 途中で、歌とマユ、スズの発声の声が同時に流れる       音響が消え 発声も終わる       マユへたり込む マユ「あ−、しんど。」 スズ「発声だけで、だらしないよ。」 マユ「受験生は体力落ちんだよなー。」 スズ「少しは体絞らないと、ダンナさんギックリ腰になっちゃうよ。」 マユ「大丈夫、大仁田厚みたいな人と結婚するから。」 スズ「○○○○と全然タイプが違うじゃない!」 マユ「でもマジ、これじゃモグラと変わんねえよ・・・」 スズ「ねえ、モグラって飛べるかなあ?」 マユ「飛べるわけねえだろ。」 スズ「でも、飛んでみたいよね。」      先生、現れる 先生「あ−ら、発声練習とはずいぶん珍しい事もあるものね。」 スズ「先生。」 マユ「あのう、先生にお願いがあるんですが・・・」 先生「シマダさんから頼まれたわ。    音響に人を貸してくれって。」 スズ「お願い出来ますか!?」 マユ「誰か放送部の人でも・・・」 先生「聞いて驚かないでね・・・    私がやってあげる。」 2人「え−っ!?」 スズ「先生、音響の機械いじれるんですか?」 マユ「たしか、電子レンジも使えないというウワサが・・・」 先生「演劇部兼放送部の顧問、だてに10年もやってるんじゃないのよ。    私に出来ない筈がないでしょ!   」 2人「お願いします!」 先生「そうと決まったら、へたり込んでないで練習、練習!」 2人「はあい。」 マユ「それじゃ、読み合わせいきます・・・    はい。」 スズ「僕には翼がない・・・    それでも僕ははばたき続ける・・・    飛ぶんだ・・・    飛ぶんだ・・・    モグラだって空を飛ぶんだ!」      「翼をください」のサビがながれる       〜おしまい〜  ---------------------------------------------   以上、いかがでしたでしょうか?   よろしければ下記のページより、感想を御記入下さい。   もちろん、叱咤激励なんでもかまいません。   作者の方の励みにもなりますので・・・    http://haritora.net/bbs/?type=2522   また、下記ページから作品の評価登録も可能です。(要登録)    http://haritora.net/critic/member/look.cgi?script=2522  それでは、今後とも『はりこのトラの穴』をよろしくお願いいたします。