「僕たちのクリスマスキャロル」  中島清志 作   〔キャスト〕♂1名 ♀4〜13名      ♂ カサマヨシオ(カサマ金融社長)      ♀ サクマルリコ(カサマ金融社員)      ♀ サクマユミ(ルリコの娘)   /フュ−チャ−(未来の精霊)/女2 /主婦C      ♀ パ−スト(過去の精霊)    /恋人(ヨシオの恋人)   /主婦A/通行人      ♀ プレゼント(現在の精霊)   /母(ヨシオの母)     /女1 /主婦B      清らかなクリスマスソング(「聖しこの夜」とか)が流れる中開幕       サクマ家の質素な部屋の中である       布団で寝ているユミにルリコ絵本を読んでやっている ルリコ「・・・その時素敵な王子様が現れて少女を助けてくれました。     こうしてマッチ売りの少女は王子様と一緒に末永く幸せに暮らしました。」  ユミ「え、ママ、違うよ。     マッチ売りの少女はクリスマスの朝に死んで天国に行っちゃうんだよ。」 ルリコ「でも、マッチ売りの少女が幸せになった方が素敵でしょ?」  ユミ「うん。」 ルリコ「神様はね、どんな人にも必ず幸せを下さるのよ。」  ユミ「ユミ、元気になってお友達と遊べるようになるかな?」 ルリコ「もちろんよ。     ユミちゃんがいい子にしていればね。     神様はいつでもよく見ていらっしゃいますから。」  ユミ「ねえママ。     もう1回読んで。」 ルリコ「はいはい・・・     雪がふっていました。     さむい、さむい、クリスマスイブの夜です。     マッチはいかがですか。     マッチを買ってくださいな。     一人の、まずしいみなりの女の子が、町の通りをとぼとぼと歩きながら・・・」      ユミが眠ってしまったので、ルリコは本を閉じると、ユミの頬におやすみのキス ルリコ「ユミちゃん・・・     おやすみなさい。」      FO       陽気なクリスマスソング(「あわてんぼうのサンタクロ−ス」とか)が流れる       FI 何もない明るい空間で精霊トリオがダベっている  パ−「あぢ−。」 フュ−「もう、なんでク−ラ−ないの。」  プレ「ほら、そんな文句ばっか言ってたら・・・」  パ−「神様に怒られるって?」 フュ−「プレちゃん、いい子ぶってんだから・・・     暑いよう!     オ−、マイ、ガッド!」  パ−「ホント、この暑さは異常よね。     神も仏もあるもんかっつ−の。」  プレ「罰当たりな事言っちゃって。     こんな所神様に見られたら・・・」 フュ−「よく見せてやりゃいいのよ。     可愛い部下がどれだけ暑さで苦しんでるのか。」  パ−「オ−ストラリアだ!     ゴ−ルドコ−ストだ!     って、リゾ−ト気分で来たのが間違いだったわ。」 フュ−「な−んにもない上に、ただひたすら暑いだけ。」  パ−「大体このあたり人なんか住んでないじゃん。」 フュ−「ほら、あそこの羊なんか熱中症で倒れてるよ。」  パ−「ク−ラ−の一つもないんだったら、冷えたビ−ルでも、ジョッキで持って来い!って言うの!」  プレ「もう、わかったからあんたたち、スカ−トでバタバタやらないの。     女子校じゃないんだから。」  パ−「プレちゃんはいいよね。」  フュ−「短パンだもん。」  プレ「だからって、そんなにスカ−ト短くしちゃって・・・     精霊学校の服装検査で引っかかるんだからね。」  パ−「はいはい。」 フュ−「わかりました、リ−ダ−さん。」  プレ「全く口ばかりなんだから。     どうしていつもいつもあんたたちの服装違反で、私が天使にぶつくさ言われなきゃならないのよ。」  パ−「確かに去年の担任の天使は口うるさかったね。」 フュ−「そうそう。     『何ですか、あなたたち!     お化粧したり耳に穴開けたり、半人前の精霊のくせして、一丁前に色気付くんじゃありません!』     これだもん。」  パ−「あんなヒステリ−だから、お嫁に行けないんだよね−。」 フュ−「人の注意する前に、自分の事何とかしろよ!って言ってやりたかったわ。」  パ−「でも今年の天使はオジサンだから大丈夫よ。」 フュ−「そうそう。     女の子には甘いんだから。」  プレ「いくら優しい天使だからって、それに甘えちゃ駄目じゃない。」  パ−「プレちゃん、違う違う。」 フュ−「あの人、ただスケベなだけよ。     顔見たらわかるでしょ。」  パ−「だから−、スカ−ト短いのはぜ−んぜんオッケ−。」  プレ「・・・確かにこの制服、うちの天使の趣味だよな。」  パ−「でもホント、下っぱの精霊って辛いよねえ。」 フュ−「全くだわ・・・     ねえ、パ−ちゃん。」  パ−「誰がパ−よ。」 フュ−「パ−はパ−でしょ。」    パ−「私はパ−ストって名前なんだからね。」 フュ−「だからパ−ちゃんでいいじゃん。」  プレ「もうやめてよ。     何回その話でもめたら気がすむの?」  パ−「だって、こいつムカツクから・・・」  プレ「はい、もうおしまい。     あなたは過去を司る精霊のパ−スト。     あなたは、未来だからフュ−チャ−。     そして私は現在のプレゼント。これでいい?」  パ−「二度と省略して呼ぶんじゃないよ。」 フュ−「はいはい。     わかりました、パ−スト様。」      パ−ストとフュ−チャ−、お互いにフン!と顔を背ける  プレ「もう、あんたたちどうして仲良く出来ないの?     ねえ、フュ−ちゃん、さっき何か言いたかったんじゃない?」 フュ−「そうだった。     ねえ、昨日の男ってサイアクだったよね−。」  パ−「そうそう。     自殺未遂って言うから行ってみたら・・・」 フュ−「死ぬ気なんかまるでないのに、家族の気を引きたかったから、なんてねえ。」  パ−「小学生のガキじゃあるまいし。」 フュ−「腹の出た中年のオヤジのくせして。」  パ−「おまけにチビで頭も薄いと来てる。」 フュ−「お前なんか羊に蹴られてとっとと死んじまえ、っての。」  プレ「あんたたちねえ・・・     そんな事じゃいつまでたっても天使になれないわよ。」  パ−「もう、こんな仕事ヤだよ。」 フュ−「又追試になったら、どうしよう?」  プレ「今年は追試ないんだって。」  パ−「な−んだ。」 フュ−「心配するんじゃなかった。」  プレ「何言ってるのよ。     追試ないって事は有無を言わさず留年よ。」  パ−「え−っ!?」 フュ−「留年って何?」  プレ「来年も又、この3人で仕事しろって事よ。」  パ−「それってサイアク−。」 フュ−「私、来年はかわいい男の子と仕事したいのに。」  プレ「それが嫌だったら、今日の仕事納めは絶対に成功させるの。     天使の指令を受けた人間を、必ず正しい道に悔い改めさせてあげるのよ。」  パ−「私たち、牧師さんじゃないのに。」      携帯電話が鳴って、プレゼント出る       パ−ストとフュ−チャ−はへたり込んでスカ−トをバタバタやり始める  プレ「はい、もしもし・・・     い、いえ、とんでもありません、みんな仲良く仕事に励んでいます・・・     え?     暑いなんて滅相もない・・・     そうです、みんな可愛いコスチュ−ムだって喜んで着ていますから・・・     はい。     えっ!?     間違いですって?・・・     わかりました、本通り3丁目のカザマ金融ですね・・・     いえいえ、ちょっとリゾ−ト気分で、いい気分転換になりましたから・・・     はい、私たちにおまかせ下さい。」  パ−「又、あのスケベ天使から?」  プレ「陰口叩かないの。」 フュ−「だってあの人精霊のコスチュ−ム、やたら露出させたがるんだよ。」  パ−「フュ−ちゃんなんか、アシ太いのにさ。」 フュ−「あんたに言われたかないわよ!」  プレ「まあまあ、夏場なんだから仕方ないでしょ。」  パ−「もう、こんな暑いんだったら水着になってやるんだから!」 フュ−「おなかのぜい肉取ってからにしたら?」  パ−「言ったわね!」  プレ「まあまあ・・・     残念だけど水着はおあずけよ。     私たち派遣先間違えてたんだって。」 フュ−「何それ?」  パ−「まさか・・・」  プレ「北半球と南半球間違えてたって。     今から日本に行かなくちゃならないの。」 フュ−「あの野郎・・・」  パ−「おかしいと思ったのよ。     なんでこんな人のいない所に派遣されたのかって。」 フュ−「ねえ、日本ってことは、今真冬だよね。」  パ−「こんなカッコじゃ寒いよ!」 フュ−「せっかく今年は水着のサンタさんに会えると思ったのに。」  プレ「暑いだ、寒いだって文句ばっか言ってんじゃないのよ。     精霊学校退学したくないんだったら、黙って私の後について来るの!」 フュ・パ「はあい。」      パ−スト、フュ−チャ−、しぶしぶ立ち上がるとプレゼントの後について下手に去る       FO ヨシオが電話で話している 途中でFI ヨシオ「カワカミさん、お忘れじゃないでしょうね・・・     え、何をおっしゃっているんです?     人にお金を借りるとね、利息というものがつくんですよ、利息がね。     契約の時に確認したでしょう・・・     あなた、こんな簡単な計算も出来ないんですか?     二百万ですよ、二百万・・・     うちみたいに個人でやってる所はね、無理してお貸ししてるんですから、それなりのご利子は頂きませんと・・・     うちはそんな暴力金融じゃありませんから、手荒なマネはしませんよ、ちゃんと返してさえ頂ければね・・・     まあこちらも商売ですから、何らかの法的手段は取らせて頂く事になりますなあ・・・     いえいえ、それじゃあ頼みましたよ、カワカミさん。」      カサマ金融の事務所である       ヨシオは机で電話       事務員のルリコは拭き掃除していたが、ヨシオが電話中、「法的手段」と言う言葉をしゃべった時に湯飲みを落として割ってしまい、懸命に後始末している ルリコ「申し訳ありません。     社長さんのお湯飲み・・・」 ヨシオ「似たようなのを、買ってくればいい。」 ルリコ「はい。     ではすぐに・・・」 ヨシオ「正月明けでいいよ。」 ルリコ「でも・・・」 ヨシオ「いいと言ったらいいんだよ!     休み明けに買って来たら、伝票を回して下さい。     あなたの給料から7倍の額を引いておきましょう。」 ルリコ「な、7倍?」 ヨシオ「あなたのおかげで1週間お茶を飲めなくなるんですから。」 ルリコ「そんな!」 ヨシオ「百円ショップで買ってくればいいんですよ。」 ルリコ「はい(ニッコリ笑う)。」 ヨシオ「あなたのような貧乏人から何万円も取ったりはしませんよ。     私はただ、お金について曖昧にしておきたくないだけです。」 ルリコ「社長さん、法的手段って?」 ヨシオ「そりゃ、家や工場の差し押さえとか・・・」 ルリコ「私、カワカミ鉄工さんには昔お世話に・・・」 ヨシオ「ほう?     借金でも残っていらっしゃる?」 ルリコ「いえ、お金の関係では・・・」 ヨシオ「だったら余計な口出しはなさらない事ですね。」 ルリコ「すみませんでした。」 ヨシオ「ところで、今日はずいぶん暖かいですね。」 ルリコ「はい。     社長さんが出社される前に、しっかり暖めておきました。」 ヨシオ「あなた、何時に来られたのですか?」 ルリコ「12時前に・・・」 ヨシオ「それからすぐに暖房を入れたのですね。」 ルリコ「はい。」 ヨシオ「サクマさん、勤務時間は1時からですよ。」 ルリコ「ごめんなさい。1時間分の暖房費を給料から引いて下さい。」 ヨシオ「おいおい、私もそこまでケチじゃないよ・・・     ただ。」 ルリコ「ただ?」 ヨシオ「ただ働きなんかおよしなさい、って言う事です。     そんなヒマがあるんでしたら、よそで仕事をお探しになってはいかがですか?     1日でうちの月給と同じくらい稼げる所だってありますよ。     何なら風俗の店でも紹介しましょうか?」 ルリコ「ご冗談はおよしになって下さい。」      事務所に精霊トリオが入って来る 精霊たち「こんにちは!」 ルリコ「はい、何でしょうか。」  パ−「カサマ金融さんですね。     私たち今皆さんにご寄付をお願いして回ってるんです。」  プレ「今日はクリスマスイブです。     恵まれない子供たちに愛の手を!」 ルリコ「まあ可愛らしい恰好したお嬢ちゃんたちね。」 フュ−「商店街の企画で仮装してるんです。」 精霊たち「お願いしま−す!」 ルリコ「社長さん?」 ヨシオ「帰ってもらって下さい。」  パ−「え−っ!?」  プレ「ホンの少しのお気持ちで結構ですから。」 フュ−「百円でも・・・     いえ、一円だっていいんですよ。」 ヨシオ「こんな景気が悪い時に、ビタ一文だって人にあげられるようなお金はありませんよ。     私の方がめぐんで欲しいくらいだね。」  パ−「今日はクリスマスイブなんですよ。」 ヨシオ「それがどうかしましたか。     あいにく私はクリスチャンじゃありません。」 フュ−「でも、町中みんながお祝いするんですよ。」 ヨシオ「全く日本人は無節操でいけないな。」 ルリコ「あのう、少しでよろしければ・・・」 ヨシオ「バカな事はおよしなさい。」  パ−「バカですって!?」 ヨシオ「全く年末になると、どこへ行っても寄付だ募金だと、もううんざりですよ。」 フュ−「世の中にはそれだけ困った人が沢山いらっしゃるという事なんです。」 ヨシオ「例えば?」 フュ−「そ、それは・・・」 ヨシオ「一体全体、今の日本のどこに、人からお金をめぐんでもらう必要のある人がいると言うんです。」  パ−「日本だって失業率が5パ−セントもあるんですよ。     ホ−ムレスの人たちだって都会には沢山いらっしゃいます。」 ヨシオ「そういう人たちを救うために社会保障制度があるわけでしょう?」 フュ−「社会保障?」 ヨシオ「子供には難し過ぎたかな?     いいですか、私はそういう人たちのために使われるお金を税金という形でいっぱい払っているんですよ。     それこそ人一倍のお金をね。     これ以上何をしろと言うんですか。」  パ−「で、でも、そんなものじゃ救い切れないかわいそうな人たちも、沢山いらっしゃるんです。」 フュ−「それに、不景気で子供の数も減って来ているんですよ。」 ヨシオ「はっ!     結構な事じゃありませんか。     だいたい日本は人口が多過ぎますよ。     今の半分くらいでちょうどいい。」 フュ−「お金のない人は死ねって言うんですか!」 ヨシオ「はいはい、お嬢ちゃん。     これあげるから、おとなしく学校で勉強でもしてなさい。」      ヨシオ、フュ−チャ−にアメをやると、奥に引っ込む ルリコ「ごめんなさいね・・・     これ、少なくて申し訳ないんですけど(硬貨を渡す)。」  パ−「ありがとうございました!」 フュ−「それでは、メリ−クリスマス!」  プレ「社長さんにも、楽しいクリスマスを!」      精霊たち、外へ出て行き、ヒソヒソ話 フュ−「アメもらっちゃった。」  パ−「小学生だと思われたのよ。     フュ−ちゃん、ロリロリだから。」 フュ−「失礼しちゃうな。     こんなナイスバディなのに。」  パ−「何言ってんの、幼児体型のくせして。」 フュ−「あんたよりマシよ!・・・     って、アメ取んなよ!」  パ−「スキを見せる方がいけないの。」 フュ−「そんなだから、やせないのよ!」  プレ「ちょっと、静かにして・・・     ねえ見て。     あの番地。」  パ−「番地?」 フュ−「中通り3丁目?」  プレ「あちゃ−。」  パ−「どうしたの?」  プレ「又間違えちゃった。」 フュ−「え−っ!?」  プレ「天使の指令は、中通りじゃなくて本通り3丁目のカザマ金融だったの。」  パ−「ここカザマじゃなくて、カサマだよ。」 フュ−「なんて紛らわしい・・・」  パ−「勘弁してよ−。」  プレ「仕方ないわね。」 フュ−「もしかしてやり直し?」  パ−「え−、私ヤだよ。」  プレ「天使に逆らうつもり?」  パ−「だってあのムカツクオヤジ、このままじゃすませたくないんだもん。」  プレ「やり直さなきゃ留年よ。」 フュ−「でも、私も気になるな、あの2人。」  パ−「でしょ。」  プレ「私、来年もあんたたちの面倒見るのなんか嫌だからね。」  パ−「ね−、後ちょっと見てくだけならいいでしょ。」  プレ「絶対余計な事しないって約束する?」  パ−「するする!」 フュ−「見てるだけで−す!」  プレ「しょうがないわね。」  パ−「あれえ?」 フュ−「プレちゃん、今日はわがまま聞いてくれるんだ。」  プレ「そうよ、きっとあの人の心の中には癒されない傷が(自分の世界に入っている)  パ−「ちょっと、フュ−ちゃん。」      プレゼントから離れて、パ−ストとフュ−チャ−内緒話している フュ−「なるほどね。」  パ−「プレちゃんも隅に置けないな。」  プレ「な、何言ってんのよ、あんたたち。」 フュ−「照れなくていいのに。」  パ−「プレちゃん渋好みだからな。」  プレ「変な想像しないでよ!     とにかく、もう少し様子見てみるだけだからね。     日が暮れないうちにやり直さないと、留年よ!」 パ・フ「はあい。」      精霊たち事務所の外で聞き耳を立てている       ヨシオ奥から出て来て ヨシオ「ああいう連中とまともにとりあう事はないんですよ。」 ルリコ「すみません、勝手な事をしまして。」 ヨシオ「全くですよ。     あそこはお金を出すぞ、となると又どんな寄付金集めがやって来るやらわかったもんじゃありませんからね。」 ルリコ「本当に申し訳ありませんでした。」 ヨシオ「いいんですよ、あなたのお金なんですから・・・     しかし、何ですね、せっかく善意で出したあのお金も、本当に困った人の所に届くものかどうかわかりませんよ。」 ルリコ「社長さん、それはあんまりです。」 ヨシオ「そりゃあの女の子たちは一生懸命かも知れませんが・・・     そのお金を誰かが集めてその又お金を誰かに寄付して、とこういう途中で誰かがネコババでもしたらどうなります?」 ルリコ「そんな風には考えたくありません。」 ヨシオ「そりゃ誰だってそうだ・・・     でもね、お金が絡むと人間醜いものですよ。」 ルリコ「だけど私は、ああいう寄付をするだけでとっても温かい気持ちになれますわ。」 ヨシオ「そうですか・・・     個人が自己満足のために寄付なんぞするのは私の主義には合いませんがね。     まあ、あなたのご勝手ですよ・・・     ところでどうしましたか、何だかそわそわしていらっしゃるようですが。」 ルリコ「あのう、今夜はクリスマスイブなので・・・」 ヨシオ「ほう、あなたもキリスト教の行事などに惑わされる口ですか。」 ルリコ「今日は早く帰らせて頂けませんか。」 ヨシオ「この商売はこの時間からが稼ぎ時です。     あなたも良く御存知じゃありませんか。」 ルリコ「はい・・・。」 ヨシオ「私は何も無理難題をふっかけてるわけじゃないでしょう。     有給休暇だってちゃんとありますが、あなたは娘さんが病気だの何だのと、もう今年は使い果してしまわれたんですよ。」 ルリコ「わかっています。」 ヨシオ「それでも休みをとって帰るとおっしゃるのでしたら、止めはいたしませんよ。     そんな権利は私にだってありはしない。     その代わり、時間掛けで減給させてもらいます。」 ルリコ「それは構いません。」 ヨシオ「では、お帰りになりますか?」 ルリコ「はい。     ありがとうございます。」 │      ルリコ、急いで荷物をまとめて帰ろうとするが、ヨシオ呼び止める ヨシオ「サクマさん、あなた、契約は今年いっぱいでしたね。」 ルリコ「はい・・・」 ヨシオ「受付嬢は若い女の子の方がいいっていうお客様がいらっしゃいましてね。」 ルリコ「どういう事ですか。」 ヨシオ「ご自分でよくお考えになってみてはいかがですかな。」      ヨシオ、奥に引っ込む       ルリコ、帰る勇気がなく椅子に座ってボウッとしているが、次第に泣き始める  パ−「な、なんちゅうやっちゃねん!」 フュ−「何でなまるのよ。」  プレ「とにかく、落ち着いて・・・」      パ−スト憤然として事務所に入って行く  プレ「行っちゃ駄目だったら。」 フュ−「待ってよ、パ−ちゃん。」  パ−「パ−じゃねえって言っただろ!」      パ−スト、ルリコの側に言って声を掛け、しばらく話している  プレ「あ−あ、行っちゃった。」 フュ−「パ−ちゃん、後先考えないんだから。」  プレ「日が暮れたらどうすんのよ、もう!」      ヨシオ、奥から出て来る ヨシオ「おやおや、まだ何か御用ですか、お嬢さん。それにサクマさんはお帰りになるんじゃ・・・」  パ−「ちょっとあんたねえ、この人・・・」 ヨシオ「又、娘が病気だとかおっしゃりたいのですか?     私は他人のプライバシ−には干渉しない主義なのでね。」  パ−「ちょっとこっち来な!」 ヨシオ「何ですか、いきなり乱暴な・・・」      パ−スト、ヨシオを引っ張って来ると、精霊の杖を振って呪文を唱える  プレ「な、何て強引な・・・」 フュ−「パ−ちゃんらしいわ。」  プレ「終わったら急いで連れ戻さなきゃ。」  パ−「(呪文)それでは過去の旅にしゅっぱ−つ!」      FO 電話で話す声が聞こえる       サラ金の取り立ての男と、ヨシオの母が話している       途中でFI   男「・・・そういう言い訳はもう聞き飽きたんですがねえ。」   母「あ、あの、もうすぐ子供が帰って来ますから・・・」   男「ほう、お子さんは中学生でしたかね。男の子?」   母「はい。」     男「女の子ならねえ、金を作らせるのも簡単なんだが・・・     男ではねえ・・・     まあ、臓器を売ったりとか出来なくもないが。」   母「な、何をおっしゃってるんです!」   男「仕方がないでしょう、何とかお金を作ってもらわないと、こっちだって困るんですから・・・     あなたももう少し若ければねえ・・・」   母「あ、息子が帰って来ましたから。(電話を切る)」 ヨシオ「ただいま。」   母「お帰りなさい。」 ヨシオ「母さん、これ。(封筒を渡す)     学校から。」      母、封筒の中身を見てため息をついている   母「ヨシオ、ちょっとそこに座って話を聞いてちょうだい。」 ヨシオ「僕、修学旅行なんか行かなくていいよ。」   母「ごめんね、ヨシオ・・・     やっぱり、父さんの所に行って欲しいのよ。」 ヨシオ「約束が違うじゃないか。     どうしてだよ。」   母「・・・お母さん、お金沢山借りててね、あなたを養って行く余裕がないの。」 ヨシオ「親父から養育費が入ってるんじゃないのか。」   母「この2年は、ほとんど入ってないわ。」 ヨシオ「何だって・・・     母さん体が良くないのに、それじゃ暮らせるはずないじゃないか。」   母「・・・大人の話にそれ以上関わらないの。     とにかくお父さんの所に行ってちょうだい。」 ヨシオ「あんなやつ親じゃないよ。     カズオ兄ちゃんが事故にあった時だって・・・」   母「あの時は大事なお仕事で・・・」 ヨシオ「息子が死にそうだって言うのに、それより大事な仕事があるのかよ!」   母「ヨシオ。     もう言わないで。」 ヨシオ「兄ちゃんがいなくなって、跡継ぎがいないから僕を呼び戻そうって言うんだろ。     そのために母さんには養育費も渡さない・・・     やり方が汚いんだよ!」   母「ヨシオ。     これだけは信じてちょうだい。     お父さんは元々あなたを後継ぎにと思ってらっしゃったのよ。     優等生のお兄ちゃんより、あなたの方を見込んで・・・」 ヨシオ「そんなの知った事か。     今さら戻って来いだなんて、虫が良過ぎるんだよ。」   母「・・・ヨシオ、あなたにはお金の苦労なんかして欲しくないの。     お願いだから、お父さんの後を継いで・・・」 ヨシオ「世の中、結局金だって言うのか・・・     母さん、僕中学卒業したら働くよ。     そうしたら何とかやっていけるだろう?」      母、ヨシオの頬を叩く       お互いにうろたえている様子   母「高校にも行かないでどうするの!」 ヨシオ「うわあああ・・・・」      ヨシオ、出て行く FO       誰かがカラオケを歌っている FI       大きな酒場の一角でヨシオが1人グラスを傾けていると 店の女の子たちがやって来てヨシオにまとわりつく  女1「カサマさん。     お久しぶりです。」  女2「メグ、寂しかったわ。」  女1「今日はお1人ですか。」  女2「いつも女の子連れてるのに、珍し−の。」 ヨシオ「たまにはね。」  女1「一緒に歌でも歌いませんか。」  女2「あ、ずる−い。     カサマジュニアはメグのものよ。」 ヨシオ「そのジュニアってのはやめてくれないかな。」  女2「どうしてえ?     カサマ産業の次期社長さんなのに。」 ヨシオ「そんなつもりはこれっぽっちもないよ。」  女1「またまたご冗談を。」 ヨシオ「後を継ぐ気なら、まともに学校に行ってるさ。」  女2「学歴なんか関係ないじゃん。」 ヨシオ「こうやって親父の金で遊び歩いてるだけのバカ息子に、後を継がせようなんて会社は先が知れてるよ。」  女1「もうお酒はそのくらいにされた方が・・・」 ヨシオ「僕には夢があるんだ。     親父の元を離れて、どこか遠くで1からやり直す。     自分だけの力で金を儲けて会社を興す。     そうしたら・・・     母さんを呼んで、親父を見返してやるんだ!」  女2「そんな夢みたいな事言ってないで、メグと踊りましょうよ。」 ヨシオ「いやいや・・・」      FO ヨシオとパ−ストにだけサスが当たっている  パ−「あなた昔はずいぶんモテたのね。」 ヨシオ「親父が大会社の社長だったからね。     みんな金が目当てさ。」  パ−「まあ照れちゃって。」 ヨシオ「その証拠に、私が親父の元を飛び出して行方をくらましてからは、女の子なんか誰1人鼻も引っかけちゃくれませんでしたよ。」  パ−「カサマさん・・・」      パースト退場し、ヨシオは直立不動で舞台袖にいるらしい誰かと話している   声「長い間ご苦労だったな、カサマ。」 ヨシオ「大変お世話になりました。」   声「もう2度とこんな所に来るんじゃないぞ。」 ヨシオ「・・・はい。」   声「どうした?     組の事が気になるか?     じゃあ教えてやるがな、ヤマシタの野郎とうの昔にズラかりやがったよ。」 ヨシオ「ヤマシタの兄貴が・・・」   声「お前に全部罪をおっかぶせて、汚ねえやり方だよ。     ま、信用する人間を間違えたって事だな。」 ヨシオ「はい。」   声「それからどういうわけだかお前の出所に合わせて手紙が来ている。     カサマ産業の封筒だ。」 ヨシオ「カサマ産業ですか?」   声「何か心当たりでもあるのか?     名前が同じだが。」 ヨシオ「・・・いえ。」   声「ま、お前みたいなチンピラと一部上場企業と関係があるわけはないか。」 ヨシオ「はい。     ありがとうございます。(封筒を受け取る)」      ヨシオ中身を確かめると無言で破り捨てる FO       洒落た音楽が流れる FI       レストランである       テ−ブルの上にはワイングラスが2つ       ヨシオ1人で席に着いて携帯電話で話しているが、恋人が現れたのを見ると電話を切り、席までエスコ−トする       席に着いた2人はワインを1口飲む ヨシオ「今日はあなたにこれを・・・(プレゼントの包みを渡す)。     開けてみて下さい。」  恋人「(中を開けて指輪を取り出し)ヨシオさん、本当にこんな物頂いていいんですか?」 ヨシオ「受け取ってもらえますか?     僕の気持ちです。」  恋人「これって、もしかして・・・」      携帯電話が掛かり、ヨシオ席を外して話してから戻る ヨシオ「いや、申し訳ありません。」  恋人「お仕事ですか?」 ヨシオ「まあ相場って言うのは、分刻みの勝負ですから。」  恋人「会社をお継ぎにはならないのですね。」 ヨシオ「世間の目から見れば考えられない事かも知れませんが。」  恋人「それはカサマ産業と言えば一流ですもの。」 ヨシオ「まあ、そこに勤めていたあなたとお知り合いになったのも、不思議な縁ではありますが。     始めはビックリなさったでしょう。」  恋人「はい。     社長さんにこんな立派な息子さんがいらっしゃったなんて・・・」 ヨシオ「親父とは絶縁状態ですからね。」  恋人「ヨシオさんって、お父様に似てらっしゃいますね。」 ヨシオ「な、何をバカな事を・・・     あいつは金儲けにしか興味のない冷たい男ですよ。     家になんか滅多に帰って来なかった。     僕はあんな男とは違う!」  恋人「でも、男の方はお仕事が第一ですもの。     ヨシオさんもお父様も、お仕事に打ち込んでいる時の目は怖いくらいですわ。」 ヨシオ「僕はね、仕事で金を儲けるのは暖かい家庭をつくるためだと思ってるんです。     経済力がなけりゃ、家族を養ってはいけませんからね。」  恋人「もちろん、そうですわ・・・     お父様もきっと・・・」 ヨシオ「違いますよ。     あいつは家族の事なんかこれっぽっちも・・・」      再び携帯電話が掛かり、ヨシオ席を外す       今度は何やら大声で怒鳴っている ヨシオ「おい、遠慮なんかいらねえんだよ。     そんな町工場なんかぶっ潰しちまえ!・・・     え?     こっちが殺らなきゃ殺られるんだよ!     ぶつくさ抜かす奴はぶん殴っちまいな!」      ヨシオ、何事もなかったかのように席に戻る ヨシオ「うまくやれば百万単位の儲けになりそうな話がありますので。」  恋人「なんだか物騒なお話ですね。」 ヨシオ「聞こえちゃいましたか・・・     でもあなたはそんな事気にしなくていい。」  恋人「私の父も小さな鉄工所をやってますの。」 ヨシオ「それはこのご時世にご苦労な事ですね。」  恋人「資金繰りが大変だって、いつもこぼしてますわ。     このままじゃ廃業だって。」 ヨシオ「多分リストラが進んでないんでしょう。」  恋人「だって従業員はみんな家族同然ですもの。」 ヨシオ「じゃあアッサリ見切りをつけて大企業の傘下にでも入る事ですね。」  恋人「でも、祖父の代からやって来た工場なんです。」 ヨシオ「そんな感傷だけで世の中が渡れたら楽なもんですよ。」  恋人「ヨシオさん、あなた、うちの工場の事知ってるんですか?」 ヨシオ「そんな小っちゃな鉄工所なんてゴマンとあるんですよ。     一々覚えていられるはずがない・・・     仕事の関係で、潰れて行く鉄工所も山ほど見て来ましたけどね、ほとんどが前時代の異物だな。     あれじゃ潰れて当然だ・・・」      再び携帯電話が鳴り、ヨシオ席を外す ヨシオ「だから言っただろう!     そんなの潰れたってかまやしねえんだよ。     放っといても潰れるような鉄工所はな・・・」      恋人、ヨシオの所までやって来る ヨシオ「今差し迫った状況なんですよ。     後にしてくれませんか。」  恋人「ヨシオさん。」 ヨシオ「だから、男の仕事に一々口を挟まれちゃ困るんですよ。」  恋人「ごめんなさい。     私、これ受け取れません。」      恋人、プレゼントの指輪をヨシオに返すとレストランを後にする      後に残され呆然とするヨシオ FO       FI カサマ金融の事務所であるが、今よりも殺風景である       ヨシオとルリコが面談している ヨシオ「サクマさん。」 ルリコ「はい。」 ヨシオ「本当にこんな条件でよろしいのですか。」 ルリコ「フルタイムで雇って頂けるのでしたら、ぜいたくは申しません。」 ヨシオ「物好きな人もいらっしゃるものだ。」 ルリコ「でも、私職安でこちらを紹介して頂いたんです。」 ヨシオ「確かに求人は致しましたがね・・・     今時、こんなひどい労働条件で働こうという人がいるとは思いませんでしたよ。」 ルリコ「雇っては頂けないのでしょうか?」 ヨシオ「うちは零細サラ金業者ですからね。     実の所、別に私1人でもやっていけない事はないんですよ。」 ルリコ「そうですか・・・     残念です。」 ヨシオ「まあ待ちなさい。     受付嬢がいた方が借り易い客もいるんですから。     とにかく求人もしたわけですし。」 ルリコ「お願いします!     履歴書も持って参りました。(履歴書を渡す)」 ヨシオ「一応見せてもらいましょうか・・・     ほう、あなた今時中卒ですか。」 ルリコ「すみません。」 ヨシオ「何を謝る事があるんです。     学歴なんかどうだっていいんですよ。(履歴書を返す)」 ルリコ「本当ですか!」 ヨシオ「さっきも言ったでしょう。     どうせ大して仕事があるわけじゃない。     下手に大学なんか出られてちゃ、人件費が掛かってどうしようもないよ。」 ルリコ「お願いします。」 ヨシオ「まあ、その条件でいいのでしたら・・・」 ルリコ「ありがとうございます!     私一生懸命お仕事勤めさせて頂きます。」 ヨシオ「あのねえ、一生懸命やるような仕事はありゃしませんよ。     そこに座って客の応対でもしてくれりゃ十分です。     サラ金なんて人の不幸につけこむ汚い商売なんですから、一生懸命仕事しちゃばちが当たりますよ。」 ルリコ「・・・社長さんって面白い方ですね。」 ヨシオ「そういう冗談を言うのもやめてもらいたいね。」      FO FI ルリコ事務所の掃除をしている       ヨシオ手に大きなビニ−ル袋を持って出社して来る ルリコ「お早うございます。」 ヨシオ「初日から、ずいぶん早く来られましたね・・・     いや、参りましたよ。」 ルリコ「どうか、なさいましたか?」 ヨシオ「どこを歩いても子供でいっぱいだ。」 ルリコ「子供?」 ヨシオ「それが口を揃えて『お願いしま−す』でしょう。     やかましいの何の。」 ルリコ「ああ、募金ですね。     歳末助け合いの。」 ヨシオ「小学生や中学生にやらせてるでしょう。     この寒い中を。」 ルリコ「本当に感心な子供たちですわ。」 ヨシオ「バカ言っちゃいけませんよ。     募金をやりたければ、子供を使ったりせずに自分でやればいいんです。」 ルリコ「確かに大人の人はあまり見ませんね。」 ヨシオ「子供は純粋ですからね。     それを利用しようなんて、全く大人は汚くていけません。」 ルリコ「社長さん。     その袋は?」 ヨシオ「ああ、これ。     そこのコインランドリ−でね。」 ルリコ「社長さんが、そんな事を・・・」 ヨシオ「事務所の奥で1人ぐらしですからね。     社長なんて言ったところで、今日ようやく社員が1人になったばかりなんですから。」 ルリコ「すみません、言い遅れました。     今日からよろしくお願いします。」 ヨシオ「そんなにかしこまらなくてもいいんですよ。」 ルリコ「私に出来ることは何でも・・・」 ヨシオ「そこに座って客の受付をしてくれりゃいいんです。     早く来て掃除なんかしても、手当てなんか出ませんよ。」 ルリコ「でも、部屋中信じられないくらいホコリだらけでしたわ。」 ヨシオ「ところで、そのお花はどうしましたか?」 ルリコ「このお部屋、とても寂しかったので・・・」 ヨシオ「会社の金で落としたりしないで下さいよ。」 ルリコ「も、もちろんです。」 ヨシオ「余分な出費をしない。     余計な事をしない。     決められた時間通りに働く。     これだけの事は守ってもらわないと・・・」 ルリコ「わかりました。」 ヨシオ「それから初年度は有給休暇なんかありませんからね。     休んだらその分給料を引きますよ・・・     まあ、いきなり休みをくれなんて、図々しいにも程がありますがね。」 ルリコ「あのう、私、娘が・・・」 ヨシオ「やめて下さい!     あなたのプライバシ−なんか聞きたくもありませんよ。」 ルリコ「すみません。」      FO ヨシオとパ−ストにだけサスが当たっている  パ−「あの調子で、もう3年もルリコさんを雇ってらっしゃるのですね。」 ヨシオ「信じられないね。     今時あんな時給で我慢してるとは。」  パ−「どうしてルリコさんにもっと優しくしてあげないんですか。」 ヨシオ「余計なお世話です。     気に入らなければいつでもやめてもらって構わないんだ。」  パ−「まあ、あなたの気持ちも少しはわかりますけど・・・」 ヨシオ「ははっ。     何言ってるんです・・・     私の気持ちなんか、他人にわかるもんですか。」      いつの間にか、プレゼントがやって来ている  プレ「パ−スト、私と交替よ。」  パ−「え−っ!?     時間ないんじゃないの?」  プレ「やっぱりこの人放っておけないわ。     後で天使とは交渉してみる。」  パ−「さすがプレちゃん。」 ヨシオ「何をゴチャゴチャ言ってるんですか。」  プレ「私は現在を司る精霊のプレゼント。     ねえ、カサマさん(ヨシオに迫る)」  パ−「プレちゃん、ヨダレ。」  プレ「おっと、いけねえ・・・     これから私が、カサマさんの現在をお見せ致しますわ。」 ヨシオ「現在ならよくわかっていますよ。     それにこの悪ふざけは一体何なんですか?」  パ−「カサマさん。     あなた今起こってる事にビックリしたりしないんですか?」  プレ「そう言えば変ね。」 ヨシオ「私は裸一貫で家を飛び出してここまでやって来たんです。     普通の人間が一生経験するはずのないような、危険な事、ヤバイ事を山ほどくぐり抜けて来ましたよ。     今無事に生きているのが不思議な位のね・・・     今更、何が起こったってあたふたするものですか。」  パ−「それで、そんなに無感動なんですか。」 ヨシオ「無感動ですか・・・     そいつはいい、私にピッタリだ、ははは。」  プレ「いいえ、あなたはそういうフリをしているだけです。」  パ−「そうかなあ?」  プレ「そうよ。     カサマさん、あなたは本当は人間らしい暖かい心の持ち主ですわ。」 ヨシオ「そんな物・・・     どこかに置き忘れてしまいましたね。」  プレ「ルリコさんを3年も雇ってらっしゃるのが、その証拠です。」 ヨシオ「あの安い給料ですよ。」  パ−「そうだよ、もっと給料上げてあげなよ。」  プレ「パ−ちゃん、黙ってて。」  パ−「ブ−ッ。」  プレ「ルリコさんに、あなたは好意を持っていらっしゃいますね。」 ヨシオ「どこからそんなたわ言が出て来るんですか。」  プレ「最初はあわれみだったかも知れませんが。」 ヨシオ「あわれみか・・・     確かにね・・・     本当の所、もうあの人を見ているとあわれみを通りこして腹が立って仕方ないんですよ。」  パ−「腹が立つ、ですって?」 ヨシオ「そうですよ。     私だったら絶対我慢出来ないな。     ひどく安い給料で、休むたびにグチグチ文句を言われ、私の言う事には一言だって逆らえない。     これじゃまるで・・・」  プレ「あなたのお母さんみたい。」 ヨシオ「・・・あなたいっぱしのカウンセラ−か何かのおつもりですか     ・・・まあ、こんな関係も終わりだ。     ようやくクビに出来そうだからな。」  パ−「ひっど−い。」  プレ「あなた思った以上に重症ですね。     さ、こちらへ。」      プレゼント、精霊の杖を振って呪文を唱える  プレ「それでは現在の旅にしゅっぱ−つ。」      サスFO ヨシオが怒鳴っている ヨシオ「帰って下さい!     あんたみたいな人に貸せる金なんかありゃしないんだよ!」      FI ヨシオ事務所の入口あたりで興奮して立っている ヨシオ「見苦しい所をお見せしましたね。」 ルリコ「社長さん。」 ヨシオ「大人はどうだっていいんですよ。」 ルリコ「あの方にも、それなりのご事情が・・・」 ヨシオ「そりゃ、あのお母さんはどうなったって知った事じゃない。     大人は自業自得ですからね・・・     でも、あの子供は一体どうなるんですか。     軽い気持ちでサラ金なんかに手を出しやがって・・・     最低ですよ、あんな母親は!」      ヨシオ、奥の部屋に入って行くが、しばらくして出て来る ヨシオ「サクマさん。     あなた一体どういうおつもりですか。     私は家政婦なんか雇った覚えはありませんよ。」 ルリコ「すみません。     この所、社長さんお疲れのようでしたから、つい・・・」 ヨシオ「勝手に人の部屋を掃除したり、洗濯物を片付けたり・・・     まるで泥棒猫ですね。」 ルリコ「あ、あのう・・・     絶対にお掃除とお洗濯しかしていませんので・・・」 ヨシオ「当たり前ですよ。     2年も雇っているあなたを疑うほど、落ちぶれちゃいません。」      ヨシオ、札入れから札を出すとルリコに手渡そうとする ルリコ「社長さん!?     こんなお金、とんでもありません!」 ヨシオ「誰があなたにと言いましたか。     娘さんにバ−スデ−ケ−キでも買っておあげなさい。     とびきり大きなやつをね。」 ルリコ「どうして・・・     娘の事を・・・」 ヨシオ「あなた、去年も、おととしも、この日は早く帰ったじゃないですか・・・     履歴書に書いてありましたよ。     娘さんの生年月日が。」 ルリコ「(お札を受け取って)ありがとうございます!」 ヨシオ「今日はもういいから、早く帰っておあげなさい。」 ルリコ「・・・よろしいのでしょうか。」 ヨシオ「私の気が変わらない内に帰るんです・・・     今日だけですからね。」 ルリコ「はい!」      帰ろうとするルリコにヨシオ声を掛ける ヨシオ「半日分の給料は引いておきますよ。」 ルリコ「えっ!?」 ヨシオ「冗談ですよ・・・     早く帰ってくれ。     1人になりたいんだ・・・」 ルリコ「社長さん・・・」      FO 有線音楽(クリスマス歌謡曲)が流れている       FI 町の喫茶店である       商店街の主婦ABCが話している       ヨシオは離れて見ている   A「ねえ、カワカミ鉄工さんとこの話聞いた?」   B「え、なになに?」   A「不渡り出しそうなんだって。」   C「うちも人ごとじゃないわ。」   A「あそこの社長さん、人がいいから従業員クビに出来なくて。」   B「長年一緒にやって来た人たちですもんねえ。」   C「でも潰れたら元も子もないわよね。」   A「それでね、給料が払えなくなっちゃって、よせばいいのに・・・」   B「まさか・・・」      C「サラ金に手を出したとか。」   A「そうなのよ。それもよりによってカサマ金融から借りたらしくって。」   B「うわ、もう駄目だわ。」   C「あそこに関わったらたいてい倒産だもの。」   A「ねえ、カサマの社長、独身だってね。」   B「若いし、お金は持ってるんだろうに。」   C「なんか、すっごい自己中でケチで、女の人も寄りつかないんだって。」   A「結構、いい男に見えるけどね。」   B「じゃあ、あんた不倫でもしてみる?」   A「あと20歳若かったらね。」   C「あの人全然駄目よ。こないだ町内会の寄付回って来たじゃない?」   B「そうそう、お祭の。」   C「カサマのとこだけはお金出さないんだって、役員さんこぼしてたわ。」   A「へえ、そこまでケチなんだ。」   B「相当貯め込んでるらしいけど・・・」   C「お金って、ある所にはあるのよねえ。」   A「一体何に使ってるのかしら。」   B「きっと、貯金通帳ながめてニヤニヤしてるのよ。」   C「うわあ、ヤダヤダ。」   A「この辺じゃ、店じまいする所も多いって言うのに。」   B「でもあの人全然人付き合いないから、よくわからないわ。」   C「何やってるかわからないから不気味よね。」   A「まさか、変な宗教とか・・・」   B「暴力団絡みかもよ。」   C「何もないのに出て行け、とも言えないし、町内会でも頭痛めてるんだって。」      FO ヨシオにだけサスが当たっている ヨシオ「勝手な事ばかり言いやがって・・・     ま、好きに言ってればいいさ。」      音楽流れる FI       サクマ家の部屋である       ルリコ、布団に入っているユミと話している  ユミ「ママ。     明日クリスマスイブ・・・」 ルリコ「そうね。」  ユミ「サンタさん、来てくれるかなあ?」 ルリコ「その前にユミちゃんのお熱が下がらないとね・・・」      いつの間にか、ヨシオの隣にプレゼントが来ている ヨシオ「おい、何だあの子は?     病気なのか?」  プレ「心臓病です。     生体移植を受けなければ長くありません。」 ヨシオ「生体移植だって!?」  プレ「大変なお金がかかりますね・・・     まあ、人口が減っていいんじゃないですか、カサマさん。」 ヨシオ「・・・揚げ足でも取ったつもりですか。」      ユミ、少し咳き込んでいる ルリコ「ユミちゃん。」  ユミ「平気よ・・・     ママ、明日の夜はパ−ティ−だよね。」 ルリコ「お休みがとれるかどうか・・・」  ユミ「大丈夫、だってカサマさんだもん。」 ヨシオ「な、何言ってるんだ。」  プレ「静かに。」 ルリコ「そうね、カサマさんにお願いしてみるわ。」  ユミ「カサマさん、とっても優しいからきっとお休みくれるよ。」 ルリコ「そ、そうよね。」  ユミ「私が寝込んだ時は、いつもママお休みもらってるもの。」 ヨシオ「休みをやらなかったら、労働基準法違反だろう。」  プレ「もうちょっと別の言い方ないんですか・・・」  ユミ「ねえママ。」 ルリコ「なあに。」  ユミ「もっとカサマさんのお話して。     カッコいいんでしょ。」 ルリコ「そうですよ。     とっても素敵な人ですよ。」  ユミ「ねえ、今度ユミ、カサマさんに会ってみたい。」 ルリコ「お仕事がお忙しいんですから、ご迷惑ですよ。」  ユミ「え−。     でも会ってみたいな。」 ルリコ「無理を言ってはいけません。」  ユミ「カサマさんに会ったら、お願いするんだ。     ユミのパパになってって。」 ルリコ「い、一体、何を言い出すんですか。」  ユミ「だって、ママ、カサマさんの事大好きなんでしょ。」 ルリコ「そうですよ。     でもね・・・」  ユミ「ユミだって、きっとカサマさんが大好きになるよ。」 ルリコ「もう、お休みなさい・・・」      FO ヨシオとプレゼントにだけサスが当たっている  プレ「なんだ、やっぱりそうでしたか。    (小声で)ちぇっ。」 ヨシオ「冗談じゃありませんよ。」  プレ「ルリコさんのお気持ち、気付いてらっしゃったんでしょう?」 ヨシオ「私はコスト削減のために最低の賃金しか払ってないんだ。     彼女に恨まれこそすれ、感謝されるなんて考えられないね。     そんなのこっちだって願い下げだよ。」  プレ「男性を財布だと思ってる女性ばかりじゃないんですよ。」 ヨシオ「私はね、見ての通り冷たいガリガリのお金の亡者ですよ。     結局、あれだけ嫌いだった親父の血が流れてるんです・・・     こんな私に今さら家族を持つ資格なんかありはしません。     家族を不幸せにするだけですよ。」  プレ「カサマさん、それだけ冷静に自分を見つめておられるのなら大丈夫ですよ。     もっと自分を信じて・・・」 ヨシオ「自分を信じろですって!」  プレ「そうです。」 ヨシオ「バカ言っちゃいけない。     この世の中で信用出来るのはお金だけですよ。     お金はね、人を裏切りません・・・     この世の中で一番信用出来ないのは、人間です。     人間なんか、人間なんか、誰が信用するもんか!」      フュ−チャ−、やって来る フュ−「オジサン、大声出し過ぎだよ。」 ヨシオ「お金がいるんだろう?     どうしてもっと給料上げてくれって言わないんだ!」 フュ−「オジサンと働きたいからでしょ。     それに中卒で他に働き場所がないんだよ。」 ヨシオ「俺だって高校中退だよ・・・     それがどうした?     だからって、金のある奴にへいこらしやがって・・・     やる気がありゃいくらでも金儲けなんか出来るさ。」  プレ「世の中、あなたみたいに強い人ばかりじゃありませんよ。」 ヨシオ「強いだって?・・・     よしてくれ、俺は弱い人間だ・・・     でもおふくろはもっと弱い人間だった。     俺はあんな風にはなりたくない。     だから、だから・・・     あんな弱い人間なんか見ちゃいられねえんだよ!」  プレ「人間ってみんな弱いんですね。     でも、その弱い人間同士が肩を寄せ合って生きて行くって言うのも素晴らしい事なんじゃありませんか?」 ヨシオ「やめてくれ。     俺はもう決めた。     サクマルリコは今年限りでクビだ!     あんな哀れっぽいじめじめした女はな・・・     見ているだけで虫酸が走るんだよ!」 フュ−「素直になればいいのに。」 ヨシオ「うるさい!     子供は黙ってろ!」 フュ−「もう!     私が一番、怖いんだからね。」      フュ−チャ−、精霊の杖を振って呪文を唱える フュ−「それでは未来の旅に、しゅっぱ−つ!」      FO おどろおどろしい音楽が流れる       FI がらんとした事務所にヨシオ1人       動こうとするが手足に鎖が付いていて身動き出来ない       事務所の入り口のドアは開け放たれている ヨシオ「な、何だ、これは・・・」 フュ−「10年後のあなたです。     すでに死んでおられます。」 ヨシオ「やっぱり早死にか・・・     まあ、私のような人間に長生きするような価値などないからな。     これも運命だろう。」 フュ−「運命は自分で切り開いて行くものですよ。     未来には無限の可能性があるんですから、あなたの行い次第でいくらでも変化します。」 ヨシオ「そんな道徳の時間みたいな事言われても・・・」 フュ−「まあ一番可能性の高い未来だと思って下さい。」 ヨシオ「ところで、この鎖は?」 フュ−「生きている間にあなたの背負った罪業が、重しとなって鎖で繋がれているのです。」 ヨシオ「ビクともしないぞ。     俺は何も法律に触れるような事はしていないはずだ。」 フュ−「罪業とは法律の問題ではありませんよ。」      事務所の外にヨシオの老母がやって来て通行人にたずねている ヨシオ「かあさん!?・・・     かあさんじゃないか。」  老母「あのう、すみません。」 通行人「はい。」  老母「カサマヨシオの家はこのあたりでは・・・」 通行人「ああ、カサマ金融ならここですよ。     あなたカサマさんのお知り合いですか。」  老母「は、はあ・・・」 通行人「全く大変な事件でしたね。」  老母「カサマヨシオに何か?」 通行人「御存知ありませんでしたか。     もう1月前になりますか、カサマさん銃で撃たれて・・・」  老母「ええっ!?」 通行人「即死だったそうですけどね・・・     いろいろ暴力団関係でもめてたらしくて・・・」  老母「ありがとうございます。」      老母、通行人に深々と頭を下げているが、通行人が去るのを見ると、事務所の中に駆け込む  老母「ヨシオ!     ヨシオ!」 ヨシオ「母さん!・・・     くそう、この鎖め!」 フュ−「カサマさん。     どのみちお母さんにあなたの事は見えも聞こえもしませんよ。」      老母、事務所内をいろいろ探し回るが、がらんとして何もない  老母「ヨシオ・・・     あんたが国を出てから、はあ20年かねえ・・・     ようやっと居場所を探し当てたと思うたら・・・」 ヨシオ「母さん!     僕はここにいるよ!」  老母「ほんまにこの親不孝もんが!」      通行人が様子を見て戻って来ると、事務所の外から 通行人「すいませ−ん。     ここ入らない方がいいですよ−。」  老母「は、はあ、申し訳ありません。」 通行人「ああいう事があって、みんなうっちゃってるんですがね−。     夜になると血だらけのカサマさんの幽霊が出てオンオン泣いてるんだってうわさでね−。     あなた、どういうご関係かわかりませんが、ホント気持ち悪い話なんですよ。」  老母「ヨシオ!(泣き崩れる)」 ヨシオ「母さん!母さん!」      FO ヨシオとフュ−チャ−にだけサスが当たっている ヨシオ「母さん・・・」 フュ−「オジサンでも涙流すことあるんだね。」 ヨシオ「おい、もう悪い冗談はやめてくれ!」 フュ−「冗談じゃないんだも−ん。     その鎖だって、本物の未来だよ。」      ヨシオ、改めて自分の手足の鎖に目をやり ヨシオ「くそう!何なんだよ、これは。     さっきより重くなって来たぞ・・・」 フュ−「今の親不孝で、一段と重くなっちゃったのかもね。」 ヨシオ「おい、もうやめてくれ!     体が引き裂かれそうだ・・・」 フュ−「一度死んだ人は、二度と死ぬ事ないんだからね。     永久に苦しむ事になるのよ。」 ヨシオ「な、何とかならないのか!     助けてくれ!」 フュ−「もうだらしないよ。     さっき運命だから仕方ないってカッコいい事言ってたくせに。」      ヨシオ、重さに耐えかねて四つんばいになり顔だけ上げている フュ−「今度はオジサンがクビにしたルリコさんの1年後を見てね。」 ヨシオ「やめてくれ!」      サスFO クリスマスソングが静かに流れている       FI サクマ家である 布団に寝ているユミに、ルリコ寄り添ってケ−キを食べさせている  ユミ「ママ、おいしい・・・     ママは食べないの?」 ルリコ「神様がいい子にしていたユミちゃんに、特別に下さったのよ。」  ユミ「嬉しい・・・     ママ、神様って本当にいらっしゃるのね。」 ヨシオ「おい、そんなちっぽけなケ−キだぜ。何言ってるんだよ。(涙声)」 ルリコ「そうよ。     神様はどんな人にも幸せを与えて下さるの。     特にクリスマスにはね。」      ルリコ、ユミの側を離れ、薬包と水を持って来る  ユミ「ねえママ。     サンタさん来てくれるかなあ?」 ルリコ「ユミちゃんがいい子にして(涙ぐむ)早く、眠ればね・・・」  ユミ「ユミまだ眠くないよ。」 ルリコ「このお薬を飲んで・・・」 ヨシオ「おいバカ!     一体何の薬だよ!」      ルリコ、ユミに薬を飲ませる ヨシオ「やめろ!・・・     どうして、どうしてこんな時に動けないんだよ!」  ユミ「ママ。     マッチ売りの少女続き読んで。」      ルリコ、絵本を取ってくると、優しく読み始める ルミコ「こうして、少女は、光とよろこびにつつまれて、高く、高く、かみさまのおそばにのぼって行きました。     そこには、もう、さむいことも、おなかのすくことも、こわいことも、なにもありません・・・」      ルリコ、ユミが動かなくなった事を確認すると ルリコ「ユミちゃん・・・     ママを許してちょうだい!(号泣する)」 ヨシオ「こんな・・・     こんな事が許されていいのか・・・     一体あの子に何の罪があったって言うんだよ!     くそう!(泣き始める)」      泣いていたルリコ顔を上げると、自らも薬を手にとって ルリコ「ユミちゃん・・・     今お母さんもあなたに会いに行きますよ。(薬をあおる)」 ヨシオ「やめろ!・・・     やめろ!・・・     もうやめてくれえ!」      ルリコ、ユミを抱きしめるように倒れる       2人とも動かなくなった空間に、寂しくクリスマスソングが流れている FO       FI カサマ金融の事務所である       全く時間は経過していないようだが、ヨシオはうずくまって頭を抱え号泣している ヨシオ「やめてくれ・・・     もうやめてくれ・・・」 フュ−「オジサン、もう大丈夫だよ。」      精霊たちがヨシオの側に立っている ヨシオ「本当に大丈夫なのか?」      ヨシオ、震えながらフュ−チャ−にしがみついている フュ−「もうオジサン。     セクハラだよ。」  プレ「カサマさん、ホントにもう大丈夫ですから。」  パ−「ホント、てんでだらしないんだから。」 ヨシオ「教えてくれ。     一体私はどうしたらいいんだ。」 フュ−「そりゃあ」  プレ「もちろん」  パ−「決まってるでしょ。」      精霊たち両手を広げて、ルリコの方を示している       ヨシオ、フラフラと操られるようにルリコの側に行き、震えながら肩に手を掛ける ヨシオ「サクマさん。」 ルリコ「社長さん!?(驚いて立ち上がる)」 ヨシオ「何をしてらっしゃるんですか。     早く帰っておあげなさい。」 ルリコ「えっ!?     で、でも・・・」 ヨシオ「今夜は娘さんとクリスマスパ−ティ−なんでしょう?」 ルリコ「本当によろしいのでしょうか。」 ヨシオ「もちろんですよ。」 ルリコ「ありがとうございます!」 ヨシオ「それから・・・」 ルリコ「はい?」 ヨシオ「・・・もしよかったら、私に娘さんの     ・・・ユミちゃんのサンタにならせてもらえませんか。」 ルリコ「えっ!?     そ、そんな・・・」 ヨシオ「私も今夜は1人ぼっちなんです。     ぜひ一緒にクリスマスパ−ティ−を・・・」      クリスマスのラブソングが流れ出し、夜空に星が輝く       音響が高鳴るとFO       夜空のホリゾントをバックに登場人物たちのシルエットが美しくストップモ−ション       音響FO      サス明かりの中に精霊トリオがいる  パ−「さむ−い!」 フュ−「カサマの野郎、暖房費ケチりやがって・・・」  プレ「さっき天使に連絡とってみたわ。」  パ−「どうだった?」  プレ「やっぱ留年だって。」 フュ−「え−っ!?     融通利かないの?」  パ−「て、事は来年もこいつと一緒?」  フュ−「ベ−だ。」  パ−「フン!(顔を背ける)」  プレ「私が一番頭痛いわ・・・」      照明CI ヨシオ「精霊さん。」 ルリコ「皆さんも一緒にクリスマスパ−ティ−はいかがですか?」  パ−「そっか。」 フュ−「そうしようよ、プレちゃん。」  プレ「ようし。こうなったらパ−ッといくわよ、パ−ッと。」      みんなで楽しくクリスマスの歌を歌う       1フレ−ズ終わったところで、精霊たち杖を振りながら 精霊たち「メリ−クリスマス!」       教会の鐘の音が高らかに鳴り響く      〜おしまい〜  ---------------------------------------------   以上、いかがでしたでしょうか?   よろしければ下記のページより、感想を御記入下さい。   もちろん、叱咤激励なんでもかまいません。   作者の方の励みにもなりますので・・・    http://haritora.net/bbs/?type=2524   また、下記ページから作品の評価登録も可能です。(要登録)    http://haritora.net/critic/member/look.cgi?script=2524  それでは、今後とも『はりこのトラの穴』をよろしくお願いいたします。