猫はバラ−ドを歌う  中島清志 作   〔キャスト〕 ♂3人(兼役可) ♀5人 ♀ アオタエリ  (高校三年生) ♀ アオタイチコ (エリの母) ♀ シライサトミ (エリの同級生) ♀ ムカイミドリ (エリの同級生) ♀ ミ−タン   (エリの飼い猫) ♂ キジマケンジ (エリの同級生) ♂ 父      (エリの父)   −ケンジと兼役可 ♂ 酔漢     (酔っぱらい)  −ケンジと兼役可      少し古い流行歌が静かに流れる中開幕       部屋の中に一本のサス明かり       普段着の少女が小テ−ブルについて座り、その隣で年老いたネコが丸くなっている       エリとミ−タンである       音楽FO       エリ口を開くが、観客に話しているのか、ミ−タンに話しているのか定かではない   エリ「・・・綺麗なお花たちに埋もれるように、女の人が箱の中で眠っていたの。      その人はお花たちに負けないほど綺麗にお化粧をして、見た事もないようなしあわせそうな寝顔だったわ・・・      でもその人は二度と私を抱いてくれなかった。      替わりになぜだか急に海から帰って来たお父さんが、私を抱いてくれたの・・・      それでおしまい。      もうな−んにも記憶にない。」      エリ、ミ−タンを撫でてやりながら   エリ「その後の事私よく覚えていないんだ。      でもある日おばあちゃんの家で1日中泣き疲れて寝ちゃうまで泣いたんだ。      不思議だったよ、私なんでこんなに悲しいんだろうって・・・      でも今ならわかる。      それは私が『オカアサンガシンダ』っていう言葉の意味を知ったからなんだ。      お母さんは二度と帰って来やしない。      抱いてくれることもない。      おやすみの前にキスしてくれる事もないんだって・・・      当たり前なのにさ。      おかしいよね。      笑っちゃうよね。      ははは。」      エリ、ミ−タンを強く抱き締める   エリ「お母さんは口数の少ない人だった。      でもいつもいつも繰り返し聞かされてた言葉があるの。      『エリちゃん、好きよ。       愛してる。』      って、まるで呪文みたいにさ・・・       変だよね、そんな気持ち言葉で伝えようなんて。      もしかしたら、自分に言い聞かせてただけかも知れないけど・・・      毎日、毎日、私を抱いて、泣きながらそんな事言ってたんだよ。      頭がおかしくなるよね。      死にたくもなるよね・・・      遺書があったんだって。      一人ぼっちで寂しかったんだって。      子育てに疲れてたんだって!(涙ぐむ)・・・      私は言葉なんか信じないよ。      言葉は真実をねじ曲げるのゆがませるのどこかへやっちゃうの!      ねえ、教えて。      真実は一体どこへ行っちゃったのよ?(テ−ブルに伏せてしばらく泣いているが、泣き止んで顔を上げる)」      部屋の中の照明FI       エリ立ち上がると部屋のドアにカギを掛けに行く   エリ「バカな事だってわかってるよ。      もうまるっきりコドモ。      口を開けば大ウソばかりだしさ。」      エリ、音楽をかける       一昔前の流行歌(注:作者のイメ−ジは「いとしのエリ−」)流れる   エリ「大き過ぎだって。(ボリュ−ムを下げる)      カセットってやっぱり雑音入ってる。      前に友達のうちで昔のレコ−ド盤っての聞かせてもらった事あったな。 あのひどい雑音にはビビったけど・・・      CDになってMDになって、今度は何?      IDとか出るわけ?      ってIDはないよね。      でもMDってさあ、人バカにしてるんだ。      だって人の耳には聞こえない音域はカットしてるんだよ。      聞こえない音はいらないわけ?      それだって音楽の一部じゃないの?」      エリ、ミ−タンを抱いて撫でてやりながら   エリ「おしゃべりじゃないなんて、大ウソよね。      私さっきからベラベラ次から次にしゃべり散らかしてる。      なんだか、動物や植物に話しかけてるさびしい未亡人みたい。      ああ、嫌だ嫌だ!      人間はどうして言葉なんか発明したの?・・・      ねえ、ミ−タン。      しあわせになるために言葉なんかいらないよね。      動物はみんな、余計な事なんか考えず、食べて、寝て、その全身に生きてる事の喜びを精一杯に感じて、そして・・・      死んで行くんだよね。      人間だけよ、言葉なんか背負いこんじゃって。      ヘレンケラ−が最初に覚えた言葉、WATERだっけ?      何が奇跡の人よ!      言葉を覚えたヘレンはしあわせになったわけ?      ヘレンは言葉を覚えたばっかりに、目が見えない、耳が聞こえない、口が利けない事の苦しみや悲しみを知ってしまったんじゃないの!      人間なんて、人間なんて・・・      思い上がりもはなはだしいわ!      言葉を知らない動物は自殺なんかしやしないのに。」      エリ、何かにイラついたようにミ−タンを放すと立ち上がり、音楽を切る   エリ「何なのよ、この歌詞!      低俗で、下劣で、知性のカケラもありゃしない・・・(少し涙ぐむ)      愛だの恋だのって、まさしく言葉のアソビじゃないの!      『好きだ』って言わなきゃ、『好きだ』という気持ちは伝わらないわけ?      間違ってるよ、そんなの!・・・     (ミ−タンに話掛ける)ねえ、間違ってるよね・・・     (遠くを見るような視線の定まらない目で)私今誰に話かけてるの?      この下らない、わけのわからない、気が狂いそうなたわ言は、一体誰に向けて?・・・      一人言はむなしいですって?      意味ないですって?      じゃあ、私は一体何なのよ!      言葉なんて意味ないって、言葉なんて信じられないって、わかっているのに、私、今言葉の海で溺れかけてる・・・」      ドアをノックする音       エリ、口を閉じる  イチコ「エリさん。      開けてちょうだい。      お母さんですよ。」   エリ「お母さんじゃない。」    父「エリ。      開けなさい、エリ。」      エリ、ドアを開けると、父が入って来る       エリは元の位置にもどりミ−タンを抱く    父「エリ・・・」      まるで自分の一番大切な人のようにミ−タンを抱いているエリを見て、父、言葉が出ない       イチコが入って来る       エリはイチコに背を向ける  イチコ「エリさん(激しくせき込む)」    父「イチコさん、悪いけど、ちょっと。」  イチコ「ごめんなさい。」      イチコ、せき込みながらさびしそうに出て行く    父「お父さんに話してくれるかな。」      エリ、うなずく    父「どうしてもミ−タンとお別れするのは嫌かい?」   エリ「うん。」    父「お母さんが、かわいそうじゃないか。」   エリ「お母さんは死んでるの。」    父「それにこのアパ−ト、動物を飼っちゃいけないんだよ。」   エリ「お母さんは、ずっと飼ってた!」      父、あきらめて部屋から出て行こうとする    父「中からカギをかけちゃいけないよ。」      父が出て行くと、部屋の照明FO       サス明かりだけになる       部屋の外にもう1本のサス明かりが入り、父とイチコが話している       エリはミ−タンを抱いたまま寝てしまう    父「エリには困ったもんだ。」  イチコ「ごめんなさい。」    父「イチコさんが謝ることはない。」  イチコ「私、アレルギ−なんかないのに、あのネコに近づいた時だけ・・・」    父「イチコさんがこんなに苦しんでるって言うのに。」  イチコ「私、どうしてもあの子の母親にはなれません。」    父「時が解決してくれるよ。」  イチコ「本当に、もうあさってから・・・」    父「ああ。」  イチコ「エリさんが卒業するまで、何とかならないのですか?      私一人では、とても・・・」    父「俺は船に乗るしか能のない男だ。」  イチコ「それはわかりますけど、近場で何とか・・・」    父「船の借金も残ってるし、エリには進学もさせてやりたいんだ。」  イチコ「夜はあの子一人になるんですよ。」    父「それなら店に連れて行くか?」  イチコ「悪い冗談はやめて下さい。」    父「・・・目一杯遠洋に出ても、下手すりゃ赤字だ。      イチコさんの稼ぎがなけりゃ、ニッチもサッチも行かないんだよ。      俺はホントに甲斐性なしのボンクラだ・・・。」  イチコ「・・・ごめんなさい。」    父「とにかく四の五の言ってるヒマはないな。」  イチコ「何のお話ですか?」    父「明日エリが学校に行ってる間に、ネコを処分してしまおう。」  イチコ「そんなこと・・・      私が許しません!」    父「イチコさん・・・」      照明FO       音楽FI       照明FI       エリの部屋である       高校の制服を着たエリ、サトミ、ミドリが小テ−ブルを囲み、缶ジュ−スを飲みながら菓子を食べている       部屋の隅ではミ−タンが丸くなっている  サトミ「何かカッタルイなあ。」  ミドリ「そろそろ、おいとましようかしら。」  サトミ「何が『おいとましようかしら』だ!      それ、いつの時代のジョシコ−セ−だよ。」  ミドリ「あら、これは作者の趣味ですから仕方ありませんわ。」  サトミ「ハイカラさんじゃあるまいし、そのやたら長いスカ−トも暑苦しくて見てらんね−んだよ。」  ミドリ「フッフッフッ。      実はカミソリ隠し持っちゃってたりするのよね−。」  サトミ「お前はスケバン刑事か!」  ミドリ「そういうあなたは?」      サトミ、つい立ち上がりポ−ズを決めてしまう  サトミ「月に向かって、おしおきよ。」  ミドリ「キャ−、カッコイ−!(拍手している)」  サトミ「バカ。      ついやっちゃったじゃね−か。」  ミドリ「まだまだスカ−トが中途半端ですわ。」  サトミ「審査員の血圧上がってぶっ倒れたら困んだろ。」  ミドリ「お姉様。      芸術のためには太いアシでもためらってはいけませんわ。」  サトミ「ミドリ!」  ミドリ「ムナカタコ−チ!」      サトミとミドリ、手を取り見つめ合っている       音楽が変わって  サトミ「苦しくったって。」  ミドリ「悲しくったって。」  サ・ミ「コ−トの中では、平気なの。」      音楽、元に戻る  サトミ「全然、受けね−な。」  ミドリ「今日のお客さまはノリが最悪ですわ。」  サトミ「あ−あ、つまんね−の。」  ミドリ「やっぱり、おいとましようかしら。」   エリ「ねえ。」  サトミ「やっと口開いたな。」   エリ「口挟むスキなかったんだもん。」  ミドリ「そんな事では主役の名がすたりますわよ。」  サトミ「お前ちょっと立ってみな。」      エリ立ち上がる  サトミ「何とかなんね−の?      その個性のない恰好。」  ミドリ「イマ風が嫌なら、レトロで行くって手もございますわよ。」  サトミ「こいつはこいつで考えもんだけどな。」   エリ「(座りながら)ねえサトミもミドリも、まだ帰らなくても大丈夫だよね。」  サトミ「そう来たか。エリはさびしがり屋だからな。」   エリ「そんなんじゃないけど・・・」  ミドリ「せっかくですから、もうしばらく居させて頂こうかしら。」  サトミ「じゃあ何か面白い事はね−のかよ。」   エリ「違うの聞く?(音楽を切る)」  サトミ「○○○なら聞いてやるぜ。」   エリ「○○○はないんだけど。」  サトミ「お前ロクなの持ってないんだから。もういいよ。」   エリ「あ、△△△はどう?」  サトミ「いいって言ってんだろうが!」   エリ「ごめんね。」  サトミ「あ−あ、退屈だ。」  ミドリ「それでは、わたくし場つなぎに舞を一つ披露させて頂ますわ。」  サトミ「何だって?」   エリ「ミドリ、踊りなんか出来るの?」  ミドリ「こう見えても、わたくし日舞の師範見習いですの。」      ミドリ、演歌(注:作者のイメ−ジは「祝い船」)をうなりながら変な踊りを始める       エリは手拍子しているが  サトミ「やめね−か、この野郎!」  ミドリ「どんとこ−ぎ−だ−す、い−わ−いぶ−ね−・・・      あら、わたくし野郎ではございませんわ。      女郎どすえ。」  サトミ「ったく、面白くね−んだよ。」      エリ、いつの間にかやって来たミ−タンを抱き上げる  サトミ「お、そのネコ。」  ミドリ「え−と、たしか名前は・・・」   エリ「ミ−タンよ。」  サトミ「こいつ何か芸でもしね−のか。」   エリ「しないよ。」  ミドリ「お手!      お座り!      チンチン!      キャ、オチンチンなんて言っちゃった。」  サトミ「オを付けるんじゃねえ。」   エリ「だから、何もしないんだって。」  サトミ「何だ、つまんね−な。」   エリ「もうおばあちゃんだから。」      サトミ、タバコを取り出して1本口にくわえる  サトミ「ミドリさん。こういう時サッと火をつけるのが、お水の一般常識第一項よ。」  ミドリ「わかりましたわ、アキナさん。」  サトミ「パラダイス再建のために、体を張って頑張りましょう。」      ミドリとサトミ、見つめ合って2人の世界に入っている   エリ「何やってるの?」  ミドリ「知らない?      『お水の花道』!(2人でポ−ズ)・・・      あ、エリ、ごめん。」   エリ「いいよ、あの人ホントにお水やってるんだから。」      サトミ、ライタ−で火をつけると、タバコの箱をミドリに突き出す  ミドリ「あら、私おタバコは・・・」  サトミ「客の前だからってカッコつけてんじゃね−よ。」  ミドリ「それでは遠慮なく頂ますわ。」  サトミ「エリ。」      エリもタバコを受け取り、サトミがライタ−を出して火をつけていく       ミ−タンはのっそりと部屋の隅に戻って行く  サトミ「ここで吸っても大丈夫なんだよな?」   エリ「お父さん、単身赴任でいないから。」  ミドリ「どういうお仕事だったかしら。」   エリ「・・・自衛隊」  ミドリ「キャ−、カッコイ−!」   エリ「別にカッコ良くなんかないよ。」  サトミ「戦闘機とか戦車とか乗って、お国のために命を捧げます!とか。」   エリ「そんなんじゃなくて、船に乗ってるの。」  ミドリ「お母様は、夜のお勤めですわよね?」   エリ「もうすぐ仕事に行くと思うよ。」  サトミ「見つかるとヤバイんじゃないのか?」   エリ「全然。      結構放任だし、吸ってないって言い張ればそれ以上文句言わない人だから。」  ミドリ「エリさん、夜はお一人?」   エリ「たいてい。」  サトミ「だったらさあ、今晩どうだ?」   エリ「それはちょっと・・・」  ミドリ「エリさんはいい子ちゃんですから、夜出歩いたり出来ませんわよね−。」  サトミ「親いないんだろ?      1回くらい付き合ってみてもいいんじゃね−の。」  ミドリ「夜の中通りは刺激的ですわよ。」      サトミとミドリ立ち上がり、しゃがみ込んだミドリにサトミ声をかける  サトミ「ねえ君たち、誰か待ってるの?」  ミドリ「別に−。」  サトミ「じゃさあ、一緒にカラオケでも歌いに行かない?      こっちも3人いるからさあ。」      サトミとミドリ、素に戻って  ミドリ「てゆ−、か−んじなのよね−。」  サトミ「こっちもグル−プでいた方が声かけられ易いんだけどな−。      それにお前、もうちょっとイマ風の恰好にすりゃ、かなりイケてるぜ。」  ミドリ「あくまで比較の問題でございますけど。」   エリ「私、お金持ってないから。」  サトミ「それはミドリに相談するといいぜ。」  ミドリ「イマドキのジョシコ−セ−はネットを利用しなきゃ。」  サトミ「うちの学校って意外と商品価値あるんだよな。」  ミドリ「制服姿の写真付きでオ−クションに出せば、結構なお値段が・・・。」   エリ「オ−クション?      何の?」  ミドリ「あ−ら、こんな所でははずかしくて言えませんわ。」  サトミ「エリなら絶対高値が付くって。      な−に、買って来たばかりのをわざと汚して売ればいいんだからさ。      何なら出会い系サイトで金づる見つけるって手もあるけどな。」  エリ「私、やっぱり・・・」  サトミ「ナンパされたって嫌なら断りゃいいんだから。」   エリ「そんな所でナンパなんて・・・」  ミドリ「これだ。」  サトミ「エリ、あんた友達なくすよ。」  ミドリ「夜、一人で一体何してらっしゃるのかしらねえ。」  サトミ「男連れ込んだりしてんじゃね−のか。」  ミドリ「ケンジさん・・・」  サトミ「エリ・・・」      ミドリ、サトミを押し倒して迫る       サトミ、ミドリをはねのけて  サトミ「バカ、お前女役だろ?」  ミドリ「あ−ら、女性上位が世の流れですわ。」   エリ「ちょっとやめて。何誤解してるのよ。」  ミドリ「R−18指定場面でした・・・      あ−あ、うらやまし−。」   エリ「そんな事してないって。」  ミドリ「隠しても無駄ですわよ。」  サトミ「もうネタは上がってんだからな。」   エリ「な、何?」  サトミ「この所、しょっちゅうケンジと夜会ってんだろ。」   エリ「勉強教えてもらってるのよ。」  ミドリ「そんな言い訳、小学生にも通じませんわ。」  サトミ「な、どこまで行ったんだよ?」  ミドリ「ホント、何も知らないような顔しちゃって。」  サトミ「一番進んでんだからなあ。」   エリ「だから違うんだって。(せき込む)」  サトミ「気が変わったら来なよ。      8時に塾終わるからさあ。(せき込む)」      しばらく3人で吸っているが、みんなしょっちゅうせき込む       ドアをノックする音が聞こえ、3人は慌ててジュ−スの空き缶にタバコを押し込む       イチコ、盆にコ−ヒ−や菓子を乗せて入って来る  イチコ「こんにちわ。」  サ・ミ「こんにちわ。」  イチコ「どうぞ、ごゆっくり。」  サトミ「いえ、もう帰りますから。」  ミドリ「そろそろ行かないと。塾に。」      サトミとミドリ、カバンを持ち逃げるように出て行く  サ・ミ「おじゃましました。」      イチコ、鼻をくんくんさせている   エリ「感じ悪う。」  イチコ「クラスのお友達?」   エリ「シライさんと、ムカイさん。」  イチコ「あの、髪染めて・・・」   エリ「見た目は関係ないでしょ!」  イチコ「イヤな事はイヤとはっきり言うのよ。」   エリ「変な心配しないでいいよ。      友達なんだから。」  イチコ「お母さん、向こうの部屋で支度してますからね。」   エリ「晩ごはんは?」  イチコ「ご飯は炊けてますから。」   エリ「じゃ、適当に食べとく。」  イチコ「エリさん。      時間がある時は・・・」   エリ「わかってるよ!」      イチコ、コ−ヒ−を1つ残して後の物を盆に乗せ出て行く       エリは、机について勉強道具を出すが   エリ「ケンジにメ−ル送ろうっと。」      エリ、携帯電話を出し、音楽を大音量でかける       エリが机について音楽に合わせて体を揺らしながらメ−ルを送っていると、ミ−タンがやって来て音楽に合わせシッポを振って踊っている       部屋を激しくノックする音  イチコ「エリさん!      エリさん!」      エリが音楽を切り、ドアを開けると服を着替えたイチコが入って来る  イチコ「何やってるんですか!」   エリ「勉強。」  イチコ「ずっと向こうまで聞こえますよ。」   エリ「BGM。」  イチコ「山の中の一軒家じゃないんですからね。」   エリ「音小さくするから。」      イチコ机に近付き、エリが慌てて隠そうとした携帯電話を取り上げる   エリ「見ないでよ!」  イチコ「中身まで見やしませんよ。」   エリ「じゃあ、いいでしょ。(イチコの手から携帯電話を奪い返す)」 イチコ「勉強してたんじゃなかったの?」   エリ「ちょっと息抜きだって。」  イチコ「通話料が月にいくら掛かってるのか、わかってるんですか?」   エリ「あなたに払ってもらわなくてもいい。」  イチコ「何言ってるの。」   エリ「バイトするから。」  イチコ「受験生がバイトなんて・・・      お父さんも絶対許してくれまんよ。」   エリ「だったら、お父さんの稼いだお金で払ってもらうの!」      イチコ少し動揺するが、意を決したように強い口調で  イチコ「エリさん。      こちらにお座りなさい。」      エリとイチコ、小テ−ブルに向かい合って座る       すると、ミ−タンがゆっくりとやって来たのでエリはミ−タンを膝の上に抱く  イチコ「ちょっと、そのネコ・・・(せき込む)」   エリ「ミ−タン、あっちの方、行っててね。」      エリがミ−タンに言うと、ミ−タンはゆっくりと再び部屋の隅に行って丸くなる  イチコ「ごめんなさいね。」   エリ「お母さんが飼ってたネコだから。」  イチコ「・・・エリさん。」   エリ「ミ−タンの話?」  イチコ「そうじゃないわ・・・      今日保護者会で担任の先生にお会いしたのよ。」   エリ「私、何も悪い事なんかしてない。」  イチコ「初めて見せて頂いたわ、模擬試験の成績表。(紙を取り出す)」   エリ「しょうがないんだよ。      模試って試験範囲とかないし。」  イチコ「実力がないって事なんでしょ。」   エリ「だからどうしようもないんだって。      勉強したからって、すぐ成績上がるようなもんじゃないんだから。」  イチコ「そういう事は、まともに勉強してから言いなさい。」   エリ「してるよ。」  イチコ「行く所がなかったらどうするの?      浪人させられるようなお金はありませんからね。」   エリ「就職する。」  イチコ「いい加減な気持ちで社会に出て通用すると思ったら大間違いよ!」   エリ「自分はどうなの?」      いつの間にかやって来ていたミ−タンがイチコの背後に回り、ちょっかいを出す  イチコ「キャッ!      何やってんの、このバカネコ!」      イチコ立ち上がる  イチコ「お母さん、もう行って来ますからね。      遅刻しないように学校行くんですよ。」      イチコ出ていく       エリ、ミ−タンを抱き締めて   エリ「あ−あ。」  ミ−タン「うっせえババアだな。       早く出て行きやがれ。」      エリ、ミ−タンを床に放すと、首をかしげる   エリ「あれ?」 ミ−タン「空耳かなあ。      変な声がする。」   エリ「ええっ!?」 ミ−タン「ミ−タンがしゃべってる!      嘘!?・・・      って嘘じゃないんですよねえ。      私がしゃべってるんです。      え?違いますよ、夢じゃありません、本当にネコの私がしゃべってるんですよ。」   エリ「あら、ビックリ。」 ミ−タン「あら、ビックリって、あなたどうしてそんな素っ気ない驚き方するんですか。」   エリ「私の勝手でしょ。」 ミ−タン「ネコですよ、あ−た。      ネコがしゃべってるんですよ、奥さん!」   エリ「みのもんたもビックリって?」 ミ−タン「もうちょっとこう、迫真の驚き方ってもんがあるでしょうに。」   エリ「例えば?」 ミ−タン「いいですか・・・      うわあっ!      ネ、ネコがしゃべってる!      こ、こんな事って・・・      う、うわああっ!!      化けネコだあっ!!      おかあさ−ん!!(絶叫)」      ミ−タン、頭を抱えてのたうち回っている   エリ「ちょっとオ−バ−じゃない?」 ミ−タン「いいんですよ、舞台の上ではこれくらいで。」   エリ「なんだか、今の下手な演技で疲れちゃった。」 ミ−タン「まだ疲れないで下さいよ。      ようやく私の出番なんですから。」   エリ「ずっと出てたじゃない。」 ミ−タン「セリフもないのに舞台に出てるのって一番辛いんですよ。      少しは私の身にもなって下さい!」   エリ「はいはい、良かったね、しゃべれようになって。」 ミ−タン「不思議だと思いませんか?」   エリ「うわあ、不思議だなあ。」 ミ−タン「もう!      調子狂っちゃうなあ。」      エリ、時間を気にしている ミ−タン「いやあ、可愛い顔してエリさんもすみに置けませんねえ。」   エリ「何言ってんだか。」 ミ−タン「あ、顔がマジになりましたよ・・・      そうですか、今日こそケンジさんと・・・」   エリ「ちょ、ちょっと待ってよ!」 ミ−タン「人前で言われるのは、はずかしいんですね。      いやあ、そうですか、そうですか。      若い人はうらやましい。」   エリ「あんた、まさか・・・」 ミ−タン「いや、実はそのまさかでしてね、長生きしたネコは人の心を読む事が出来るのです。      その上、私先程急に人間語を話す事が可能になりまして。」   エリ「それっていくらなんでも御都合主義過ぎない?」 ミ−タン「多少の御都合主義がないと演劇は成り立たないのですよ。」   エリ「多少じゃないでしょ。」 ミ−タン「とにかくどんなに変でもあなたはこの事実を受け入れるしかありません。      なぜなら、あなたはこの劇の準主役なのですから。」   エリ「私、主役だと思ってたんだけど。」 ミ−タン「この劇のタイトルに出て来るのはネコですよ。      私が主役に決まってるじゃありませんか。」   エリ「それじゃ、後はあなたにまかせたわ。私黙っとくから。」 ミ−タン「お前が全部心を読み取って言えばいい、ですって?・・・      あのねえ、そんな劇やったら、又審査員にセリフが説明的だとか文句言われますよ。」      エリ、ミ−タンに背を向ける ミ−タン「ねえ、意地張ってないで仲良くやりましょうよ。」  エリ「あんた何しに言葉なんかしゃべれるようになったのよ?      私に対するあてつけ?」 ミ−タン「ひどいなあ。      私、お世話になったエリさんの御恩に報いるため、突然変異してミュ−タントキャットになったんですよ。」   エリ「まるで、長靴をはいた猫みたいね。」 ミ−タン「そうです。      ミ−タンがミュ−タントと言う所に、作者の柔軟なセンスの良さが感じられませんか?」   エリ「それって言っててはずかしくならない?」 ミ−タン「とにかく私が出たからにはもう大丈夫です。」   エリ「何が?」 ミ−タン「エリさんが今悩んでいる事ですよ。」   エリ「今悩んでるのは、このおせっかいネコをどう処分するかって事。」 ミ−タン「お友達の事とか、ケンジさんとの・・・」   エリ「やめてよ!」 ミ−タン「おやおや、そんなに動揺するとは乙女ごころですねえ。」   エリ「バカ!」 ミ−タン「そして、イチコさんを『お母さん』と呼べる事。」   エリ「・・・そんなの、言葉だけの問題よ。」 ミ−タン「だったら、どうしてそんなに悩む事が・・・。」   エリ「人の心を暴いて何が面白いの!」 ミ−タン「あ、そろそろケンジさんがいらっしゃいますよ。」   エリ「ケンジの前でしゃべったら、ネコ鍋にするんだからね。」 ミ−タン「ちょっと!『ハンニバル』じゃないんですから。」   エリ「教授はネコなんてマズイもの食べやしないよ。」      呼鈴が鳴り、玄関が開く音  ケンジ「こんにちは−。」   エリ「いいよ−。誰もいないから。」      ケンジ、何かオドオドと部屋に入って来る  ケンジ「やあ。」   エリ「突っ立ってないで、座ったら。」      ケンジ、小テ−ブルに座る       エリ、コ−ヒ−カップを持って行く   エリ「何か飲む?」  ケンジ「いや、別に・・・」   エリ「お酒もあるよ。」  ケンジ「じゃ、ビ−ル。」      エリ、盆に缶ビ−ルとコップ2つ乗せて持って来ると、ケンジの隣に座り、ビ−ルをつぐ   エリ「じゃ、カンパ−イ。」  ケンジ「カンパ−イ。」      2人とも少し口をつけると、コップを置く  ケンジ「あのう・・・」   エリ「あ、音楽聞こう。何がいい?」  ケンジ「何でもおまかせ。」   エリ「じゃ、△△△ね。(音楽を流すため立ち上がる)」  ケンジ「アオタさん。」   エリ「何?      そんな改まって・・・(音楽を流し始める)」  ケンジ「今日は何の勉強?」   エリ「私、今日は勉強するような気分じゃないんだ。」 ケンジ「え?      でも・・・」   エリ「タバコ吸ってもいいよ。」      ケンジ、タバコを出すと1本口にくわえる       エリ、火をつけてやる  ケンジ「吸うかい?」   エリ「うん。」      ケンジ、エリにタバコを1本やる       エリ、火をつけて吸い始める   エリ「ねえ、遠慮しないで飲んでよ。(ケンジのコップにさらにつぐ)」  ケンジ「ありがとう。(又少しだけ飲む)」   エリ「私さあ、ホント今日は勉強する気分じゃないんだよね。」  ケンジ「アオタさん。」   エリ「ケンジ。」  ケンジ「ごめんなさい!」   エリ「ケンジ?」  ケンジ「もうこういう事はやめにしたいんだ。」   エリ「こういう事って?」  ケンジ「夜、家の人が居ないスキに、コソコソ会ったりする事。」   エリ「そう・・・      そうだったんだ。」  ケンジ「ごめん。      別にアオタさんが嫌いになったわけじゃないんだけど・・・」   エリ「もう、いいよ。」  ケンジ「僕も、親には塾に行くってウソついてるし・・・。」   エリ「いいって言ったでしょ!」  ケンジ「いや、だから、こういう付き合い方はどうかなっていうだけで・・・」   エリ「帰ってよ!      さよなら。」  ケンジ「アオタさん!      ちょっと待って。」      エリ、部屋を出て行ってしまう       ケンジも仕方なく帰って行く       しばらくしてエリが戻って来ると、音楽を急に切る ミ−タン「みんなどうして背伸びしたがるんでしょうね。      吸いたくもないタバコを吸って、飲みたくもないビ−ルを飲んで・・・。」   エリ「化けネコにわかってたまるもんですか。」 ミ−タン「(意外な美声で歌う)春色の汽車に乗って 海に連れて行ってよ       たばこの匂いのシャツに そっと寄り添うから・・・。」   エリ「それ、松田聖子?」 ミ−タン「私がお母さんに拾ってもらった頃、流行ってました。」   エリ「お母さんが?」 ミ−タン「ええ、亡くなられたお母さんが、いつもこのお部屋で・・・」   エリ「私、生まれてたのかな?」 ミ−タン「それはまだ先ですよ。この歌はお母さんとお父さんがまだ新婚ホヤホヤの頃です。」   エリ「そんな前になるんだ。」 ミ−タン「なぜ 知り合った日から半年過ぎても あなたって手も握らない」  エリ「その歌詞、ヤだな。」 ミ−タン「I will follow you あなたについて行きたい       I will follow you ちょっぴり気が弱いけど 素敵な人だから」      最後の一節はエリも歌う  ミ・エ「心の岸辺に咲いた 赤いスイ−トピ−。」 ミ−タン「昔も今も一緒なんですね。」   エリ「えっ?」 ミ−タン「好きな男の子が手も握ってくれない、って女の子は悩むんです。」   エリ「・・・あいつ、ホントおかしいんだよ。」 ミ−タン「真面目な男の子なんですね。」   エリ「塾サボって会いに来てるくせに、バカじゃないの。(泣き始める)。」 ミ−タン「ちょっと!      泣くような状況じゃないでしょうに。」   エリ「ケンジに嫌われちゃったから。」 ミ−タン「それはエリさんの思い過ごしですよ。」   エリ「ねえ、ケンジどう思ってた?      ミ−タン、心が読めるんでしょ?」 ミ−タン「彼の言葉通りですよ。」   エリ「だから、どうだって言うのよ!・・・      もういい、このバカネコ!」      エリ、そのまま出て行こうとする ミ−タン「連絡して行った方がいいですよ。      お友達、からかい半分であんな事言って・・・」   エリ「うるさい!」      エリ、出ていく       ミ−タン二番の歌詞を歌い始める       FO ミ−タン「九月の雨に降られて 駅のベンチで二人 ほかに人影もなくて 不意に気まずくなる       なぜあなたが時計をチラッと見るたび 泣きそうな気分になるの・・・」      FI       さびれた通りである       エリ、サトミ、ミドリの3人がとぼとぼと歩いて来る  サトミ「ねえエリ。      もう気がすんだでしょ。」   エリ「全然人が通らないじゃない。」  ミドリ「今日は平日の夜ですからねえ・・・」   エリ「あんた達が誘ったのよ。」  サトミ「いや、まさかエリがホントに来るとは・・・。」   エリ「私からかってただけ?」  ミドリ「エリはケンジとムフフ・・・      じゃないかなって・・・」   エリ「うるさいわね!」  サトミ「土曜の夜とかなら人も集まって来るんだけど。」  ミドリ「向こうから人が来ましたわ。」  サトミ「酔っぱらったオッサンじゃん。」      酔漢が大声で何か歌いながらやって来る       相当酔っている様子       3人集まって立ち竦み、酔漢が通り過ぎるのを待つが       酔漢声をかけて来る   酔漢「お−、お姉ちゃん!」  ミドリ「ヤだ−。」  サトミ「黙ってろよ。」   酔漢「な−に、こそこそ言うてはるのかな。」  ミドリ「な、何でもありません。」   酔漢「こ−んな夜中に、外を歩いとってはいけましぇんよ!」  サトミ「じゅ、塾の帰り・・・」   酔漢「おおっ!      何じゃってえ!」  ミドリ「もう帰りますから・・・」   酔漢「まあ、待ちんしゃい。      お、お兄しゃんとお話ししましぇんか!」      酔漢がつかみかかって来るので、3人悲鳴を上げて逃げるが、エリは腕をつかまれてしまう │ ミドリ「エリ!」 ミドリ「エリ!」  サトミ「ちょっと、悪いよ。」      ミドリとサトミ走って逃げて行く エリが酔漢を振りほどこうとしていると、悲鳴を聞いてかけつけて来た女性が現れる       イチコである  イチコ「クロダ様!      どうかなさいましたか?」   酔漢「おおっ?(エリの腕を離してイチコを見る)。」  イチコ「エリさん・・・」      エリ、呆然としゃがみ込んでイチコの顔を見ると、すぐに視線を伏せる   酔漢「ママのお、お知り合いでしゅか?」  イチコ「は、はい・・・      娘です。」   酔漢「こ、こがあな夜に出歩いて・・・      こりゃあ、不良娘じゃ!」  イチコ「申し訳ございません。」   酔漢「わ、わしが・・・      よう説教しとっちゃったけんのう。」  イチコ「クロダ様にご迷惑をおかけして、どう申し上げたら良いか・・・      わたくしからも、良く言い聞かせておきますので、どうかこの場はお引き取りを。」   酔漢「わかっとる・・・      わかっとるよ!(足元がふらつき、イチコの尻を触る)」      去って行く酔漢にイチコ深々とお辞儀して  イチコ「ありがとうございました。      又お越し下さい。」      酔漢、又大声で歌を歌いながら去って行く       イチコ、優しくエリに声をかける イチコ「エリさん。」      無言で立ち上がったエリの頬をピシャリと平手打ちすると、イチコしゃがみ込んで泣き始める  イチコ「やりたくてこんな仕事やってるんじゃないんだよ・・・。」      エリ、泣いているイチコから目を背けると、走り去る       FO       ミ−タンがラブバラ−ドを歌っている(注:作者のイメ−ジは「オリビアをききながら」) FI エリの部屋で、ミ−タンが歌っている エリが帰って来る ミ−タン「・・・ジャスミンティ−は眠り誘う薬 私らしく1日を終えたいこんな夜・・・      お帰りなさい。」   エリ「いい気なもんね。」 ミ−タン「エリさん・・・」   エリ「人の心、勝手に読むんじゃないのよ!」      エリ、隣室から缶ビ−ルを持って来ると、小テ−ブルに座り飲み始める       ミ−タンは歌い続ける ミ−タン「出会った頃はこんな日が来るとは思わずにいた making good things better       いいえすんだこと 時を重ねただけ 疲れ果てた あなた 私の幻を愛したの・・・」   エリ「(ビ−ルにむせて咳き込みながら)うるさいのよ!」 ミ−タン「この歌、嫌いですか?」      エリ、泣いていて答えない       ミ−タン、エリのそばまでやって来る ミ−タン「ビ−ルって、おいしいですか?」   エリ「・・・うるさい!      このバカネコ。」 ミ−タン「どうして人間って素直になれないんでしょうね。」   エリ「・・・人の心を勝手に読むなって言ったでしょ!」 ミ−タン「あなたを産んだお母さんもそうでした・・・。」   エリ「あっち行けよ!・・・      人が泣いてるのがそんなに面白いの?(テ−ブルに突っ伏してしまう)」      ミ−タン、部屋の隅に行く ミ−タン「あなたを産んだお母さん、お父さん、今のお母さん、あなたのお友達、ケンジさん。      みんな一緒ですよ。      素直になれないのはあなただけじゃない。      ホンの少しだけ勇気を出して、自分の気持ちを素直に伝えれば・・・      それが出来ないのが人間ですか?・・・」      エリがそのまま眠ってしまったので、ミ−タン、転がっていた毛布をエリに掛けてやる       FO        朝になって       FI       エリ目を覚ます   エリ「いててて・・・      頭が・・・」      ミ−タンがやって来て、エリの膝の上に乗る       エリ、ミ−タンを撫でてやりながら   エリ「ねえ、ミ−タン・・・      やっぱりネコがしゃべったりするわけないよね。      酔っぱらって変な夢見たのかなあ。」      ミ−タン、エリの袖を引っ張ったりしている   エリ「何?      ミ−タン・・・(時計を見る)      あ、ヤバイ、もうこんな時間だ!」      エリ、学校へ持って行くカバンを持って来る   エリ「どうしよう、一応、制服着てるんだけど・・・      ここで着替えるわけにもねえ。(観客に向かって舌を出す)。」      エリ、カバンを持つが再びためらう   エリ「花も恥じらうジョシコ−セ−が、寝起きのまんまってのも・・・      やっぱ、あっちで下着くらい替えてこうかなあ・・・      髪もバクハツしてるし、第一歯磨きも顔も洗ってないんじゃ、いくら劇とは言え私のイメ−ジ最悪よね・・・      ってこの間にも、時間は過ぎるばっかしか・・・      あ−、朝ごはんも食べたいよう!」      イチコが帰って来て顔を覗かせる  イチコ「エリさん!      まだいたの?」   エリ「行って来ま−す!」      エリ、迷う余地なくカバンを持って飛び出して行く       イチコ、小テ−ブルに座って頬杖をつくと深くため息       目の前には空になったビ−ルの缶がいくつかある       イチコ、中身を全部確かめながら再びため息       ミ−タン、ゆっくりと近付き、イチコにちょっかいを出す       イチコ、咳き込みながらミ−タンを払いのける  イチコ「もう!      あっち行って・・・      全く、どいつもこいつも・・・」      イチコ、部屋を出て行く       ミ−タンは部屋の隅で丸くなる       エリ、サトミ、ミドリ学校から帰ってくる  サトミ「カッタルイなあ。」  ミドリ「何か面白い事はございませんかしらね。」 ミ−タン「勇気を出して。」  サトミ「今何か聞こえなかったか?」  ミドリ「そう言えば何か・・・」   エリ「空耳だよ・・・      そうだ、△△△聞こう。      新しいの仕入れて来たんだ。」  サトミ「△△△はいいって言っただろうが。」   エリ「まあ、聞いてみてよ。」      エリ、構わず音楽を流す  ミドリ「結構いい感じでございますわね。」   エリ「でしょ。」  ミドリ「お姉様。」  サトミ「・・・ま、たまには△△△もいいかな。」      ミ−タン、音楽に合わせてシッポを振り踊っている  ミドリ「あら、あそこのニャンちゃん。」  サトミ「なんだ、芸するんじゃね−か。」   エリ「ねえ、昨日の事だけど・・・」  ミドリ「あ、あれは平日だったから・・・」  サトミ「エリ、ごめん!      酔っぱらいは苦手なんだよ。」   エリ「次の土曜の夜に行ってみようよ。」  サ・ミ「え−っ!?」   エリ「土曜なら若い人もたくさん集まって来るんでしょ。      ちょっとお化粧して、スカ−トも思いっ切り短くしてさ。」  サトミ「・・・酔っぱらいとか、変な奴多いから、やめといた方が・・・。」   エリ「じゃあミドリ、ネットで売る所見せてくれない?      私も今度、下着売ってみるから。今はいてるのとか。」  ミドリ「・・・あ、あのう、それは・・・。」   エリ「な−んちゃって。      ウソよ。」  サトミ「なんだ、お前冗談きついなあ。」  ミドリ「でも、エリさん、結構お似合いですわよ。」   エリ「もう、冗談に決まってるじゃない。」  サトミ「エリは美形だからハマルと怖いかもな。」      サトミ、タバコを取り出すと口にくわえ、箱をミドリに差し出す       ミドリも口にくわえると、サトミ、箱をエリに差し出す       エリ、少しためらっている ミ−タン「タバコ吸うのやめようよ。」  サトミ「えっ?」  ミドリ「又、何か変な声が・・・」   エリ「私が言ったの。      タバコ吸うのやめない?      全然おいしくないし、無理して吸っても意味ないじゃない。」  ミドリ「そ、そうですわよね。」  サトミ「エリがそこまで言うんなら、今日はやめとくか。」      3人ともタバコを箱に戻す   エリ「土曜はさ、夜じゃなくて、お昼に遊び行こうよ。」  ミドリ「そ、それがよろしゅうございますわ。      お姉様?」  サトミ「そうだな。      そうするか。」   エリ「じゃ、学校帰りにね・・・      悪いけど、今日はもう帰ってくれる?      ちょっと予定あるから。」      サトミとミドリ、何か気が抜けたようにそそくさと挨拶すると帰って行く       ミ−タン、妙に落ちついた調子で口を開く ミ−タン「ホンの、少しの、勇気でしたね。」   エリ「ミ−タン、やっぱりしゃべるんだ。」 ミ−タン「後は、素直な気持ちを、伝える事ですよ。」   エリ「でしゃばらないで。」 ミ−タン「おや、今日は、早い時間に、彼氏を呼んだんですね。」   エリ「彼氏なんて言うな!」 ミ−タン「いやあ、いいですねえ、若い人は。」   エリ「わかってるね。      ネコ鍋だからね。」 ミ−タン「はい、はい。      私は、もう、疲れましたよ・・・」      呼鈴が鳴り、玄関が開く音  ケンジ「こんにちは−。」   エリ「入っていいよ−。」      ケンジ、何かオドオドと部屋に入って来る  ケンジ「やあ。」   エリ「昨日はごめんね。      何かイライラしちゃってたから。」  ケンジ「アオタさん。」   エリ「まあ、座ってよ。」      ケンジとエリ、小テ−ブルに座る       イチコが入って来る  イチコ「こんにちは。」  ケンジ「こんにちは。      お邪魔してます。」   エリ「同じクラスのキジマ君。      よく勉強教えてもらってるんだ。」  イチコ「そうですか。      エリがいつもお世話になります。      コ−ヒ−でも・・・」   エリ「いいからあっち行っててよ。」  イチコ「はいはい。」      イチコ出て行く  ケンジ「お母さん?」      ミ−タン、エリに向かって大きくウンウンとうなずくフリ   エリ「違うよ・・・      でもケンジの言う通り、家の人に隠れてコソコソはいけないって思ったから。」  ケンジ「僕も夜はやっぱりマズイと思ったよ。」   エリ「ねえ、ケンジ・・・」  ケンジ「アオタさん、僕たちもう三年生だから・・・」   エリ「それで?」  ケンジ「そろそろ勉強に専念した方がいいかなと・・・」   エリ「そう・・・      そうよね。」  ケンジ「それに、君は僕なんかにはもったいない気もするし。」   エリ「・・・今度は学校で勉強教えてくれる?」  ケンジ「そりゃ、もちろん。」   エリ「じゃ、帰る?」  ケンジ「ああ・・・      さよなら。」   エリ「さよなら。」      ケンジ出て行く ミ−タン「いいんですか?」   エリ「ケンジの心、読めたでしょ?」 ミ−タン「・・・どっちもどっち、という所でしょうか。」   エリ「スッキリしたよ・・・(泣き始める)」 ミ−タン「こればっかりはねえ・・・」      ミ−タン「赤いスイ−トピ−」を静かに歌い始めるが、だんだん声が小さく元気がなくなって行く       エリ、ミ−タンが弱っているのに気付き、そばに行って抱く   エリ「ミ−タン。」 ミ−タン「いつか、きっと、素敵な人に、出会えますよ。」   エリ「どうしたの?」 ミ−タン「・・・もうじき、お迎えが来そうでしてね。」   エリ「そんな!」 ミ−タン「・・・少しの、勇気を、持って・・・      素直な、気持ちを・・・。」   エリ「ミ−タン!?・・・      ミ−タン!・・・      キャ−ッ!」      エリ、ミ−タンが死んだのを知り、床に横たえる       悲鳴を聞きつけたイチコが急いで入って来る  イチコ「エリさん!」   エリ「ミ−タンが・・・(その場に泣き崩れる)」      「赤いスイ−トピ−」のメロディが静かに流れ始める       イチコ、状況を理解すると、エリの側に行って優しく声をかける  イチコ「エリちゃん。」   エリ「お母さん。」  イチコ「エリちゃん!?」   エリ「お母さん。      私の、お母さんだよね。      信じてもいいんだよね。」  イチコ「そうですよ。」   エリ「1人にしないで。」  イチコ「エリちゃん!」      イチコ、思わずエリを強く抱き締める       音楽が大きくなり閉幕