「春、それぞれの・・・」 中島清志 作 〔キャスト〕♀4人      ♀ ハラダユキ (高校3年生)      ♀ ツルタサナエ(高校3年生)      ♀ ナガイトモミ(高校3年生)      ♀ イトウマサコ(下宿屋の女主人:通称オバチャン)      開幕       イトウマサコのやっている下宿屋の、みんなが集まる部屋である       何も置かれていないテ−ブルが2つ       マサコが1人ボウッとテレビを見ているが 今時珍しい裸電球にシェ−ドがかかっただけの照明灯が下がっている天井をふと見やり マサコ「うわああっ!」      マサコ、天井に何かいるのに気付いてあわてふためいているが、それがポトリと落ちたらしく、新聞紙を持って床にはいつくばり、どこへ行ったのかこわごわ探っている       そこへ、ユキ大きな買い物袋を沢山持って帰って来る       ユキが袋を置いてマサコの背中をつつく  ユキ「オバチャン?」 マサコ「うわあっ!」  ユキ「ぎゃあっ!」 マサコ「あんたまで驚かんでもええがね。」  ユキ「もう、何やってるの?」 マサコ「ムカデよね。」  ユキ「ムカデ?」 マサコ「じゃけえ、こういう黒うてゲジゲジの・・」  ユキ「ムカデくらい知ってるよ。」 マサコ「あ、ほれ、今あんたのお尻の横を・・・」  ユキ「キャ−ッ!」 マサコ「逃げ足の早い奴じゃ。一体どこへ隠れたんかのう・・・」  ユキ「おどかさないでよ。」 マサコ「いや、ホンマじゃ。こがいなでかいんが、さっき天井からボロッと・・・」  ユキ「タンスの後ろにでも逃げ込んだんじゃないの。」 マサコ「どうすりゃええんんかいの。」  ユキ「オバチャン、フマキラ−。」 マサコ「おお、そうじゃった。」      マサコ、戸棚の中を調べて マサコ「ユキちゃん、こりゃいかん。」  ユキ「フマキラ−ないの?」 マサコ「こりゃあ、キンチョ−ルじゃ。」  ユキ「どっちでもいいから貸してみて。」      ユキ、キンチョ−ルを調べて  ユキ「オバチャン、これカラッポだよ。」 マサコ「あんたらがここへ来る前から置いとったやつじゃけんねえ・・・」  ユキ「他にないの?     殺虫剤。」 マサコ「これなんかどうじゃろうかねえ?」  ユキ「なんか古過ぎて字が消えてるよ。」 マサコ「たぶん殺虫剤じゃったはずなんじゃけど・・・」  ユキ「とにかく使ってみよ。」      ユキ、スプレ−缶を持ってタンスの横に行き  ユキ「こっちから吹いてみるから。」 マサコ「待ちんさい。     ムカデが出て来たらどうするんね。」  ユキ「捕まえてよ。     ほら、これでいいから(辺りに置いてあったタオルを手渡す)。」 マサコ「これ使うてええんね?」  ユキ「いいよ。」 マサコ「ホンマにええんね?(タオルを広げて)     ほら、キティ−ちゃん。」  ユキ「(慌てて取り戻す)ちょっと!     どうして私のキティ−ちゃんがこんな所にあるの?」 マサコ「布巾を切らしてしもうてのう。」  ユキ「まったく!     だったらこれで(積んであった新聞紙を手渡す)。」 マサコ「あんたあ、もしかして恐ろしい事考えるとるんじゃなかろうね。」  ユキ「何が?」 マサコ「何が、じゃないわいね。     ムカデが出て来たらどうせえ言うんね。」  ユキ「だから、それをオバチャンが新聞で捕まえて・・・」 マサコ「何言ようるんね。」  ユキ「捕まえなきゃ意味ないじゃん。」 マサコ「わたしゃあ、何が嫌い言うてムカデくらい嫌いな物はないんじゃけえね。     子供の頃に寝とったら、天井から落ちて来たムカデに顔を刺されてのう。」  ユキ「ふうん。     痛かった?」 マサコ「そりゃあもう、痛いなんてもんじゃなかったわいね。     朝になったら顔中が水ぶくれみたいに膨れ上がっとってのう、おかげでこがいな顔に・・・     何を、失礼な!」  ユキ「何も言ってないよ。」 マサコ「いや、今笑うたじゃろう。」  ユキ「そりゃ思い過ごしだって。」 マサコ「歳とると思い過ごしも多くなるんじゃ。     じゃけえ、ユキちゃんがやりんさい。」  ユキ「え−。     私だってヤだよ。」 マサコ「年寄りにそがいな危険な事をさせて、ええと思うちょるんね?(腰が痛むフリ)     うっ!     こ、腰が・・・」  ユキ「こういう時だけ、年寄りのフリするんだから・・・」      ユキとマサコ スプレ−缶と新聞紙を交換する  ユキ「オバチャン、そっちから吹いてムカデを追い出してよ。」 マサコ「こりゃ、どうすりゃええんかいの?」  ユキ「その先っちょのを強く押せばいいのよ。」 マサコ「これでええんかいね。(いきなりスプレ−を噴出させる)」 ユキ「もう!     どうして私に掛けるのよ!」 マサコ「試しよね。     まあこれでやり方はわかったけえ、大丈夫じゃ。」  ユキ「それホントに殺虫剤なの?」 マサコ「何でもええ。     ムカデのやつビックリして逃げ出すじゃろう。」      ユキが新聞紙を持ち反対側で待ち構えている。      マサコはたどたどしい手付きでタンスの隙間にスプレ−缶のノズルを入れると、スプレ−する マサコ「出て来たねえ?」  ユキ「まだ−。」 マサコ「えらいニオイになって来たのう。     こっちの方が倒れそうじゃ。」  ユキ「キャ−ッ!」 マサコ「こりゃ、しっかり捕まえんか。     逃がしたらいけんで。」      ユキ、何度かトライしてムカデを捕まえ、新聞紙でグルグル巻きにする  ユキ「オバチャン、捕れたよ。」 マサコ「なかなか大物じゃったろう?」  ユキ「これ、どうしようか?」 マサコ「そりゃあ、外にほっぽっといてやりんさい。」  ユキ「え−?!     そしたら又出て来るよ。」 マサコ「ムカデ言うても生き物じゃけえ、殺すのはかわいそうじゃ。」  ユキ「ここはやっぱり、包丁でみじん切りにするとか、トンカチで粉々に叩き潰すとか、コンロの火で灰になるまで焼くとかした方がいいよ。」 マサコ「あんたあかわいらしい顔して残酷な事考えるんじゃねえ。     恐ろしや、恐ろしや・・・」  ユキ「生かしといて刺されたら大変じゃない。」 マサコ「どうせもうあんたらには関係ないよね。     刺されるのは私じゃ。逃がしてやりんさい。」  ユキ「オバチャン・・・」      ユキ、新聞紙を持って部屋を出て行く マサコ「みんな、遅いねえ・・・」      ユキ戻って来る  ユキ「庭のはしっこにあのまま置いて来たよ。」 マサコ「ほうね。     そりゃあご苦労じゃったねえ。」  ユキ「オバチャン、ぼうっとしてないで・・・」 マサコ「え?・・・     おお、そうじゃ。     お別れ会の準備じゃった。」  ユキ「チャンネル変えていい?」 マサコ「待ちんさい。     ○○君を見ようるんじゃけえ。」  ユキ「私だって、これに間に合うように帰って来たんだから。」      ユキ、チャンネルを変える  ユキ「ほら、××××が出てるんだから。」 マサコ「何言ようるんね。」      マサコ、チャンネルを変える マサコ「やっぱりスマップ言うたら○○君じゃろう。」  ユキ「××××の方がカッコイイよ。」      ユキ、チャンネルを変える マサコ「あんたあ面喰いじゃねえ。」  ユキ「カッコイイじゃん。」 マサコ「あんまり二枚目の男はロクなもんじゃないんで。」      マサコ、チャンネルを変える マサコ「この程度の顔の方が、性格が良うて、ええもんじゃ。」  ユキ「見るだけだもん。     別に付き合うわけじゃ・・・」 マサコ「ユキちゃん。     あんたあ、高校三年間男っけが全然なかったねえ。」  ユキ「余計なお世話。」 マサコ「トモちゃんみたいなのも困るがねえ。」  ユキ「人それぞれだからさ。」 マサコ「ユキちゃんはいつボ−イフレンドを連れて来るんかねえ、って心配しようったんよ。」  ユキ「連れて来なくたって、いるんだもん!」 マサコ「あんたあ正直な子じゃけえ、嘘ついてもすぐわかる。」  ユキ「ふん!」 マサコ「男の子連れて来れば来るで心配じゃし、全然連れて来んのも心配じゃねえ・・・     ユキちゃん、はぶてとらんで見んさい見んさい。」      マサコ、チャンネルを変える マサコ「ユキちゃんのふくれた顔を見るのも、これで最後なんじゃねえ。」  ユキ「オバチャン・・・」 マサコ「あんたらがうちに来たのが、ついこないだみたいじゃ・・・」  ユキ「ねえ、みんなが帰るまでに準備しておこうよ。」 マサコ「そうじゃったのう。」      ユキ、買い物袋からいろんな物を出しながら  ユキ「はい、お寿司の盛り合わせ。」 マサコ「こりゃあ、豪勢なねえ・・・(テ−ブルの上に置く)     オバチャンがやっとくけえ、ユキちゃんは部屋で着替えて来んさい。」  ユキ「いい。     私も手伝う。」 マサコ「どうしてね?     先にお風呂に入って来てもええんよ。」  ユキ「これで最後だから・・・     制服着ていたいの。」 マサコ「そうね・・・     あんたはホントに制服がよう似合う子じゃけえね。」  ユキ「どうせガキっぽいから。」 マサコ「そのキティちゃんもよう似合うしねえ。」  ユキ「もう!」      2人で笑う  ユキ「私、すき焼きの鍋とコンロ出して来るね。」 マサコ「じゃがあんたはホントにええ子じゃ。」      ユキ、戸棚から鍋とカセットコンロを出して持って来る       マサコは袋からすき焼きの材料などを出してテ−ブルに置いている  ユキ「私、別にいい子じゃないよ・・・     全然取り柄がないし・・・」 マサコ「こうやってオバチャンの手伝いをしてくれるのは、あんたが一番よね。     こがあなええ子を、男の子はどうして放っとくかねえ・・・」  ユキ「その話はいいから!」 マサコ「はいはい・・・     まあ、いっぱい買うて来てくれたんじゃね。」  ユキ「お金ほとんど使っちゃった・・・     あ、お釣り。」 マサコ「ええから、取っておきんさい。     お使い料じゃ。」  ユキ「え−!?     だったら、加減して買って来るんだったのに。」 マサコ「こら!」      2人で笑う       マサコ、酒の一升瓶を出して マサコ「ユキちゃん。     こりゃなんね?」  ユキ「すき焼きに使うんよ。」 マサコ「料理酒で良かったのに。」  ユキ「お父さんが、千福がおいしいって言ってたから・・・」 マサコ「千福大吟醸・・・     まあもったいない。     二級酒で十分じゃに。」  ユキ「これ下げて帰るの恥ずかしかったんだよ。」 マサコ「まあええ。     じゃが余った分はどうするんね。」  ユキ「オバチャンが飲めばいいよ。」 マサコ「わたしゃあ、お酒飲んだりせんわいね。」  ユキ「だったら、私らが飲んであげる。」 マサコ「未成年が何言ようるんね。」  ユキ「冗談よ。」      2人、買い物袋の中身を全て出したようだ マサコ「遅いねえ。」  ユキ「サナエは、9時までには帰るって・・・」 マサコ「まあ、一番早いあんたが帰ったんが、8時前じゃけえね。」  ユキ「卒業式の後だから、クラスの友達と遊んでるんだと思う。     カラオケとかで。」 マサコ「ほうよねえ・・・     あんたは早う帰っても良かったんね?」  ユキ「あんまり遅くなるの嫌いだから・・・     それに買い物があったし。」 マサコ「トモちゃんはどうかねえ?」  ユキ「トモミは・・・」      部屋の外で大きなバイクの音       トモミ帰って来る       片手にヘルメット マサコ「トモちゃん!     お帰りなさい。」 トモミ「ただいま。」 マサコ「カズ君に送ってもろうたんね。」 トモミ「うん。」 マサコ「トモちゃんは帰らんのんじゃないか、言うて心配しょうったんよ。」 トモミ「9時からお別れ会って聞いてたから・・・」 マサコ「トモちゃん、カズ君の後ろに乗せてもらうのにちゃんと、その・・・     カブトはかぶりょうるんじゃね?」  ユキ「オバチャン。     ヘルメットだよ。」 マサコ「何でもええが。     とにかく交通事故には気を付けんといけん。」 トモミ「カズ君、かぶらないと乗せてくれないから。」 マサコ「まあ、とにかく部屋に置いて来んさい。     その・・・」  ユキ「ヘルメット。」 トモミ「じゃ、ついでに着替えて来る。」      トモミ、奥の部屋に入って行く  ユキ「トモミが早く帰って来るとは思わなかったな。」 マサコ「どうしてね?」  ユキ「だって、卒業式の後だし・・・」 マサコ「そがいな事気にするもんかね。」  ユキ「そうかなあ?」 マサコ「そうですよ。     ユキちゃんもトモちゃんも、みんな私の大事な娘なんじゃけえ・・・」  ユキ「オバチャン、トモミにもっと注意してあげないと・・・」 マサコ「何をね?」  ユキ「あの調子じゃ、来年も卒業出来るかどうかわからないよ。」 マサコ「そう言うてものう・・・」      トモミ、私服に着替えて戻って来る トモミ「まだサナエは帰ってないの?」 マサコ「トモちゃんが2番目じゃ。」 トモミ「普段さんざん人の悪口言ってるくせに・・・」 マサコ「まあまあ、今日はパ−ティ−じゃ。     みんな仲良うせんといけんが。」  ユキ「トモミ。     お皿並べるの手伝ってよ。」      3人でパ−ティ−の準備をしていると、部屋の外で大きな歌声が聞こえる       女の子が酔っぱらって歌っているようだ       サナエが帰って来る       サナエ、酔っぱらって歌っている サナエ「ただいま−!」  ユキ「あ−、お酒飲んでる。」 サナエ「ちょっとだけだって・・・」  ユキ「ちょっとって?」 サナエ「缶ビ−ル1本。」  ユキ「それだけ?」 サナエ「悪いかあっ!」  ユキ「オバチャン、怒んなきゃ。」 サナエ「いいってことよ!・・・     卒業、おめでとう!     ああっ!」      立ち上がったサナエ、腰を抜かしてへたり込む       トモミ以外、心配してかけ寄る  ユキ「サナエ!     これ何本?(両手の人差し指だけ立てて見せている)」 サナエ「いっぽんといっぽんで、にほん!」 トモエ「飲めもしないくせに飲むんじゃないよ。」 マサコ「まあまあ。     今日はおめでたい席だから・・・」 サナエ「そうそう。     み−んなめでたく卒業、おめでとう!」      トモミ、不機嫌そうに席を立つと、奥の部屋に入って行く       マサコ、後を追う マサコ「トモちゃん!」  ユキ「サナエ、あんな事言っちゃ駄目だよ。」 サナエ「私、な−んか、悪かったあ?」  ユキ「酔っぱらってるから、あんまりしゃべらない方が・・・」 サナエ「私、酔ってな−いよう!」」  ユキ「それが酔ってる証拠なんだって。」 サナエ「だ−いじょうぶだって。」  ユキ「とにかく、お願いだからさあ・・・」 サナエ「卒業、おめでとう、がいけないのお?」  ユキ「トモミがいるんだからさあ・・・」 サナエ「トモミ?」 マサコ「そうですよ。     あの子もあれで気にしてるんですから・・・     トモちゃ−ん(部屋を出て行く)」  ユキ「サナエ。     わかった?     ねえ、わかったの?(ふにゃふにゃしているサナエを揺り動かしながら諭している)」 サナエ「わあった・・・     わあったから、さわんなよ!」  ユキ「大丈夫かなあ?」      マサコがトモミを連れ戻して来る トモミ「ごめんなさい。     せっかくのパ−ティ−なのに感情的になって・・・」  ユキ「トモミ・・・」 マサコ「さあさあみんな!     お別れ会を始めましょう。」      すき焼きを作り始める       カセットコンロの火をつけ、油を引き、肉を焼き始める ユキ「うわあ、おいしそう。」 サナエ「私トイレ・・・     ねえお肉残しといてよ。」 マサコ「大丈夫ですよ。     タップリありますからね。」  ユキ「サナエ!     ちゃんと手洗って来なさいよ。」 サナエ「わあってるよ!」      サナエ、よろよろしながら奥の部屋に入って行く マサコ「サナエちゃんがねえ・・・」  ユキ「あれ、ちょっとヤバイよ。」 トモミ「大丈夫。」  ユキ「どうして?     サナエたぶん生まれて始めてお酒飲んだんだよ。」 トモミ「ううん。」  ユキ「えっ?」 トモミ「あいつにビ−ル飲ませた事あるんだ。」  ユキ「うそ・・・」 マサコ「(笑いながら)知ってますよ。     去年のお祭の後でしょ。     うちに女の友達いっぱい連れて来たとき・・・」 トモミ「バレてたか。」 マサコ「大目に見とってあげたんじゃけどねえ。」  ユキ「私そんなの知らないよ。」 トモミ「ユキはまっさきに寝ちゃったから。」 マサコ「ええんよね。     ユキちゃんこそ、お酒なんか飲んだらひっくり返るかも知れんよ。」  ユキ「そんな事ないもん・・・     結構飲めるんだから。」 マサコ「あんたあホンマに嘘のつけん子じゃ・・・     それじゃユキちゃんおすすめの千福が入りますよ。」      マサコ、酒を鍋に入れる  ユキ「うわあ!」 トモミ「すごいニオイだね。」  ユキ「私、なんか気分悪くなりそう。」 マサコ「これだけいいお酒で煮込めば、お肉も柔らかくなりますよ。」  ユキ「ねえ、どんどん材料入れよう。」 マサコ「醤油と砂糖で、お出汁をとってからですよ・・・     トモちゃん、お願い出来る?」 トモミ「うん・・・」      トモミ、醤油と砂糖を持って来ると、出汁をとり始める マサコ「トモちゃんはお料理上手だからねえ・・・」  ユキ「あ−、耳が痛いわ。」 トモミ「ユキと結婚した人は悲惨だよね。」  ユキ「どういう意味よ。」 マサコ「それは私も心配じゃねえ。」  ユキ「オバチャンまで、言わなくていいのに。」 マサコ「料理の出来るダンナさんと結婚するんよ。」  ユキ「ひど−い。」      サナエ、戻って来る サナエ「あら、名コックさんの登場ね。」  ユキ「サナエ!」 サナエ「早くお嫁に行ったらどうかしら?     高校なんか・・・」      ユキあわててサナエに駆け寄り、口を塞いで黙らせる マサコ「サナエちゃん!     今日はめでたい席なんですからね。」 サナエ「ごめんなさい・・・」      みんな席に着くと、黙ってすき焼きを炊いている マサコ「もうすぐ出来ますよ。     ユキちゃん、お別れ会を進めてね。」  ユキ「あ、はい。     みんな食べる準備をして下さい・・・     それからジュ−スをついで・・・」 サナエ「私、ビ−ル!」 トモミ「バカ。」 マサコ「はいはい。     お酒を飲みたい人は、後からね・・・」  ユキ「オバチャン!」 マサコ「いいんですよ。     本当に、もうみんなお別れなんですから・・・」  ユキ「では、準備が出来たら・・・     カンパ−イ!」 みんな「カンパ−イ!」  ユキ「それではさっそくですが、まず、え−っと、イ、イトウ・・・」 マサコ「オバチャンでいいわよ。」  ユキ「オバチャンからご挨拶を頂きたいと思います。」      みんな拍手 マサコ「まあ、私が?」  ユキ「お願いします。」 マサコ「困ったわね・・・     それじゃこうしましょう。     みんなから一言ずつしゃべってもらって、最後に、という事で。」  ユキ「みんな、いいですか?」      みんな、困ったような反応 サナエ「な、何をしゃべればいいんですか?」 マサコ「3年間の思い出と、これからの夢を聞かせてちょうだい。     サナエちゃんから。」 サナエ「私の夢はあ、ナ−スになって病気の人を助けてあげる事です。」  ユキ「それは言わなくてもわかってるよ。     思い出を話さなきゃ。」 サナエ「え−!?     どうしよう、思い出って言っても・・・」 マサコ「下らない事でも何でもいいんですよ。」 サナエ「え−っと・・・(本当に下らない思い出を話す)。」 トモミ「くだらなすぎだよ。」 サナエ「・・・うるさい。」 トモミ「何マジで腹立ててんのよ。」  ユキ「やめて。     雰囲気悪いよ。」 サナエ「わ、わたしさあ・・・」 トモミ「酔っぱらいはもう寝てな。」 サナエ「今まで我慢してたんだ。     トモミに言いたい事がある・・・」  ユキ「ホントもうやめてよ。」 サナエ「もっと真面目にやったらどうなんですか。     いい加減、オバチャンに迷惑かけるの、やめて・・・」 トモミ「ふうん。     それが言いたい事?」 サナエ「あんたなんか、さっさと高校やめりゃいいのよ!」  ユキ「サナエ!     あんたもう酔っぱらってるから・・・」 マサコ「トモちゃん!」      トモミ憮然として立ち上がる マサコ「トモちゃん。     いいのよ、高校やめないで。」 トモミ「お前らにうちの気持ちがわかんのかよ。」 サナエ「や−めちまえよう−。」  ユキ「サナエ。」      ユキ、サナエを押さえている マサコ「トモちゃん、待って。     せっかくのパ−ティ−が台無しよ。」 トモミ「オバチャン・・・     ごめんなさい。」      トモミ、部屋を出て行く  ユキ「サナエ、いい加減にしてよ。」 サナエ「いい加減にしてはトモミの方でしょ。     学校サボッて、男の子と遊び回ってさあ・・・     オバチャンがどれだけ迷惑してるか。」 マサコ「ええんよね。     わたしゃあ、ええんじゃけえ。」 サナエ「良くないよ。     学校の先生が来て話したりするのも全部オバチャンとじゃない。     なんでいつもオバチャンが嫌な思いしなきゃなんないの?     親でもないのに・・・」 マサコ「それを言うちゃあ、いけんのんよ。」  ユキ「あのう、私も・・・     やっぱりトモミにはこの機会にちゃんとしてもらわなきゃ、いけないって・・・     やっぱりオバチャン、トモミの親じゃないんだし・・・」 マサコ「言うちゃいけん、言うとろうに!」 サナエ「でも・・・」 マサコ「黙りんさい!」      間 マサコ「あんたらに言われんでも、そんな事はようわかっとる・・・     それに、どの道、トモちゃんともこれでお別れなんじゃ。」  ユキ「ど、どうして?」 マサコ「私はね、もうこの仕事やめるんよ。」  ユキ「そんな・・・」 マサコ「じゃけえ、もうトモちゃんの面倒を見てやる事も出来ん。」 サナエ「(泣き声で)聞いてないよ・・・」 マサコ「あんたらがおらんようになってから、トモちゃんにはようよう言い聞かせてやるつもりじゃった・・・私、イトウマサコは、今日限りで40年の下宿屋稼業をやめます。」      間  ユキ「オバチャン。     どうして?」 マサコ「やめるのかって?・・・     もう年じゃし、橋が出来て島から通えるようになって、下宿生はきっとあんたらで最後じゃ。」  ユキ「それじゃあ、トモミは一体・・・」 マサコ「・・・言いとうないが、オバチャンお金がもたんのよ。」  ユキ「どういう事?」 マサコ「トモちゃんの所からは一銭も貰うとらん。     それどころか、授業料を払ようったんも私じゃ。     トモちゃんの親の名義でね・・・     もうこれ以上は限度よね・・・」 トモミ「何だよそりゃ。」      トモミ、部屋に入って来る  ユキ「トモミ。」 マサコ「聞いとったのかい?」 トモミ「うん・・・     うちの親、うちを見捨てとったんじゃね。」 マサコ「違うんよ、トモちゃん。     事情があるんじゃ、そういう風に思うちゃいけん!」 トモミ「それでさ、今度は、オバチャンもうちを見捨てるんじゃ。(大声で泣き始める)」      トモミが子供のように泣いているので、みんな黙りこくっている トモミ「うちは・・・     どうしたらいいん?」 マサコ「親御さんの所から通うかねえ・・・」 トモミ「嫌よ!」 マサコ「自分でよう考えんさい。     なんぼひどい親じゃ言うても、親は親、子供は子供、一生血のつながりは消えんのんよ。」 トモミ「うち、アルバイトしてお金返します。」 マサコ「それはもうええんよね。」 サナエ「オバチャン!     もう1年、トモミを置いてもらうわけにはいかないんですか!     私も、看護学生だから少しお金貰えるんです。     それを・・・」 マサコ「そんな事はせんでええ。     オバチャン、もう疲れたんじゃ・・・」 サナエ「お願いします!     お願いしますから・・・」      土下座しているサナエの肩に、トモミ手を掛けて トモミ「サナエ・・・     ありがとう、もういいよ。」 マサコ「オバチャンはトモちゃんの親じゃないんよ。     一生あんたの面倒見てやるわけにはいかんのんじゃ・・・     ごめんね。ごめんね・・・」      トモミ、酒をコップに注ぎマサコにすすめる トモミ「オバチャン。     これまで本当にお世話になりました。」 マサコ「トモちゃん・・・     飲めても飲めんでも、みんな飲みんさい。」      トモミ、みんなに酒を注ぎ、最後に自分のコップに注ぐと一口飲み トモミ「あのう、うちずっとオバチャンに甘えてました・・・     これからどうするかまだわからないけど、とにかく高校卒業します。     それから働いてオバチャンにお金を返します。」 マサコ「カズ君と、よう相談するんよ。」 トモミ「・・・カズ君も高校は出ておけって・・・」 マサコ「はあ、同棲しとるんじゃろう?」 トモミ「オバチャン!?」 マサコ「オバチャンは何でもお見通しよね。」 トモミ「ごめんなさい!」 マサコ「ええがね、ええがね・・・     これも人生じゃ・・・」      ユキ以外みんなでコップを傾ける マサコ「トモちゃんの夢を聞いとらんねえ。」 トモミ「う、うちの夢は・・・     笑わないで下さい。     お嫁さんになる事です。」 サナエ「トモミ・・・     私、笑わないよ。」 トモミ「うち、小っちゃい頃からお父ちゃんとお母ちゃんが嫌いでした。     いつも夫婦喧嘩してて、それでうちに当たって来るんです。     毎日のように怒鳴られて、叩かれて・・・」 マサコ「トモちゃん、その話はもういいのよ。」 トモミ「だから、お嫁さんになって、子供産んで、その子供をいっぱいかわいがってあげたい・・・     それが、うちの夢です。」 マサコ「素敵な夢じゃねえ・・・     オバチャン、目にゴミが入ったかも知れん・・・」  ユキ「ねえみんな。     ちょっとこっち来てよ。」      ユキ、舞台中央の正面に立ち、上空を指さしている       みんな集まって空を見上げ  ユキ「ほら、今日の夜空、星がとっても綺麗だよ。」      みんなウットリと空を見上げているが、サナエ気分が悪くなり、もどし始める トモミ「サナエ!」 ユキ「もう!     ム−ドないんだから・・・」 マサコ「あんたたちとのお別れには、ピッタリじゃ・・・」      みんな軽く笑う       FO       音楽流れる       サスFI       散らかったままのテ−ブルにマサコが座って、箱に入った紙束を1枚1枚読んでいる       周囲では、生徒たち着の身着のままでゴロ寝している       ユキが起き出して来て  ユキ「オバチャン。」 マサコ「みんな風邪ひかんとええがねえ・・・」      良く見ると、みんな毛布が掛けられている       マサコが掛けてくれたようだ  ユキ「何読んでるの?」 マサコ「ちょうど良かった。     ユキちゃん読んでくれんかねえ。」  ユキ「(少し感動的な手紙を読む)・・・これって、誰から?」 マサコ「これまで、うちに下宿した生徒さんが、卒業した後くれた手紙じゃ。」  ユキ「こんな沢山あるんだ・・・(次のもっと感動的な手紙を読む)」 マサコ「おうおう、ああいう子もおったねえ・・・」  ユキ「(とっておきの感動的な手紙を読む)」      マサコ、声を忍んで泣いている  ユキ「オバチャン。」 マサコ「わたしゃあね、うれしいんじゃ・・・     ユキちゃんも必ず便りをよこすんよ。」  ユキ「もちろん・・・     ねえ、オバチャン。     どうして下宿屋始めたの?」 マサコ「そうねえ、聞いてくれるかねえ・・・」  ユキ「うん。」 マサコ「あれは私がまだ結婚して2年目じゃったねえ・・・」      サスFO       FIすると、マサコの回想シ−ンである       マサコ、電話に出て話を聞いているが マサコ「えっ!?・・・     そ、そんな、ウソ・・・」      マサコ、ショックでその場に崩れ落ちる       FO       FI マサコ、正座して誰かと話をしている   声「・・・預かって頂くだけでいいんですよ。     お願い出来ませんか?」 マサコ「そういう事はやった事がありませんので・・・」   声「この大きなお宅にたったお1人とお聞きしたものですから・・・」 マサコ「主人と子供は、交通事故で・・・」      FO       サスFI マサコと女子高生たちの会話 マサコ「あなたたち、今何時だと思ってるの!」   声「だって、エミがあ・・・」      女子高生たちがはしゃぐ声 マサコ「勉強してるんじゃなかったら、早くお休みなさい!」   声「わかりました。」   声「うるさいなあ、オバチャン。」 マサコ「誰がオバチャンですか!」   声「キャ−ッ!」      女子高生たちがはしゃぐ声       サスFO       回想シ−ン終了       サスFI マサコ「早いもんじゃ。あれからもう40年・・・」  ユキ「オバチャン。オバチャンの夢はなあに?」 マサコ「後は早く、主人と子供の所に行く事かねえ。」  ユキ「それ寂し過ぎるよ。」 マサコ「うそうそ。     あなたたちが、立派に生きていってくれる事かねえ・・・     ユキちゃんの夢はまだ聞いてなかったね。」  ユキ「・・・みんな具体的な夢持ってて立派よね。     トモミなんか、聞いててなんかジ−ンとしちゃった・・・     ねえ、オバチャン。     私ってまだ夢がないんだ。」 マサコ「そう・・・     だったらね、夢を見つける事を夢にしましょう。」  ユキ「夢を見つける事を?」 マサコ「そうよ。     もしかしたら人間って、夢を見つけるために生きてるのかもね・・・     精一杯生きるんですよ。     いつか見つかる夢のために。」  ユキ「いつか見つかる、夢のために・・・」      FO       FI       ユキだけが残って独白  ユキ「こうして私たちは、オバチャンとお別れしました。     あれから3年。     あの懐かしい下宿屋で、私たちは再会する事になったんです。」      マサコ登場       テ−ブルに座る  ユキ「サナエは看護学校に進み、優秀な成績でこの春卒業したそうです。」      サナエ登場 サナエ「お久しぶりです。」 マサコ「サナエちゃん。     まあ、立派な娘さんになって・・・」 サナエ「私、病院に就職が決まりました。」 マサコ「ナ−スになれたんじゃね。     良かったねえ・・・。」      サナエとマサコ座って歓談している  ユキ「トモミは、結局高校を中退してしまいました。     でもすぐに結婚して、幸せに暮らしているそうです。     あ、そうそう、出来ちゃった結婚だったって。」      トモミ登場       お腹が大きい マサコ「トモちゃん!・・・     まあ、子供が生まれるんね。」 トモミ「はい。」 サナエ「2人目だっけ?」 トモミ「(首をふって)3人目。」 マサコ「まあ、ずいぶん頑張ったんじゃねえ。     他の子供は?」 トモミ「ダンナがみてます。     今日は非番なんです。」 マサコ「そうね、そうね。     ユキちゃんもこっちへ来んさい。」  ユキ「はい、すぐ行きますから。」      ユキ、その場で独白  ユキ「私はと言えば、相変わらずの毎日です。     大学4年になるから、そろそろ就職の事考えなくちゃいけないんだけど、迷ってばかりで全然決められません。     将来の夢がまだ見つけられないんです。     でも、しょうがないですね。     私は、私なんだから・・・」 マサコ「ユキちゃ−ん。」  ユキ「は−い。」      ユキ、みんなの所に向かう マサコ「ユキちゃんはボ−イフレンドは出来たんね?」  ユキ「えっ!?」 サナエ「オバチャン、もう女子大生なんだから・・・」 トモミ「いやいや。     全然男の人と付き合った事がないかもよ。」  ユキ「何言ってるのよ!     ボ−イフレンドなんか沢山います。     もう掃いて捨てるほど・・・」 マサコ「ユキちゃんは相変わらず嘘の付けん子じゃねえ。」  ユキ「も−っ!」      みんな笑う 閉幕