秋の気配  中島清志 作 【登場人物】♀朝日幸美(あさひ・ゆきみ)・・・高校3年生。                ♀皆川詩(みながわ・うた)・・・・幸美の小学校時代の同級生。      花火大会の夜。      日の長い夕刻だが、そろそろ夕闇が迫っている。      縁日のような出店がいくつか。      高校の制服を着た少女がたこ焼きを焼いて出店の準備をしている。      皆川詩である。      他の店や付近に人の気配はない。      違う高校の制服を着た少女が下を向きトボトボと歩いて来る。      朝日幸美である。      少し離れた石段に座った幸美は、かばんから何か紙を取り出すとそれを見ながらため息をつく。      たこ焼きを焼き終えて包み紙におさめた詩がやって来る。  詩「・・・ちょっと、そこ(私の席なんだけどな)」 幸美「あ、ごめんなさい。」      幸美が横へどくと、詩はどかっとウンコ座りになってタバコを取り出し火をつけて吸い始める。  詩「何だよ。」 幸美「いえ、別に。」  詩「けっ!」 幸美「あ。」      詩は不機嫌そうにタバコの吸い殻を付近の木の立て札?に投げつける。      幸美、立ち上がって吸い殻を取りに行こうかと迷った末、次のタバコを取り出そうとしている詩をじっと見てしまう。  詩「何ガン飛ばしてんだ、お前。」 幸美「あ、いえ・・・    皆川さん?」  詩「え?    もしかして・・・」 幸美「やっぱり。    朝日です。    小学校で一緒だった。」  詩「覚えてるよ。    何だゆっきいか。    お久しぶり。」 幸美「何やってんですか、こんな所で。」  詩「いや、ちょっと・・・    ゆっきいこそ何やってんの?」 幸美「ああ。    塾の帰りなんですけど。」  詩「塾?    もしかして受験生とか。」 幸美「はい、一応。」  詩「へえ・・・    あの、教室でおもらしして泣いてたゆっきいが受験生かあ・・・」 幸美「いつの話してるんですか!」  詩「小学校入ってすぐだったよな。」 幸美「あの時は本当におなかの具合が悪くて。」  詩「なんか黙って具合の悪そうな顔してたから、わざわざ見に行ってやったんだ。」 幸美「もう忘れてください。」  詩「いや、あれは一生忘れないね。    せんせー、朝日さんがおもらししてまーすって。」 幸美「ホント余計なお世話でしたよ。」  詩「ゆっきい引っ込み思案だから、トイレに行きたいって先生に言えなかったんだよな。    せんせー、朝日さんスカートまでビショビショでーす。」 幸美「そこまで言わなくても良かったのに。」  詩「あん時は、助けてやろうと思ったんだぜ、マジで。」 幸美「いや疑っちゃいませんけど。」  詩「あれ以来よく話すようになったんだよな。」 幸美「あの、皆川さん。」  詩「他人行儀だなあ、皆川さんって。」 幸美「パンツ見えてます。」  詩「え、マジ?」 幸美「はい。割とハッキリ。」      詩、立ち上がってスカートをはたく。  詩「変わんねえな、ゆっきい。」 幸美「そうですか?」  詩「そのズレてる所がさ。」 幸美「私ズレてますか?」  詩「久しぶりに会った同級生に対して、いきなりパンツ見えてるって。」 幸美「見せてる方がどうかと思いますけど。」  詩「これ見せパンだから。    ホラ。    ホラ。」 幸美「皆川さん・・・」  詩「何キョロキョロしてんだよ。」 幸美「人が見てたら恥ずかしいですから。」  詩「お前ホント変わんねえな。    いちいちカチンと来るんだよ。」 幸美「そういう性格ですから。」  詩「だいたい何だよ、皆川さんって。    ケツがこそばゆいだろ。    ウタちゃん、とか、ウタリンって呼んでただろ?    小学校ん時。」 幸美「・・・呼んでません。」  詩「でもって調子に乗りやがって、みんなのウタちゃん、なんて言いやがったから、ぶっ飛ばしてやっただろ?」 幸美「違う人ですよ。」  詩「いやゆっきいだった気がするけどな・・・」 幸美「お互い覚えてないですよね。」  詩「なこたあねえよ。」 幸美「私もあんまり覚えてないし・・・    私なんか忘れられても当然ですもんね。」  詩「何言ってんだ・・・    ぶっ飛ばされてえのか!」 幸美「ふふ・・・    そのフレーズは覚えてます。」  詩「なんだよ・・・    俺印象最悪だな。」 幸美「口癖でしたよね。」  詩「けっ!」 幸美「それから皆川さん。」  詩「何?」 幸美「タバコ。    (詩が投げ捨てた吸い殻を指さす)」  詩「ああ、ワリイワリイ、消す消す。」      詩、吸い殻を思い切り踏みつぶす。       ついでに木札にケリを入れたりもする。  詩「おっしゃ、これで良し!」 幸美「いや、そういう問題じゃ・・・」   詩「そんじゃま、一服。    ゆっきいも吸うか?」 幸美「皆川さん、それたぶんお墓ですよ。」  詩「墓?」 幸美「何か書いてませんか?」  詩「ボロボロで読めねえよ。」 幸美「戦争で亡くなった人の慰霊碑とかだったら、ヤバクないですか?」  詩「そんな立派なもんには見えねえぞ。」 幸美「バチが当たりますよ。」  詩「変なこと言うな。」 幸美「お墓を粗末にすると怖いですよ。」  詩「やめろって。」 幸美「私、霊感があるの知ってますよね。」  詩「お、おい・・・」 幸美「みんなでコックリさんとか、よくやりましたよね。    確か学校で飼ってたウサギの霊を呼んだりとか。」  詩「ウサギはしゃべんねえだろ!」    幸美「皆川さん結構信じる方ですよね。」  詩「もしかしてヤバかった?」 幸美「さっきから気配感じるんですよ。    だから皆川さんに教えてあげようかなって。」  詩「教えないでいいよ!」 幸美「マジヤバイですよ。    ケリまで入れてたし。」  詩「ケリはヤバイか?」 幸美「お墓にケリはあり得ないですね。」  詩「わかった!    バチが当たらんように、おがんどこう。」 幸美「いや、おがまなくても。」  詩「ほら、ゆっきいも一緒におがんでよ。」 幸美「何で私が?」  詩「いいからしゃがんで・・・    ナンマンダ、ナンマンダ、ナンマンダ・・・」 幸美「それ何か違いません?」  詩「え、ダメ?」 幸美「たぶん。」  詩「そんじゃ変えよう。    ナンミョウホウレンゲッキョウ、ナンミョウホウレンゲッキョウ・・・」 幸美「いやそういう意味じゃなくて。」  詩「うわあ・・・    バチ当たったらどうしよう?」 幸美「あ、あの、パニくらないでください!・・・」      詩、うろたえた様子で辺りをせわしなくウロウロしている 幸美「落ち着いて次の行動を考えましょうよ、皆川さん。」  詩「落ち着いてらんねえよ・・・    うう・・・    ゆっきい!」 幸美「はい?」  詩「今日のパンツは何色だ!」 幸美「やめてください!」  詩「何だ、下はいてんのか・・・(息が荒い)」 幸美「落ち着きましたか?」  詩「ああ、ありがと。    落ち着いた、かなり。」 幸美「何で人のスカートめくったら落ち着くんですか?」  詩「ぷっ!(吹き出す)    ごめ、無性にゆっきいのパンツが見たくなった。」 幸美「どういう性格してるんですか?」  詩「パンツの霊に取り憑かれたらしい。」 幸美「何言ってるんだか。」  詩「暑くねえか、下はいて。」 幸美「普通ですよ。」  詩「あ、今思い出したけど、スカートめくりってスッゲエ流行ったよな。」 幸美「話をそらそうとしてる。」  詩「流行っただろ。    ホラ6年の時。」 幸美「ああ・・・6年生の時・・・」  詩「俺らのクラスって女子が強かったじゃん?    で女子同士でスカートめくるのが流行ったろ、ホラ男子がいない時に。」 幸美「私はあんまり・・・」  詩「え?    ゆっきいもB組だっただろ?」 幸美「高学年はクラス替えなかったから。」  詩「だよな。    俺らの学校。」 幸美「私その頃学校休んでて。」   詩「そだっけ?」 幸美「たぶん。    スカートめくりが流行ったって頃。」  詩「え、じゃ、吉田先生ヘンタイ事件も知らない?」 幸美「何ですか、それ?」  詩「担任だよ、担任。」 幸美「それは覚えてますけど。」  詩「体育の後に俺らがスカートめくりごっこやってて、キャーキャー大騒ぎしてたんだよ。    で、男子は締め出してさ、先生が次の授業に来て、ガラって戸開けて入って来たわけ。    そしたらみんながキャー、ヘンターイ、って、ふざけて物ぶつけたりしてさ。」 幸美「あー。    そういう事やりそうなクラスだったですよね。」  詩「ちなみに俺はサボテンの鉢植えを投げたら、見事に顔に当たった。」 幸美「それ、ひどくないですか?」  詩「いやまさかホントに当たるとは思わなくて。    先生額から血流して倒れてるし。」 幸美「ムチャクチャやってたんだ。」  詩「まあ、いい思い出だよ。    おかげで吉田先生もよく覚えてるし。」 幸美「ヘンタイで覚えられても。」  詩「だよな。」 幸美「私いても参加してなかったでしょうね。」  詩「そんなことないだろ。」 幸美「・・・はね者だったし。」  詩「・・・あ、あれだ、ゆっきいってマージャン知ってる?」 幸美「やった事はないですけど。」  詩「マージャン用語でハネ満ってあんだよ。    ハネ、マン。    何か響きがヤバイよな、ハネマン。」 幸美「ハネマンがですか?」  詩「そうハネマン・・・    それからさ、フリテンってのもあるんだ。    これもヤバイよな。」 幸美「そうですか?」  詩「ホラいただろ俺らのクラス。    水泳の後裸で女子に乱入してくるバカが。    フリ○ン高木。」 幸美「ああ、フリ○ン君。」  詩「そうそうフリ○ン。」 幸美「あ・・・」  詩「んな、悲しい目で見るなよお。    笑えよ。」 幸美「どっちかと言えば恥ずかしがってるんですけど。」  詩「俺も恥ずかしいんだぞ。」 幸美「それはウソ。」  詩「ウソじゃねえよ。    ほら、アドレナリンが大量に吹き出して、もう顔真っ赤。」 幸美「・・・おかしい。(笑っている)。    ハネマンにフリテン・・・」  詩「そっか?無理に笑ってねえか?」 幸美「いえ、今頃やっとおかしいのが来ました。」  詩「ホントかあ?」 幸美「ホント。    時間差ギャグですね、これ・・・(クスクス笑いが止まらない)」  詩「俺バカだから。    ゆっきいも良く知ってると思うけど。」 幸美「皆川さんも変わってない。    昔からおかしな事ばかり言ってた。」  詩「まあな。    俺って根っからのバカだからさ。」 幸美「そんなことないです。」  詩「いやマジでマジで。」 幸美「本当にバカな人は、気を使ったりしませんから。」  詩「何言ってんだ?」 幸美「皆川さん、昔からそう。    何かバツが悪いなって思ったら、面白い事言ってみんなを笑わせてくれた。」  詩「俺がそんな事考えてるわけないだろ。    未だに九九も怪しいんだからな。    どうだ、参ったか。」 幸美「そんな威張って言う事じゃないですよ。」  詩「素で返すなよ。」 幸美「でも大学生でも出来ない人いるらしいですよ。」  詩「マジでか?」 幸美「皆川さん。    私そんなに嫌な顔してました?」  詩「お前昔から顔に出るんだよな。    正直っつうか何つうか・・・」 幸美「私の方がバカだから。」      幸美、詩が座っていた辺りにしゃがみ込んで座る。  詩「パンツが見えない座り方。    それが女子高生の座り方か?」 幸美「パンツから離れませんか?」  詩「なあ、ゆっきい。そんなに俺と話すの嫌か?」 幸美「嫌ならとっくに帰ってます。」  詩「お前みたいなバカの相手はしたくねえ、って顔に書いてあんだけど。」 幸美「・・・ごめんなさい。」  詩「ぶっ飛ばされてえのか!    悪くもねえのに謝んなよ。    そんなだから・・・」 幸美「いじめられるんですよね。」  詩「・・・ゆっきいっていじめられてたか?」 幸美「6年に上がってから学校行ってません。」  詩「覚えてないなあ。    俺バカだから・・・」      携帯電話の着信音 詩が出る  詩「はい、もしもし・・・    え、客なんかいないよ、始まってねえし・・・    バッチシ。    友達に借りた県女の制服・・・    え、マジだよ。    鼻血出しても知らねえぞ。    だから早く来い・・・    え?・・・    あったり前だろ、メシ代なんかねえよ。・・・    はあ?    雨なんか降られた日にゃ売り上げゼロだよ。    しょーがねえだろ、こればっかは・・・」       幸美、いつの間にか立ち上がって出店をのぞいている  詩「彼氏から。」 幸美「彼氏いるんですね。」  詩「当たり前だろ。」 幸美「いいですね。」  詩「お前高三にもなって彼氏いないのか?」 幸美「彼氏いない歴18年です。」  詩「マジで?    ゆっきい、メチャかわいいのにな。」 幸美「いや私なんか・・・」  詩「冗談だよ、本気にすんな。」 幸美「それはちょっと、ひどいです。」  詩「メチャは余計だけど、それなりにかわいいじゃん。    少なくとも俺よりは。」 幸美「お互い傷をなめ合うのはやめましょう。」  詩「ふわあー。    何かヒマだべ〜。」 幸美「あの、これ・・・」  詩「ああ。    これ全部俺が店番。」 幸美「へえ、楽しそう。」  詩「彼氏がさ、こういう仕事やってんだ。    ホラいるだろ、祭とかで店出してるお兄さん。」 幸美「ああ。」  詩「俺とこ、親父がさ、あれだろ?」 幸美「そ、そうだったですね。」  詩「ガキの頃からこういうの手伝わさせられてたし・・・    ま、自然と、彼氏も・・・    な?」 幸美「こんなたくさん店番大変ですね。」  詩「いや、ここいらとか、人めったに来ないし。」 幸美「向こうの方に出せばいいのに。」  詩「こういうのって縄張りがあって。」 幸美「出せないんですか。」  詩「まあ勝手にはな。」 幸美「この辺、塾で遅くなった時は走って帰るんですよ。    暗いし、人いないし・・・」  詩「まあ花火が始まって暗くなりゃ、ボチボチ人来るはずだから。    高校生とか、特に。」 幸美「もしかしてカップルで?」  詩「まあそういう場所なんだよ、この辺。    ちなみに変なオッサンとかも集まって来る。    カメラ持ってたりして。」 幸美「詳しいんですね。」 詩「そういうのが全部客になる。    ゆっきい、ホントに夜この辺通るのヤバイよ。    変な奴多いから。」 幸美「私かわいくないから。」  詩「バ〜カ。    夜目だと顔なんか見えねえの。」 幸美「それもちょっとひどいですね。」  詩「ははは・・・    あ、ヒマだから遊んでけよ。    そこの金魚すくいとか。」 幸美「ごめんなさい。    お金持ってないから。」  詩「いいっていいって。    どうせ元はタダみたいなもんだし、今日はかなり売れ残りそうだから。」 幸美「あ、それじゃ。」  詩「ホント、雨降ったらアウトなんだよな・・・    てすでにヤバそうな雲行きだし・・・」      金魚すくいに興じている幸美。      何度も紙を破いてしまう。 幸美「あー、又破れちゃった。」  詩「お前恐ろしく下手だな。」 幸美「あ、ひどい。」  詩「いやマジで、そこまでダメなやつも珍しいって。    幼稚園児でも、もうちょっとうまいな。」 幸美「もうやめます。」  詩「え、一匹もすくえないのにやめるのか?    根性ねえぞ。」 幸美「だんだん金魚にバカにされてるような気がして来ました。」  詩「それじゃ・・・    はい、どうぞ。」 幸美「え?」  詩「そこに書いてあるだろ。    取れなくても金魚あげますって。」 幸美「いや、でも売り物なのに。」  詩「それはあっと言う間に10枚破いたやつのセリフじゃねえぞ。    何ならカメも持ってくか?    カメなんかすくえるやついねえし。」 幸美「ごめんなさい。    でもすぐ死んじゃうから。」  詩「死んだっていいじゃん。    生き物ってのは死ぬもんだ。」 幸美「かわいそうだし。」  詩「ゆっきい。    こういうの売れ残ったらどうするか知ってるか?」 幸美「え?いや・・・」  詩「よくヒヨコ売ってるだろ。    あれ、売れ残ったらだしになるんだよ。    カップラーメンとかの。」 幸美「・・・きのう食べたのに。」  詩「すぐ死んじゃってもいいんだよ。    俺らだってすぐ死ぬんだしさ。」 幸美「じゃあ、そこに置かせてください。    持って帰りますから。」  詩「オッケー。」      幸美が金魚のプール横に袋を吊していると、詩がふざけて水をかけてくる  詩「スキありー。」 幸美「うわっ。    ひっどー・・・    えい!」  詩「おっ、逆襲か?・・・    それっ!」 幸美「やったなー・・・    どうだ!」  詩「やり過ぎだよお前。    下着まで濡れただろうが・・・」      バシャバシャと2人で水の掛け合いをしている 詩「あー、楽しいねー。」 幸美「はい。」  詩「小っちゃい頃、よくこんな風に遊んだな。」 幸美「そうですね。」  詩「あー、いい運動だった。」      詩、ここで一服とばかりにタバコを出す 幸美「あ、又タバコ・・・」    詩「今度は投げ捨てたりしねえから。    許せ。」 幸美「ダメですよ。    タバコなんか吸っちゃ。」  詩「何で?」 幸美「だってまだ高校生じゃないですか。    法律違反です。」  詩「あれ?・・・    あ、そっか。    俺高校生じゃねえんだけど。」 幸美「え?    でも制服・・・」  詩「これさ、県女の友達に借りてんだ。    俺の頭で県女なんか行けるわけねえだろ?    てか、ぶっちゃけ中卒で働いてるから。」 幸美「どうしてですか?」  詩「制服?    いや、それが、彼氏の趣味でさ・・・」 幸美「趣味ですか・・・」  詩「てか、遊ぶ時は制服のがいいんだよ。    ナンパされ易いし。」 幸美「そうなんですか。」  詩「今の彼氏にナンパされた時もこの格好だったんだよなー・・・    呆れてる?」 幸美「そんな事ないです。」    詩「で、こういう店番の時も制服にしろって言うんだよ。    それもセーラー服じゃないとダメだって。」 幸美「彼氏がそんな事言うんですか?」  詩「ちょっとヘンタイ入ってんだよなー、アイツ。    セーラー服っつうと少ないからね、この辺りじゃ。    結構苦労すんだ、友達探すのに。」 幸美「彼氏と仲いいんですね。」  詩「男ってどうしょうもないね。    セーラー服見ただけで、興奮すんだって。」 幸美「ははは。」  詩「全くもう。」 幸美「皆川さん、嬉しそう。」  詩「そうかあ?」 幸美「はい。    うらやましいです。」  詩「とにかくセーラー服が最強。    (タバコを吸おうとする)」 幸美「ダメですって。    (タバコを奪う)」  詩「おい。    俺高校生じゃねえんだぞ。」 幸美「高校生じゃなくても、未成年はダメです。」  詩「勝手な事言うなよ。」 幸美「だって法律違反じゃないですか。」  詩「いつから法律変わったんだよ。」 幸美「変わってません。    前からお酒もタバコもハタチにならなきゃダメって法律で決まってます。」  詩「高校やめた連中は平気で酒もタバコもやってるぜ。」 幸美「いや、それは・・・」  詩「は、は、は、は・・・    やっぱ変わんないな、ゆっきい。    ぜんっぜん融通利かねえんだ。」 幸美「利かなくていいです。」  詩「うん。    ゆっきいらしくてよろしい。    安心した。」 幸美「そうですか。」  詩「ホント、小学校以来じゃん。    ゆっきいがフツーのジョシコーセーになってたらどうしようかと思ったぜ。」 幸美「フツーですか。」  詩「ホラ、良くいるじゃん・・・    あ、そうだゆっきい、オヤジの役やって。    タバコ吸ってるジョシコーセーを注意するオヤジの役。」 幸美「注意すればいいんですか。」      詩、ウンコ座りでタバコを吸い始める  詩「注意しろよ。」 幸美「あ、はい・・・    あー、君、高校生がタバコを吸っちゃダメだよ。」  詩「何だよ。    ウゼエよ、オヤジ!」 幸美「あ・・・」  詩「どこ見てんだよ、ヘンタイ!」 幸美「(吹き出す)本物みたい・・・」  詩「だろ?    こういうフツーのジョシコーセーだよ。」 幸美「普通じゃないと思いますけど。」  詩「俺の友達こんなんばっかだぜ。」 幸美「あの・・・    私って変わってないですか?」  詩「小学生のまんま。    俺もよく頭の中小学生って言われるけど。」 幸美「ははは。」  詩「なあ、その制服・・・」 幸美「あ、今通ってるとこのです。」  詩「中高一貫だっけ。」 幸美「はい。    全寮制で。」  詩「寮に入ってんだ。」 幸美「ええ。    ずっと女子寮に。」  詩「ヤバクね?    女子寮って。」 幸美「なぜですか?」  詩「いや、ジョシリョーって言葉の響きがさ・・・    ごめ、聞き流してくれ。」 幸美「・・・ヤバクないこともないんですけど。    あ、何言ってるかわかんないですね。    聞き流してくださいい。」  詩「ゆっきい・・・」 幸美「あ、いや、何か思わせぶりな事言っちゃってごめんなさい。    それなりに楽しいですよ、女子寮。」  詩「そうかあ?    寮っていろんな人が一緒に暮らしてるんだよな?」 幸美「そうですけど。」  詩「俺そういうの絶対ダメ。    マジで。    団体行動とか出来ない人だから。」 幸美「・・・私も。」  詩「だよな。」 幸美「いろんな所から来てて・・・    知り合いいないし。」  詩「でも好きで行ったんだろ?」 幸美「・・・私みたいな人が多くて。    地元の学校に行き辛いとか・・・」  詩「やっぱいじめとか?」 幸美「いじめてた方の人もいます。    転校させられたとかで。」  詩「意味ないじゃん。」 幸美「知らない人同士だと、人間関係1からやり直しだから・・・」  詩「少年院みてえだな。    あ、ごめ、たとえが悪いな。」 幸美「悪すぎます。    少年院なんて知ってるんですか?」  詩「あ、いや、もちろん行ったことはねえんだけど・・・    俺友達多いから、中には・・・    な?」 幸美「少年院か・・・」  詩「やっぱゆっきいみたいな変人が多いのか?」 幸美「みんな普通ですよ。    私も含めて。」  詩「ははは。    そだな。」 幸美「タバコ吸ってる人もいますよ。    それも中学からずっと。」  詩「それはフツーじゃないな。    不良だよ、フリョー。    ダメだよゆっきい。    注意しなきゃ。」 幸美「皆川さん・・・」  詩「ホントねえ、ジョシコーセーがタバコって一体どうなってんだ!    世も末だよ。    そう思わね?    ゆっきい。」 幸美「いや、まあ・・・    そうですね。」  詩「なあ、腹すかね?    何か食ってけ。」 幸美「いいんですか?」  詩「もうタダでもらう気になってるな。」 幸美「あ、ごめんなさい!」  詩「冗談だよ・・・    へへ、ウチはひと味違う品揃えだからな。」 幸美「へえ。」  詩「ほら、これ。    みかんアメ。」 幸美「りんごじゃないんですか?」  詩「りんごは高いから。」 幸美「しかもこれ、1粒だけじゃないですか。」  詩「惜しい!    ビミョーに違う。    半粒だから。」 幸美「ビミョーにショボイですね。」  詩「そ、ビミョーに・・・    これなんかどう?    さっき焼いたばっかのタコ焼き。」 幸美「あ、おいしそうです。」  詩「だろ。    しかもホラ見て。」 幸美「当たりが1つ入ってます?」  詩「ま、食べてみ。」      2人で1つずつ食べてみる。  詩「うめえだろ?」 幸美「おいしいですけど・・・    何も入ってないですよ。」  詩「だから当たり付きなんだって。    6個に1個の割合でタコが入ってる。」 幸美「ちょっとセコくないですか。」  詩「タコ入ってるかな、どうかなーって、わくわくすんだろ?」 幸美「無理矢理ですね。」  詩「よーし、これはどうだ。    これはまともだぜ。    カステラ。」 幸美「あー、アンパンマンのやつですね・・・    あれ?    バイキンマンだ。」  詩「バイキンマンのカステラ。」 幸美「何であえてバイキンマンなんですか。」  詩「俺バイキンマン好きだから。」 幸美「食べ物にバイキンマンて、イメージ悪いですよ。」  詩「アンパンマンだと、業者がボルんだよなあ。    その点、バイキンマンカステラはほとんどタダみてえな金で仕入れられる。」 幸美「そりゃバイキンマンですからね。」  詩「だよな〜。    これ作ったやつ絶対方向間違えてるよな〜。」 幸美「それを仕入れる方もどうかと思いますけど。」  詩「ウケるんじゃねえかな、と。」 幸美「ウケを狙ってどうするんですか。」  詩「ゆっきい、いらね?    バイキンマンカステラ。    中身は一緒だし、絶対売れ残るから。    何しろほとんど売れたことねえんだぜ。    スゲエだろ。」 幸美「力説しないでください。    じゃあ、1個もらいます。」  詩「はいはい、1個なんてケチくさいこと言わず、2個でも3個でも、持ってけドロボウ!」 幸美「いや、ドロボウって・・・」  詩「どうせ売れねえんだ。    こうなりゃヤケだ!」 幸美「まあまあ、ヤケにならないで。   皆川さんも一緒に食べましょう。」      幸美、詩の口にカステラを押し込み、2人一緒にカステラを食べる。 幸美「中身は一緒ですね。」  詩「な?」 幸美「人間やっぱり食べるもの食べないとダメですね。」  詩「さすがゆっきい。    いいことを言う。」 幸美「私、寮じゃあんまり食べれないんですよね。」  詩「おっしゃ、タコ焼きももっと寄こせ!」 幸美「はいはい・・・    皆川さんは物を食べれないなんて事は・・・」  詩「食えりゃ文句は言わねえよ。    うちの親父なんか食えねえ物いっぱいだけどな。」 幸美「お父さんが?」  詩「糖尿だから。」 幸美「ははは。」  詩「おっとラッキ。    タコ発見。」      幸美「何かズルイな。    自分で食べちゃって。」  詩「ゆっきいが食わねえからだ。    ほら、食いな。    側だけタコ焼きとバイキンカステラ。」 幸美「食べる気なくなりますよ。」  詩「しかし、相変わらずだれも来ねえな。」 幸美「皆川さん。    私店手伝いましょうか?」  詩「え?    いいよ。」 幸美「一人じゃ大変じゃないですか?」  詩「いやホントいい。    もうすぐアイツも来るし。」 幸美「彼氏ですか?」  詩「まあな。」 幸美「私・・・    邪魔ですね。」  詩「んなこた言ってねえよ。」 幸美「あー、私一体何やってるんだろう?」  詩「暗くなる前に金魚持って帰んなよ。」 幸美「皆川さん。聞いてくれる?」  詩「客来るまでな。」 幸美「私、今学校行ってないんです。」  詩「何だまたかよ。    進歩がねえな。」 幸美「そうですよね。    今夏休みで帰省してるんですけど、学校に戻るかどうかわかりません。」  詩「好きにしろよ。」 幸美「・・・皆川さんには関係ないことですもんね。」  詩「ゆっきい、お前、俺怒らせようとしてんのか?」 幸美「バカですよね、私。    高三だからって塾の夏期講習なんか行ったりして。    その前に高校卒業しなきゃ意味ないのに。」  詩「るせえよ。」 幸美「こういう性格だから私。    何回学校行っても同じこと。    みんなとうまく行かなくて、はね者にされて。    友達なんか1人も出来ない。    一生こうだ。    私一生ダメな人間なんだ・・・」  詩「てめえ、ぶっ飛ばされてえのか!」      詩、幸美につかみかかる。  詩「俺たちゃ友達じゃねえってのか?    え?    どうなんだよ!」      突然雷鳴と共に 激しい雨が降り始める。  詩「お前なんか濡れちまえ!・・・    どうした?    反撃しろよ。」      雨の中バシャバシャと水を掛け合う2人。      もう全身ビショ濡れだ。      雷はおさまるが小雨は続く。  詩「俺達ホントバッカだよなあ。」 幸美「花火大会中止ですねー、これ。」  詩「どうすんよ?    ビッチャビチャだぜ、俺ら。」 幸美「いいじゃないですか。」  詩「良かねえよ!」 幸美「思い出しました。」  詩「何を?」 幸美「あれ。    (木札を指さして)何か小動物のお墓ですよ。」  詩「小動物だって?」 幸美「それこそ金魚とか。    近所の子供が立てたんですよ、昔。」  詩「ふーん。」      携帯電話の着信音。詩が出る。  詩「もしもし・・・    あーもうビッチャンコ、はよ迎えに来て・・・    え、何で?    そんな時間までどうせえっちゅうの!・・・    客なんかいるわけねーだろ。    花火中止だし・・・    えー?    ビタ一文ねーよ・・・    何言ってんだ、このバカ!」      詩、携帯電話を投げ捨てる 幸美「ケンカですか。」  詩「ああ。」 幸美「ダメじゃないですか。    彼氏と仲良くしないと・・・」  詩「るっせーよ。」      詩、しゃがみ込むと泣き出す。      音楽入る。 幸美「皆川さん?」  詩「・・・彼氏なんかじゃねえよ。」 幸美「え?」  詩「うちのヘンタイ親父だよ。」 幸美「・・・(言葉がみつからない)」 詩「娘にこんな格好させやがってよ・・・    挙げ句の果てにゃ、晩メシ代ねえからって・・・」 幸美「言わなくていいよ!」  詩「娘にそんな事させる親がどこにいんだよう・・・」 幸美「ウタちゃん・・・」  詩「ゆっきい・・・」      音楽大きくなる。      落陽。      秋の気配。   〜おしまい〜