「ヨッシ−先生さようならver.2」 中島清志 作 〔キャスト〕 ♂1人 ♀3人      ♀ キムラカスミ(セイトク女子高校3年B組)      ♀ イイダアスカ(セイトク女子高校3年B組)      ♀ ノムラナツキ(セイトク女子高校3年B組)      ♂ ヨシダヨシオ(セイトク女子高校3年B組臨時担任)      開幕       セイトク女子高校3年B組の教室       すぐ外には花壇が見える       室内には、カスミが座っている       カスミは窓際でただぼうっと外を眺めている       アスカ入って来る アスカ「お早う。」 カスミ「お早う。」 アスカ「カスミじゃない、お久しぶり。     もう学校に出て来てもいいの?」 カスミ「ま、まあね。」      ナツキ入って来る ナツキ「オッハ−。」 アスカ「それ、異常に古いって。」 ナツキ「いいじゃん、そういう気分なんだから・・・」      ナツキ、カスミを見ると駆け寄って ナツキ「キャ−!     カスミじゃん。     おひさ−。     元気だった−?」 アスカ「元気なわけないでしょ。     入院してたのに。」 カスミ「もうだいぶ良くなったから・・・」 ナツキ「とにかく、元気になって、良かった良かった!」 カスミ「ちょっとトイレ行って来る・・・」      カスミ出て行く ナツキ「あ−、疲れた−。」 アスカ「何で疲れるのよ。」 ナツキ「何か気い使っちゃってさあ。」 アスカ「あれで?」 ナツキ「そうよ。     なるべく明るく接してあげなきゃって、これでも気を使ってるんだから。」 アスカ「あれじゃわざとらしいよ。」 ナツキ「そうかなあ?」 アスカ「そうよ。     普通にしてればいいの。     カスミも居づらくなって出てったじゃない。」      カスミ戻って来る       気まずい間       アスカ、参考書を出して勉強を始める アスカ「そう言えば、課題試験の事、カスミ知ってるんだっけ?」 カスミ「あるだろうなって事はわかってたけど。」 アスカ「じゃあ、範囲とかは・・・」 カスミ「全然。」 アスカ「ごめん。     電話で教えてあげとけば良かったね。」 カスミ「いいよ。     どうせ、勉強出来るような状態じゃなかったし。」 ナツキ「そうそう、私も。」 アスカ「ナツキは関係ないでしょ。」 ナツキ「私もバイトで忙しくってさあ。」 アスカ「3年生なんだから、少しは勉強しなくちゃ。」 ナツキ「もう! アスカ、これ以上勉強していい点取らないでよ。」      ナツキ、アスカの邪魔をしようとする アスカ「別にナツキと競争してるわけじゃないから。」 ナツキ「ほら、カスミだって勉強してないんだから。     かわいそうじゃない!」 カスミ「(笑いながら)関係ないよ。」      ナツキ、アスカの手から問題集を奪い取ろうとして失敗し、ズッコける ナツキ「あ痛っ!」 カスミ「(笑いながら)相変わらず変わってないね・・・     (急にお腹を押さえて)いたた・・・」 ナツキ「カスミ。」 アスカ「無理しちゃ駄目だよ。」 カスミ「ごめん。     又ちょっとトイレ・・・」      カスミ出て行く ナツキ「大丈夫かなあ?」 アスカ「やっぱり簡単には治らないよね。」 ナツキ「しょうがない。     勉強でもするか。」 アスカ「そうそう。     人の事より、まず自分の心配しなきゃ。」 ナツキ「え?     私、どこも悪くないよ。」 アスカ「頭が悪い。」 ナツキ「言ったな!」 アスカ「仮進級のくせに、バイトなんかしたりして。     全くこりないんだから。」 ナツキ「社会勉強だから。」 アスカ「よく言うわ。     今度はどこでバイトしたの?」 ナツキ「モスバ−ガ−。     『いらっしゃいませ−』ってやってた。」 アスカ「あそこ、よく先生が来るんだよ。     見つかったらどうするの。」 ナツキ「気配を感じたら隠れてたから・・・」 アスカ「前はセブンイレブンで見つかったんでしょ。     今度は停学になるわよ。」      カスミ戻って来る アスカ「大丈夫?」 カスミ「うん・・・     ねえ、子宮内膜症って知ってる?」 ナツキ「何それ?」 カスミ「子供を産んだ女の人が掛かる病気だって。     時々お腹がシクシク痛むの。」      間 カスミ「私さあ・・・     産んだわけでもないのにね・・・」 ナツキ「治るんでしょ。     それ。」 カスミ「完全に治すには子宮を取っちゃうしかないんだって。」 アスカ「子宮を?」 カスミ「うん・・・     だから少々痛いのは薬で散らすしかないんだ。     次に子供が出来るまで。」      間 ナツキ「ね、ねえ、話変えよう。」 アスカ「そうね。」 ナツキ「今度うちらの担任変わるでしょ。」 カスミ「え、ミツコ先生じゃないの?」 アスカ「あ、カスミ聞いてなかったの?     ミツコ先生の代わりに1学期だけ・・・」 ナツキ「そうそう。     産休の代理でさ・・・     あ、ごめん。」 カスミ「別にいいよ。」 ナツキ「それでさ、その先生が、何と新任の男の先生なんだって。」 アスカ「新任って、大学出たてってこと?」 ナツキ「そうなんじゃない?」 アスカ「めずらし−。」 ナツキ「うちって若い男の先生いないよね。」 アスカ「そうそう。     おじいちゃんばっかり。」 ナツキ「セイトクは最近若い男の先生は採用しないんだって。」 アスカ「どうして?」 ナツキ「そりゃ女子高だから。」 アスカ「関係ないでしょ。」 ナツキ「それが大ありでさ・・・     途中でやめちゃう人が多いんだって。」 アスカ「ああ、生徒と恋愛関係になったりとか?」 ナツキ「それならいいんだけど。」 アスカ「良くないよ。」 ナツキ「そうじゃなくって、女子高って全然男の人に気使わないでしょ?」 アスカ「まあ、おじいちゃんばっかりだもんね。」 ナツキ「暑いときはみんなスカ−トばたばたやってるし。     平気でおならするしさ。」 アスカ「それはナツキだけよ。」 ナツキ「冬場はスカ−トの下にジャ−ジはいて来るし。」 アスカ「それもあんただけ。」 ナツキ「男の先生いたって平気で着替えたりしてるしさあ、それで若い男は幻滅するのよ。」 アスカ「でも、それくらいでやめる?」 ナツキ「それはもちろん表向きの理由よ。」      間 カスミ「あ、でもうちの学校教え子と結婚した先生って結構いるよね。」 アスカ「そうそう、タシロ先生なんかそう。」 ナツキ「げっ!     ヤダあんなの。」 アスカ「昔はかっこ良かったのかもよ。」 ナツキ「ヤダ−。」 カスミ「若い男って言うだけでモテちゃうんじゃない。」 アスカ「それはあるかもね。」 カスミ「コヤマ先生だって、うちの卒業生と結婚したらしいよ。」 ナツキ「え−。信じられない。」 アスカ「昔は若い男の先生がいたってこと?」 カスミ「そうなんじゃない。」 ナツキ「やっぱりいろいろ問題があるから、最近若い男はとらないんだって。」 アスカ「かわいがってあげるのにねえ。」 ナツキ「あんたみたいなのがいるから。」 アスカ「よく言うわ。」 ナツキ「教え子と出来ちゃった結婚とかになったら、あんまし良くないじゃん。」 カスミ「私トイレ行って来る。」      カスミ出て行く ナツキ「やっぱ気にしてるのかなあ。」 アスカ「話題を考えてあげなきゃね。」 ナツキ「そんな話するつもりなかったのに。」 アスカ「出来ちゃった結婚はまずいでしょ。」 ナツキ「アスカだって・・・     第一カスミだって話にのってたじゃない。」 アスカ「私ちょっと様子見てくるね。」      アスカ出て行く       残されたナツキは、机についてつまらなそうに参考書を見て、ため息をつく      カスミとアスカ連れ立って帰って来る ナツキ「ねえ、新しい先生どんな人かなあ。」 アスカ「新任だったらしっかりかわいがってあげなきゃね。」      みんなで笑う       アスカは机について勉強する態勢に ナツキ「○×△□みたいな人だったらどうしよう。」 アスカ「ないない。」 ナツキ「□△×○でもいいな。」 アスカ「ホスト呼ぶんじゃないんだから。」 ナツキ「夢があるじゃない。」 アスカ「後10分足らずの夢ね。」 ナツキ「アスカは男なら誰でもいいの?」 アスカ「そんなわけないでしょ。     私は・・・××××ね。」 ナツキ「うわっ!」 カスミ「渋い。」 ナツキ「てさあ、××××って誰?」 アスカ「もういい!     ナツキ、ホントに勉強しなくていいの?」 ナツキ「今晩一夜漬けするから。」 アスカ「あのねえ、テストは全部今日よ。」 ナツキ「え−!?     ウソ、ウソ、ウソ!」 アスカ「3年生は式の日にテストって、プリントもらったでしょ。」 ナツキ「何のテストがあるの?     範囲は?」 アスカ「そう言うのを手遅れって言うの。」 ナツキ「ねえ、お願いだからさあ、アスカもう勉強しないで。」 アスカ「関係ない。」 ナツキ「ケチ!」 カスミ「人それぞれなんだから。     他人の干渉なんかやめたら。」      カスミ不機嫌そうに、ふらりと出て行く ナツキ「何あれ・・・     私あの子に気を使って言ってたのに。」 アスカ「嘘ばっかり。」 ナツキ「何か腫れ物に触ってるみたい。」 アスカ「無理して明るくしようとするから、あの子のカンに触るのよ。」 ナツキ「あんなんで腹立てなくてもいいじゃん。     大体アスカが勉強なんかしてるのがいけないのよ。」 アスカ「私さあ、悪いけど進路のこと考えたら馬鹿話してるより少しでも勉強したい。」      間 アスカ「みんな後1年したらバラバラになるんだよ。」 ナツキ「どうしてそんなこと言うの。」 アスカ「カスミがあんな事あったからって、私たちまで悪い影響受けることないのよ。」      間 ナツキ「何かそれって冷たくない?」 アスカ「ナツキは意識過剰なの。」 ナツキ「だって・・・     はげましてあげなきゃ。     友達でしょ?」 アスカ「どう言ってはげましてあげるわけ?」 ナツキ「わかんないけど。」 アスカ「ああいう事はそっとしておいてあげるしかないと思うのよ。     だから、これまで通り普通に接してあげるべきなの。」 ナツキ「アスカだって普通じゃないよ。」 アスカ「私が?」      間 ナツキ「うん。そんなお説教みたいな言い方、アスカらしくない。」      アスカ、机に手をついて立ち上がる ナツキ「ごめん。     別にアスカに文句言うつもりはなかったの。」      アスカ、気持ちを落ちつけて机に座る アスカ「あ−あ。     何やってるんだろう、私たち・・・。」 ナツキ「早く○×△□来ないかなあ。」 アスカ「ねえ、もしかしてそれでピアスなんかして来たってわけ?」 ナツキ「当たり。」 アスカ「恐ろしく似合ってないよ。」 ナツキ「余計なお世話。(立ち上がって)     それにスカ−トもいつもより短か目にして来ました。」 アスカ「服装検査で引っかかるのに。」 ナツキ「それが狙いなのよ。」 アスカ「何が?」 ナツキ「そしたら初日から先生に覚えてもらえるじゃない。」 アスカ「心配しなくてもナツキはテストの点で目立つって。」 ナツキ「出来の悪い子ほどかわいいって言うわよね。」 アスカ「あのさあ、○×△□が来るとは限らないのよ。」 ナツキ「私の予想では○×△□なの。」 アスカ「●●●●だったら、どうする?」 ナツキ「乙女の夢を壊さないでよ!・・・     それでさ、先生と仲良くなって、あわよくば・・・     永久就職しちゃえば、進路なんて考えなくていいし。」 アスカ「あんたの妄想にはついていけないわ。」      いつの間にか教室の外にいたジャ−ジの上下に野球帽をかぶりマスクをした男、生徒たちに声をかける   男「あのう、お花に水やりたいんですけど、ジョウロとかないですかねえ。」 アスカ「知ってる?」 ナツキ「さあ。」   男「この花壇のお世話は皆さんが?」 ナツキ「私たち、今日からこの教室だからわかりません。」 アスカ「事務室に行って聞けばわかると思いますよ。」   男「そうですか。お花が枯れそうだから。」      男、去る ナツキ「今の誰?」 アスカ「新しい事務の人じゃないの。」 ナツキ「女子高に見たことない男が・・・     ひょっとして変質者?」 アスカ「確かに、見るからに怪しそうだった。」 ナツキ「怪しい。」 アスカ「体育祭のときとか、ああいう恰好でカメラ持ち込む変態が来るよね。」 ナツキ「襲われたらどうしよう!」 アスカ「あんたは大丈夫だって。私が太鼓判押してあげる。」 ナツキ「そうか、大丈夫か・・・     って何でよ!」 アスカ「先生に言った方がいいかもね。」 ナツキ「私、すご−くヤな予感するんだけど・・・。」      始業のチャイムが鳴り、生徒たち適当に席に着く       カスミも帰って来る       先程の男、急いでやって来て教室に入る   男「ここが3年B組だったんですか。」 アスカ「そうですけど。」   男「あのう、僕、このたびヤスダ先生の替わりということで参りました。(大きなクシャミ)」 ナツキ「あっちゃ−・・・     やられた。」 アスカ「世の中、そう甘くないのよね。」  先生「すいません。     花粉症だもので。(クシャミ)     あのう、イイダアスカさん。」 アスカ「あ、はい。     えっ?」  先生「僕が話しているときはお話しないで聞いてくれたら、うれしいんですけど。」 アスカ「すみません。」  先生「ノムラナツキさんも、いいですか。」 ナツキ「はあい。」 アスカ「あのう、先生。」  先生「いやあ感激だなあ。     あなたのような可愛い女子高生に先生って呼ばれるなんてねえ。」 アスカ「どうして私たちの名前知ってるんですか。」  先生「よく聞いてくれました。     名簿と写真見比べて、きのうから徹夜で覚えて来たんですよ。」 アスカ「ヒマなんですね。」  先生「いやいや、何しろ女子高の先生になるのが僕の夢だったもんでね。     あ、こりゃまずい事言っゃったかな。(クシャミ)」 ナツキ「先生、そんな事言ってもいいんですか。」 アスカ「イヤラシイって思われますよ。」  先生「僕ってホントにみんなのような可愛い女の子が大好きだから。(クシャミ)」 ナツキ「先生って正直者なんですね。」  先生「そうなんですよ。     昔からお前は正直の前にバカが付くって言われてました。     もうセイトクって聞いたときにはうれしくて鼻血が出そうでしたよ。(クシャミ)」 アスカ「セイトクがどうかしたんですか。」  先生「僕の初恋の女の子がセイトクに通ってたんですよ。     毎朝同じ電車でね、結局中学、高校と見てるだけで声もかけられなかったんですけど。(クシャミ)。」 カスミ「バカみたい。」  先生「そうそう。     ちょうどあなたみたいな少しツンとした感じの女の子でしたよ、キムラカスミさん。(クシャミ)。」 カスミ「ふざけないで下さい!」  先生「怒ったら、せっかくのキレイな顔が台無しですよ。(クシャミ)。」 アスカ「先生。」  先生「何ですか。」 アスカ「まだ先生の名前聞いてないんですけど。」  先生「これは失礼しました。     僕の名前はヨシダヨシオと言います・・・     あ、ナツキさん、今ダサイって言いましたね。」 ナツキ「ごめんなさい。」  先生「よくそう言われますから、いいんですよ。(クシャミ)     良かったらヨッシ−って呼んでくれませんか。     昔から僕のあだ名なんで。(クシャミ)」 アスカ「ヨッシ−、ですか。」 ヨシオ「そうです、そうです。」 ナツキ「ヨッシ−。」 ヨシオ「はい。」 アスカ「先生!」 ヨシオ「はい?」 アスカ「始業式に行かなくてもいいんですか。」 ヨシオ「こりゃまずい・・・     じゃ、皆さん式の後で又お会いしましょう。」      ヨシオ、慌てて出て行く ナツキ「あ−あ。     ○×△□とまでは言わないけど。」 アスカ「ヨッシ−だって。」 ナツキ「何がヨッシ−よ。     ネッシ−みたいな顔して。」 アスカ「でも面白そうじゃない。」 ナツキ「悪い人間じゃなさそうだけど。」 アスカ「私、結構気に入ったかも。」 ナツキ「あの変態男が?!」 アスカ「意外と可愛らしい気がするのよ。」 ナツキ「母性本能をくすぐるタイプではあるわね。」 アスカ「授業きちんとやってくれたらいいんだけど。」 ナツキ「ミツコ先生の替わりだから、生物か・・・     うわ、ますます変態っぽい。」 アスカ「それは偏見じゃないの?」 ナツキ「うちで変なもの飼ってたりして。     爬虫類系とか。」 アスカ「私飼ってるよ。」 ナツキ「へえ。」 アスカ「可愛いよ。     ヤモリとか青大将とか。」 ナツキ「もうヤだあ。」 アスカ「ナツキ、永久就職狙うんでしょ。」 ナツキ「冗談じゃない。     アスカに譲ったげる。」 アスカ「ねえ、私たちも行かなきゃ。」 ナツキ「カスミ、行かないの?」 カスミ「私、まだ立ってるの辛いから、行かない。」      カスミを置いて2人出て行く       カスミみんながいなくなると携帯電話を取り出してかける カスミ「もしもし、私キムラカスミと申しますが・・・     そうです、キムラの娘です。     所長さんですか?・・・     あいつが来てるんです・・・     今、私の学校に・・・     嫌なんです、早く引きとって下さい・・・     本当に記憶はないんですか・・・     じゃあ、どうして私の前にあいつが来るんですか・・・     所長さん!・・・     あ、後で又電話します。」      生徒たち教室に帰って来る ナツキ「恥ずかし−。     あれがうちらの担任だなんて。」 アスカ「ヨッシ−って呼んで下さい、って言ったらみんな引いてたね。」 ナツキ「もうあがりまくちゃってさ。」 アスカ「新任はあんなもんよ。」 ナツキ「普通、式でジャ−ジはいて挨拶する?」 アスカ「あんたに言われちゃおしまいね。」 ナツキ「私は冬しかはかないよ。」 アスカ「いいキャラだわ。     ますます気に入っちゃった。」      ヨシオ、教室に入って来る ヨシオ「あのう、誰か号令かけてくれませんか。」 アスカ「起立。     礼。」 ヨシオ「え−、いきなりで申し訳ありませんが、服装検査をやります。」  一同「え−。」 ヨシオ「みんな髪の毛はいじってないようだから、特にスカ−トの長さを重点的にチェックしようと思います。」 アスカ「先生、どういう基準で見るのか教えて下さい。」 ヨシオ「校則通りですよ。」  一同「え−。」 アスカ「じゃあ、メジャ−で計るんですか?」 ナツキ「私ヤだあ。」 ヨシオ「計ったりしませんよ。」 アスカ「でも、膝下5センチって言うのが校則ですよ。」 ヨシオ「校則の一番初めにはこうあるんです。     『高校生らしい服装』ってね。     だから僕はそれを基準にしていこうと思います。」 アスカ「高校生らしい、だけじゃあいまいです。」 ヨシオ「じゃあ言い換えましょうか。     似合ってるかどうか、可愛らしく見えるかどうか。」 アスカ「先生。」 ヨシオ「ヨッシ−と呼んで下さい。」 アスカ「ヨッシ−先生、冗談はやめて下さい。」 ヨシオ「冗談じゃありませんよ。」 アスカ「好き嫌いで決めるんですか。」 ヨシオ「僕の判断がおかしいと思ったらみんな指摘して下さい。     それなら客観的でしょう?」 ナツキ「ヨッシ−先生。     短いスカ−トでも似合ってればいいんですか。」 ヨシオ「もちろん、そうですよ。」 ナツキ「じゃあ、私から調べて下さい。」      ナツキ立ち上がって机の横に立つ       ヨシオ教壇の上からすぐに答える ヨシオ「はい、バツです。」 ナツキ「どうしてえ?」 ヨシオ「似合ってないからです。」 ナツキ「客観的に言って下さい。」 ヨシオ「誰か異論がありますか。」 アスカ「短い短い。」 ヨシオ「カスミさん?」 カスミ「異論ありません。」 ナツキ「ひど−い。」 ヨシオ「とにかくもう少し長くしないと目の毒です。     それからピアスも取りましょうね、似合ってませんからね。     お化粧も駄目ですよ。」 ナツキ「そんなに遠くから見えるんですか。」 ヨシオ「ええ、僕の視力は10点ゼロですから・・・     あ、冗談ですよ、2点ゼロなんです。     ナツキさん、お行儀良く座らないと中が見えますよ。」 ナツキ「もう!     セクハラだわ。」 アスカ「はいはい、不合格だって。」 ナツキ「もう、ヨッシ−なんか嫌い!」 ヨシオ「それではアスカさん。」      アスカ立つ ヨシオ「はい、合格です。」 ナツキ「ちょっと!     早過ぎるよ。」 ヨシオ「いやあ、どこから見ても立派なお嬢様ですよ。」 アスカ「いや、そんな・・・」 ナツキ「お嬢様だって。」      アスカ座る ヨシオ「セイトクと言えば昔から有名なお嬢様学校じゃないですか。」 ナツキ「みんな本当の事知らないから。」 アスカ「余計な事言わなくていいの。」 ヨシオ「それではカスミさん、立って下さい。」 カスミ「嫌です。」 ヨシオ「どうしてですか。」 カスミ「私違反なんかしてませんから。」 ヨシオ「立ってもらわないとスカ−トの丈が見づらいんだけどなあ。」 カスミ「馬鹿げてます。     結局先生の好みで検査してるんじゃないですか。     検査するならちゃんとメジャ−で計って下さい。」 ヨシオ「膝上何センチとか計った方がいいんですか。」 カスミ「当然です。」 ヨシオ「僕は、そんな機械でも測定するようなやり方がいいとは思わないな。」 アスカ「私もそう思う。」 ナツキ「そりゃアスカはお嬢様だから。」 アスカ「でもアシを計られるよりいいでしょ。」 ナツキ「そりゃ、そうだけど。」 ヨシオ「う−ん、困ったな。」 アスカ「ヨッシ−先生、カスミは検査を免除してあげて下さい。」 ヨシオ「どうしてですか。」 アスカ「ずっと病気で休んでて、精神的にも疲れてるみたいですから。」 ヨシオ「わかりました・・・     ところで、明日の午後のホ−ムル−ムはお花見に行きましょう。」 ナツキ「あっ、それいいじゃん。」 アスカ「まだ寒いですよ。」 ヨシオ「大丈夫です。     桜の下でバレ−でもやって体を暖めましょう。」 ナツキ「うわあ!」 アスカ「何か昔の青春ドラマって感じね。」 ヨシオ「みんなでお弁当を持ち寄ってにぎやかにやりましょう・・・     あ、別に先生の分まで作ってくれなくてもいいんですよ。」 ナツキ「誰もそんなこと言ってないよ。」 カスミ「私、そんなの行きたくありません。」 ヨシオ「これはホ−ムル−ムの授業ですよ。」 カスミ「まだ体が回復してませんから。」 ヨシオ「じゃあ教室で待ってるかい?」 カスミ「そうします。」      FO       FI       カスミ1人で教室に座ってぼんやり外を見ている       生徒たちヨシオを引きずりながら帰って来ると ヨシオを床に放り投げる アスカ「ほら、ヨッシ−学校着いたよ。」 ナツキ「ヨッシ−、起きなってば。」      生徒たち、ヨシオを揺さぶったり叩いたり蹴ったりバレ−ボ−ルをぶつけたりしているが、起きる気配がない ナツキ「もう!     カスミ、何とかして、こいつ。」 カスミ「どうしたの?」 ナツキ「酔っぱらっちゃってさあ。」 カスミ「お酒飲んだの?」 ナツキ「アスカがビ−ル持って来て。」 カスミ「勤務時間なのに・・・」 アスカ「缶ビ−ル1本くらいで潰れるとは思わなかったのよ。」 ナツキ「これって学校に言った方がいいよね。」 アスカ「問題になるね。」 カスミ「大問題よ。」 ナツキ「ヨッシ−、くびかな?」 カスミ「間違いないわね。」 ナツキ「なんか、かわいそう。」 カスミ「黙っておく事ないわよ、こんな不良教師。」 アスカ「ちょっと待って。     問題になったら私が困る。」 ナツキ「どうして?」 アスカ「私がビ−ル持って来たんだもん。」      ヨシオ、大きないびきをかき始める       生徒たち顔をのぞきこむ アスカ「幸せそうな顔してるね。」 ナツキ「よっぽど楽しかったんじゃない。」 アスカ「今日のはなかったことにしてあげようか。」      生徒たち帰り支度をする ナツキ「カスミ、帰らないの。」 カスミ「もう少し後で帰る。」 アスカ「ヨッシ−に気を付けるのよ。」 ナツキ「大丈夫よ。     明日の朝まで寝てそうじゃん。」 アスカ「じゃあ、先帰るよ。」      生徒たちが帰って行くのを見送ると、カスミ、ヨシオのそばまで歩いて行く カスミ「起きてるんでしょ。」 ヨシオ「バレてましたか。」 カスミ「いいご身分ね。」 ヨシオ「女子高ってのは天国だなあ。」 カスミ「バカ。」      カスミ、呆れたように席に戻ると帰り支度を始める ヨシオ「つい嬉しくて飲み過ぎちゃいましたよ。」 カスミ「相変わらずお酒は弱いのね。」 ヨシオ「僕のことをよく御存知ですね。」 カスミ「前の記憶はないの?」 ヨシオ「ええ。」 カスミ「あんたが殺したようなもんよ。     うちのお父さん。」 ヨシオ「カスミさん。     ヒトっておかしな生き物ですよね。」 カスミ「少しはヒトってものがわかったの?」 ヨシオ「ヒトが生きてるって、素晴らしいことですよ。」 カスミ「それって本音?」 ヨシオ「僕に聞いても仕方ないと思いますけど。」 カスミ「私もう帰る。」      ヨシオ、帰って行くカスミに声を掛ける ヨシオ「カスミさん・・・     いえ、何でもありません。」      FO       FI       ヨシオ花壇で土いじりをしている       アスカは勉強し、カスミは外を見ているが、ヨシオを意識的に避けている       ナツキ登校して来る ナツキ「お早う、ヨッシ−。     今日も精が出るね。」 ヨシオ「やあ、お早う。     ナツキさんのパンジ−が芽を出したよ。」 ナツキ「あっ、ホントだ。」 アスカ「私のヒマワリも芽が出たんだよ。」 ナツキ「カスミは何植えたんだっけ?」 カスミ「小学生みたいなこと、しないよ。」 ナツキ「結構楽しみじゃん。」 カスミ「観察日記でもつけたら。」 ヨシオ「種はいくらでも持ってるから、カスミさんも植えたくなったら植えるといいよ。」 ナツキ「そうだよ。     カスミも何か植えてみたら楽しいよ。」 カスミ「好きにしたら。」 ヨシオ「おっ、凄いのがいたぞ。」      ヨシオ、太いヒモのようなものをナツキに向けて投げる       ナツキ悲鳴を上げて走り去る アスカ「なあに?」 ヨシオ「凄く立派な大ミミズだよ。」 アスカ「ホントだ。     可愛い!」 ナツキ「もう、どっかやってよ、ヨッシ−。」 ヨシオ「ミミズの働きを勉強しただろう?」 アスカ「ミミズは汚れを浄化して排泄物が土壌を豊かにします。」 ヨシオ「そうだよ。     ミミズのいる土はとてもいい土なんだ。」 ナツキ「だってヌルヌルして気色悪いじゃん。」 ヨシオ「それは偏見だよ。     ちょっと触ってごらん。」      ヨシオ、ナツキの手をつかんでミミズに触らせる ナツキ「ヤだあ!(顔をそむけている)」 ヨシオ「どうだった?」 ナツキ「え?     何か、固くてカサカサしてた。」 ヨシオ「ミミズもヘビは表面は乾燥しているんだ。     外見だけでだまされちゃいけないよ。」 カスミ「その通りね。」 アスカ「キャ−、この子可愛い!     見て、凄く愛嬌のある顔してる。」 ナツキ「あんたはちょっと異常よ。」 ヨシオ「ミミズだって立派に生きているんだ。」 ナツキ「やっぱり気持ち悪いよ。」 ヨシオ「でもこいつのおかげで土が耕されて、ナツキさんのパンジ−も芽を出したんだよ。」      始業のチャイムが鳴り、皆教室に入って席に着く アスカ「起立。     礼。」 ヨシオ「今日の生物の授業は・・・。」 ナツキ「お花見行こ!」 アスカ「もう桜散っちゃったよ。」 ナツキ「ツツジ見に行けばいいじゃない。」 ヨシオ「お花見はちょっとねえ・・・」 ナツキ「ビ−ルなんか持ってかないからさあ。」      少し笑い ヨシオ「はいはい。     いいですか。     今日は生物を勉強する意義についてお話します。     みんなはどんな生き物が一番好きですか?     ナツキさん。」 ナツキ「一番好きな生き物ですか?     え−と、イヌかなあ・・・」 ヨシオ「そうですか。     先生もイヌは好きですよ。     でも、どっちかと言えばネコの方が好きかな。     昔イヌに噛まれたことあるから。」 カスミ「先生。     下らない事言ってないで、授業をして下さい。」 ヨシオ「これは下らない話じゃありません。     ナツキさん、一番好きなのがイヌですか?」 ナツキ「え−?     一番は何だろう・・・。」 アスカ「わかった!     オトコの子でしょ。」 ナツキ「ひど−い。」 アスカ「嫌いなの?」 ナツキ「好きだけどさあ・・・」 ヨシオ「先生はオンナの子が大好きですよ。     オトコとオンナがお互い好きなのは自然なことですからね。」 ナツキ「そうよ。     アスカは何が好きなの?」 アスカ「え?     わ、私はヘビとかナメクジとか・・・     でも一番好きなのは、イグアナかなあ。」 ナツキ「うえ−!     変なの。」 ヨシオ「どんな生き物でも、生きてるって素晴らしいことなんです。     だからみんなが嫌うような生き物が好きだって、ちっとも変じゃありませんよ。」 カスミ「先生、教科書を進んで下さい。」 ヨシオ「わかりました。     最後にカスミさんに聞いたら教科書をやりましょう。     カスミさん?」 カスミ「私、生きてる物って嫌いです。」 ヨシオ「それは僕には信じられませんね。     じゃあ、機械とかの方が好きなのかな?」 カスミ「別にそういうわけじゃありません。」 ヨシオ「まあ、いいでしょう。     僕はね、生きてる物は何でも好きです。     でも、何と言っても一番好きなのは・・・。」 ナツキ「オンナの子!」 ヨシオ「半分当たりです。     僕がこの世で一番好きな生き物はヒトです。     オンナでもオトコでも、オトナでもコドモでも、僕はヒトっていうのが大好きなんです。     だから僕は生物の先生になりました。     みんなと一緒にヒトについて勉強したいから。」 カスミ「先生。     早く授業をして下さい。」 ヨシオ「それでは教科書を開いて下さい。     85ペ−ジの『ヒトの誕生』という所から・・・。」 アスカ「どうして急に、そんな所にとぶんですか。」 ヨシオ「さっき言ったでしょう。     僕はヒトについてみんなと勉強したいんです。」 カスミ「先生、わざとですか。」 アスカ「カスミ!」 カスミ「私、先生の授業受けたくありません。」      カスミ、教室を出て行く アスカ「先生、カスミのこと知ってるんですか?」 ヨシオ「何のことです?」 ナツキ「カスミは、春休みに妊娠中絶したんです。」 ヨシオ「それがどうかしましたか?」 ナツキ「どうかって・・・」 ヨシオ「全部聞いて知っていますよ。     産みたくても産めなかった事情も。     相手が高校生ではね。」 アスカ「そこまで知っていて、どうして・・・」 ナツキ「カスミ!」      カスミ、スコップを持って来て花壇を掘り返している ヨシオ「カスミさん。     ヒトは失敗を繰り返すものです。     でも、ヒトはそのたびにやり直すということが出来る。     それがヒトの素晴らしい所じゃないんですか?」 カスミ「みんな聞いて!     この先生、人間じゃないんだよ。」 アスカ「何言ってるの。」 カスミ「こいつ、出来損ないのアンドロイドなんだ。」 ナツキ「なあんだ、アンドロイドか・・・     って、ええっ?!」 アスカ「アンドロイド?」 ナツキ「ねえ、アンドロイドって何?」 アスカ「うそ・・・     信じられない!」 ヨシオ「仕方がありませんね。     僕は人間ではありません。     人間型ロボット、アンドロイドです。」 アスカ「変な冗談言わないで。」 カスミ「ヨッシ−、後ろを向きなさい。     そのまま、1分間止まっておくのよ。」      ヨシオ、後ろを向きじっと立っている カスミ「アンドロイドは外見上何ら人間と変わらない。     でも、こいつらただの機械なの。     人間の命令には絶対逆らえない。」 アスカ「ねえ、これって悪い冗談だよね。」 ナツキ「ヨッシ−がアンドロイドだなんて・・・」 カスミ「証拠見せてあげる。     アスカ、ヨッシ−の背中のぞいて見て。」 アスカ「変なものが付いてる・・・」 カスミ「それがアンドロイドのコントロ−ルパネル。     中を開ければボタンがあるの。」 ナツキ「ホントに、ロボットなの・・・。」 アスカ「アンドロイドを見たのは初めてだわ。」 カスミ「気付いてないだけよ。」 ナツキ「私、なんだか怖い・・・。」 アスカ「突然暴れたりとかしないの?」      ヨシオ、急に後ろを向くと両手を上げて怒鳴る ヨシオ「ガ−ッ!」 ナ・ア「キャ−ッ!」      2人は机の下に隠れたり逃げ出そうとしている       カスミ1人おかしそうに声を上げて笑っている カスミ「あ−、おかしい。     何下手な芝居してんのよ。」 ヨシオ「アンドロイドはヒトに危害を加えることは出来ません。」 ナツキ「じゃあ安全なの?」 カスミ「人間よりよっぽど。」 ヨシオ「安全装置も付いています。」 カスミ「万一アンドロイドがおかしくなったら、背中のボタンを押せばいいのよ。」 アスカ「どうなるの?」 カスミ「死ぬわ。」 ヨシオ「正確に言うと機能が停止するだけです。     研究所でケアすれば又動き出します。」 カスミ「でもそれまでの記憶は全て失われるの。     つまり人生のリセットボタン。」 ヨシオ「僕もこの学校に来る前の記憶は何もありません。     リセットされたんです。」 ナツキ「でも犬に噛まれたとか、初恋の話とかしてたじゃない。」 カスミ「作り話に決まってるでしょ。」 ヨシオ「アンドロイドはヒトに悟られないよう、仕事の前には自分の人生を作って来るんです。」 カスミ「それだけじゃない。     こいつ私たちのこと、調べがつく限り何でも知ってるはずよ。     住所、氏名、生年月日、家族構成、学校の成績・・・。」 アスカ「身長や体重も?」 カスミ「もちろん。」 ナツキ「スリ−サイズも?」 カスミ「たぶんね。     ナツキの初恋の相手とか、好きな男のタイプとかも知ってるんじゃない?」 アスカ「何それ?」 ナツキ「気味が悪いよ・・・」 カスミ「何なら聞いてみる?」 ナツキ「嫌だ!」 カスミ「わかった?     こいつ気味の悪い、嫌な奴なんだよ。     アンドロイドってさあ・・・」 アスカ「ちょっと待って。     どうしてアンドロイドが酔っぱらったり、花粉症になったり、間抜けな事ばかりするのよ。」 ナツキ「それに・・・     カスミ、どうしてそんなに詳しいの?」 ヨシオ「私を作ってくれたのはキムラ博士。     つまりカスミさんのお父さんです。」 アスカ「お父さんって、カスミの?」 カスミ「知らないよね。」 ヨシオ「キムラ博士は3年前お亡くなりになりました。」      照明が変わり カスミの回想シ−ンに変わる       お通夜の晩 客は帰り、カスミとヨシオ2人で正座して話している カスミ「(泣きながら)ねえ、ヨッシ−。」 ヨシオ「はい。」 カスミ「あんた悲しくないの?」 ヨシオ「悲しいです。」 カスミ「そんな風に見えないよ。」 ヨシオ「ごめんなさい。」 カスミ「お父さんが自殺したのは、あんたの研究で行き詰まったからなんだよ。」 ヨシオ「わかっています。」 カスミ「みんなお父さんのことバカにしてた。     失敗したり病気になったり、そんな出来損ないのアンドロイドなんか作ってどうするんだって。」 ヨシオ「私は出来損ないですか。」 カスミ「少しでもヒトに近づけるためにね。     だけど、あんたどうしてもヒトにはなれなかった。」 ヨシオ「私にはどうしようもありません。」 カスミ「わかってる。     お父さん、あんたにいろんなプログラミングしたけど、悲しいときに泣くっていうプログラムは入れないんだって・・・(泣く)。」 ヨシオ「カスミさん・・・」 カスミ「だけど、アンドロイドがヒトになるなら、必ず泣いてくれるんだって・・・(泣く)」 ヨシオ「プログラムにないことは、出来ません。」 カスミ「ヒトはそんな言い訳しないよ!・・・     ヒトはね、教えられなくても泣いてしまうもんなんだよ。」 ヨシオ「ごめんなさい。     私結局出来損ないのままでした・・・」      カスミ、ヨシオの背中に手を入れてリセットボタンを押す       ヨシオ倒れて動かなくなる       回想シ−ンが終わり 照明が元に戻る カスミ「この出来損ない!     今頃のこのこ私の前に現れないでよ。」 アスカ「プログラムにないことをアンドロイドにやれなんて無理よ。」 カスミ「こういう時は笑う。     こういう時は怒る。     こういう時は泣く・・・     そんな条件反射をいくらプログラミングしても、それはヒトの感情とは違うのよ。」 ヨシオ「どこが違うんですか。     みんなだって、本能という名のプログラムで動かされているだけじゃないんですか。」 ナツキ「話が難し過ぎるよ。」 ヨシオ「教えて下さい。     人為的なプログラミングによって動くアンドロイドと、自然の本能によって動く人間と、一体どこに違いがあると言うんですか。」 ナツキ「私、人間は本能だけで動いてるんじゃないと思う。」 アスカ「じゃあ、それは何?     誰かヨッシ−に教えてあげて。」 ナツキ「そんなのわかんないよ!」 ヨシオ「ごめんなさい。     今日はもう帰らせて下さい。」      ヨシオ、ゆっくりと出て行く ナツキ「何か、さびしそう・・・」 カスミ「そういうフリをしてるだけよ。」 ナツキ「そうかなあ?」 カスミ「そうに決まってるじゃない!」 アスカ「どうしてヨッシ−うちの学校に来たんだろう。」 カスミ「そんなの知ったことじゃないよ。」 アスカ「ねえ、もしかしたらカスミのことが心配で来たんじゃないの?」 カスミ「ヨッシ−はね、あのとき私がリセットしたのよ。」 アスカ「じゃあカスミのこともカスミのお父さんのことも知らないはずじゃない?」 カスミ「後から学習しただけよ。」 ナツキ「ねえカスミ。どうしてヨッシ−をリセットしちゃったの?」 カスミ「相手はただの機械なのよ。     それなのに私の小さい頃からのこと全部知ってて・・・     そんなのにいられちゃ、気持ち悪いじゃない!」 アスカ「私そんな風には思えない。     ヨッシ−はきっとお父さんの恩返しに来たのよ。」 カスミ「あいつがそんな感情持つくらいなら、お父さん自殺なんかしてないよ。」      FO       FI 早朝の教室       ヨシオ1人で花壇に種を植えている       アスカ登校 アスカ「ヨッシ−先生、お早うございます。」 ヨシオ「お早う、アスカさん。」 アスカ「又、種植えてるんですか。」 ヨシオ「何回でも植えかえればいいんですよ。」 アスカ「カスミのことが気になって、この学校に来たんじゃないんですか?」 ヨシオ「全然覚えてないのに、そんなわけありませんよ。」      ナツキ登校して来る ナツキ「ヨッシ−先生、お早うございま−す!」 ヨシオ「ナツキさん、今日も元気ですね。」 ナツキ「ねえヨッシ−見て。     今日はスカ−トちょっと長くしたよ。」 ヨシオ「どういう心境の変化かな?」 ナツキ「だって視力10点ゼロなんでしょ。     エッチ。」 ヨシオ「みんな、僕がアンドロイドでも平気なんですか。」 アスカ「だって、ヨッシ−はヨッシ−だから。」 ナツキ「出来損ないだしね。」 アスカ「あれ、カスミは?」 ナツキ「いつも早いのに。」      カスミ、スコップを持って現れると、黙ってヨシオの植えた種を掘り返す ナツキ「カスミ!」 ヨシオ「いいんですよ。」 アスカ「カスミ?」 ナツキ「泣いてるの?」 アスカ「どうして、そんなこと、するの・・・」      FO       音楽流れる       FI 早朝の教室       ヨシオ花壇をいじっている       生徒たち教室で適当に過ごしている       スコップを持ったカスミが現れ、花壇を掘り返し始める ヨシオ「カスミさん。     泣かなくなりましたね。」 カスミ「毎朝だもの。」 ヨシオ「今日で終わりですね。」 カスミ「ヨッシ−。     私手術することにしたの。」      生徒たち「手術」と聞いて、窓ぎわに集まって来る カスミ「子宮、取っちゃうの。」 ヨシオ「何のために、そんなことを?」 カスミ「内膜症治らないから。」 ナツキ「カスミ、駄目だよ、そんなことしちゃ。」 アスカ「産みたくても産めない人もいるんだよ。」 カスミ「それ、お母さんにさんざん言われたわ。」 ナツキ「ねえ、そんなの悲し過ぎるよ。」 アスカ「後で後悔するよ、きっと。     内膜症だって日常生活には問題ないって言ってたじゃない。」 カスミ「お腹がさあ、毎日チクチク痛むの。」 ヨシオ「将来のために我慢しなくちゃいけませんよ。」 カスミ「ただの痛みじゃないの。     これって私の子供が痛がってる。     生まれるはずだった、私の子供・・・。」 ナツキ「カスミ。」 カスミ「私、ヒト殺しちゃったのよ。     おなかの中の子供・・・」 アスカ「まだヒトにはなってなかったのよ!」 カスミ「ふうん・・・     私、本当は子供堕ろした後、すぐに子宮なんか取ってしまいたかった。     でも、もしかしたらやり直しがきくかも知れない、もう1度好きな人が出来てその人の子供を産みたくなるかも知れないって・・・」 ヨシオ「その通りじゃないですか。」 カスミ「でもね、わかったの。     世の中にはやり直しのきかないこともあるんだって。」 ヨシオ「そんなことはない・・・     生きてさえいれば・・・」 カスミ「アンドロイドはいいよね。     リセットすれば新しい人生やり直せるんだもの。     私だって、こんな下らない人生リセットしちゃいたいよ。」 ヨシオ「何をバカなこと言ってるんですか。」 カスミ「ねえ、私のお父さん、生き返る?     私の子供は?・・・     生き返らないよね。」 ヨシオ「死んだ人の話をしているんじゃないんです。     アンドロイドは成長しない。     だからリセットしなきゃやり直しはきかないんです。     でも人間は成長する。     だからいくらでもやり直しがきくんですよ!」 カスミ「ねえ、ヨッシ−。     あんたってホントにバカよね。     あんたが何回種を植えたって、私の気持ちは変わらなかった。     私の気持ちは、もう2度と変わることがないんだって、あんたのおかげで、私よくわかったんだ。」      ヨシオ無言でカスミの前に立つと、ピシャリと頬を張り、オドオドしながらその場に伏せてしまう カスミ「アンドロイドが人間に危害を加えるなんて・・・     あんた、本当に出来損ないだわ。」 ヨシオ「殺してくれ・・・     僕を殺して下さい。(大声を上げて泣き始める)」 ナツキ「ヨッシ−!?」 アスカ「ヨッシ−が・・・     泣いてる・・・」      カスミ、手に持ったスコップを落とすと、ヨシオに寄り添うように身をかがめる ナツキ「カスミ!?     まさか・・・」 アスカ「バカなことしないで!」      カスミ、ヨシオの背中に手を入れる       ヨシオの泣き声がやみ、動かなくなるのを確認したカスミは高笑いを始める カスミ「あはは。     はははは。     ははははは・・・・」 ナツキ「カスミ・・・」 アスカ「ヨッシー、泣いてたよ・・・」 カスミ「・・・はははは     ・・・そうだね。    (泣き声)お父さん。     ヨッシーが、やっと泣いてくれたよ・・・」      カスミ、ヨシオのジャ−ジのポケットから花の種を取り出して カスミ「ヨッシ−先生。     私、種植えてみるね。」      FO       単サスの明かりの中でカスミ種を植えながら独白 カスミ「こうして私たちはヨッシ−先生とお別れしました。     これから先は未来の話。     私たちは高校を卒業してそれぞれ別の道に進みました。     遠くの大学に行った子もいます。     でも結局みんな地元に戻って暮らしています。     10年後、私たち仲良し3人組は同窓会を開くことにしました。     あの、3年B組の教室で・・・     そう、そしてヨッシ−先生も来てくれることになったんです。」      FO       FI       3年B組の教室にナツキとアスカ、昔の席に座っている アスカ「ねえ、ホント懐かしいね。」 ナツキ「10年ぶりだもん。」 アスカ「ナツキ、ダンナとうまくやってる?」 ナツキ「もう飽きちゃったよ。」 アスカ「まだ結婚して半年でしょうに。」 ナツキ「だって5年も付き合ってたから。     あ−あ、早く子供欲しいよう。」 アスカ「そんなこと、気軽に言わないのよ。」 ナツキ「アスカのとこ、子供何人いるんだっけ?」 アスカ「3人。     それも男、男、男。     もう毎日戦争なんだから。」 ナツキ「アスカが一番結婚早いとは思わなかったな。     学生結婚しちゃうんだもん。」 アスカ「今にして思えば、早まったかもね。」 ナツキ「まるで結婚相手探しに、大学行ったみたい。」 アスカ「あの頃は名前の通った大学に行かなきゃ人生の落伍者になる、みたいな気がして、一生懸命勉強したんだけど・・・。」 ナツキ「おかげでダンナが見つかったんだから良かったじゃない。」 アスカ「結局専業主婦やってれば世話ないわ。」 ナツキ「働かないでやってけるんだから、いい身分よ。     うちなんか、私の方が稼ぎが多いんだから。」 アスカ「子供が3人いちゃ働きたくても働けないの!・・・     まあ、それなりに幸せなんだけど。」      カスミ、手に包みを持って現れる ナツキ「何買って来たの?」 カスミ「お酒。」 アスカ「何だかヨッシ−に当てつけみたいだね・・・     あ、でも覚えてないか。」 カスミ「でしょうね。     あの時リセットしちゃったし。」 ナツキ「ヨッシ−、ホントに来るかなあ?」 カスミ「所長さんに言っといたから大丈夫よ。     あの通りの役立たずだから、他に仕事なくて暇らしいし。」      ヨシオ現れる       以前と全く変わらぬ恰好で ヨシオ「あ、あのう・・・」 ナツキ「ヨッシ−先生!」 アスカ「お待ちしていました。」 ヨシオ「3年B組の教室と言うのは、こちらでよろしいのでしょうか?」 カスミ「そうです。」      カスミ、ヨシオに近付いて カスミ「あの、私キムラカスミと申します。」 ヨシオ「ああ、あなたがキムラさんですか。」 カスミ「先生。」 ヨシオ「わ、私が?」 カスミ「はい。     私、先生にはとてもお世話になりました。     だから一言報告したくて。」 ヨシオ「はあ・・・」 カスミ「私、今度産まれるんです(ヨシオの手をとってお腹に当てがう)」 ヨシオ「このお腹に赤ちゃんが?     それはおめでとうございます・・・     おかしいな。     どうして・・・     涙が、こんなに・・・」      懐かしい音楽が流れ 閉幕