「マサルの1日」 中島清志 作 【キャスト】マサル・・・ごく普通の高校2年生男子。両親とも警察官             だが、現在父親は単身赴任で不在。      開幕 深夜である。      マサルがシルエットの中で机に座り      ノートパソコンに向かっている。      しきりと何か操作しているようだ。      朝になる。      マサルはいつの間にかベッドで寝ている。      目覚まし時計がけたたましく鳴る。      マサルは手探りでそれを探すとスイッチを切る。      起こしに来た母親と目が合うマサル。 「母さん!  何で目覚まし時計変えるんだよ!  ほら、白鳥ミクちゃんの目覚ましがあっただろ?  どこやったんだよ!  え?  今流行ってるアニメのキャラだよ。  だから、テレビではやってないの。  パソコンテレビでさ・・・  母さん知らなくてもいいから。  ミクちゃんが、『お早う、マサル君』って  言ってくれる目覚ましだよ。  せっかく懸賞で当たったんだから、勝手なことすんなよ。  え?  こっちの目覚ましなら一発で目が覚めるって?  ミクちゃんが『お早う』って言ってくれりゃ  一発で起きるって。  ・・・母さんがそんな声で言わないでいいよ!  気色悪いだけだよ、歳を考えろよ!  あ、いや・・・  ごめんなさい。  だから、ミクちゃんの目覚まし、どこにやったんだよ?」      マサルはハッと気付いて、ある物を布団の下に隠す。 「え?  い、いやあ・・・  ホラ、アニメの雑誌だよ。  最近のアニメ絵ってちょっとえっちなのも多いから  恥ずかしいかと思ってさあ・・・  え?  ティッシュが転がってる?  あ、ごめん、捨てとくよ。  昨日から妙に鼻がムズムズしてるんだ。  花粉症かも知れない。  はは。  はははは・・・  う、うん、わかった  ちゃんとわかんない所に後で隠しとくからさ。  絶対捨てちゃダメだよ。  え?  あんたの趣味に興味があるって?」  ちょ、ちょっと、やめてよ!  後で見てもいいからさ。  そんな目の前で見られたらイヤに決まってるだろ!  何て言ったらいいかな・・・  そうだ、男のコケンに関わるんだよ。  今度父さんが帰って来たら聞いてみてよ。  ・・・うん。  男ってのはデリケートなんだよ。  いや、だから、看護婦とスチュワーデスと学校の先生、  どれが好きかなんて聞かれても答えられないよ!  どういう選択肢なんだよ、全く・・・  あ、勝手の俺のパソコン見ちゃダメだよ。  え?  もう切れてる?・・・  母さん切ったの?  いや、別に、見られちゃ悪いことなんかありゃしないけどさ・・・  だから、アニメだよ。  流行ってるって言っただろ?  昨日の晩はちゃんと勉強したよ、ホントに。  試験発表もあったし。  で、ちょっと、まあ、気晴らしに・・・  あ、いや、ダメだよ!  ネットで調べ学習とかしたりするんだからさ。  母さんの時代と違うんだって。  うん、みんなそうだよ。  パソコン持ってなくても、ケータイでネットやってるんだって。  あの、だからさ、母さんにそこにいられると、  支度しづらいんだけど。  わかるだろ?  いろいろ・・・  早く下行って朝ご飯でも作って来てよ。  え?・・・  いや別に母さんのことメイドだなんて思っちゃいないから。  え?・・・  余計なお世話だよ!」      母親が去ったようだ。 「メイドさんとどこまで行ったの?  って、完全にバレちゃってるな。こりゃ。      机に向かいノートパソコンの電源が切れているのを確認 「くっそー、レイカちゃんとせっかくいい所まで行ってたのに、  またやり直しかよ!  キスまでこぎ着けるのに費やした昨日の晩の苦労が、  全部パアか・・・  何でキスした所でセーブしとかなかったんだろ?  一生の不覚だ・・・  しっかし、あの後どうやって先進めるんだろう?  いきなり張り倒されてゲームオーバーだったんだよな〜  モリユキに聞いてからにするんだったな。  だけどあいつ妙に真面目だから、  試験中はケイタイ掛けて来るなって言うからな〜  しょーがねえ、今日でも聞いとくか。  ・・・いやだけど、もっかいやり直しかあ・・・  はっきり言ってたるいんだよな、キスまでが、このゲーム・・・  いっそのこと、カリンちゃんでプレイしてみるかな?  巨乳だし。  だけど、婦人警官って設定がヤバいんだよな〜  うちのおかんを思い出しちまうもんな〜  ホント、「ミニスカポリスよ」って  あの歳でミニスカはくのはやめて欲しいよ。  やっぱあれは若くてカワイイ子がやってナンボの  格好だよな〜。」      マサルはぶつぶつ言いながらエロ本を机の奧にしまい      服を脱いでいる。      クローゼットの中で白鳥ミクの目覚ましを発見。 「こんな所に隠してたんだ。  これこれ、ミクちゃ〜ん。」      マサルが目覚ましをセットすると      白鳥ミクの声がエンドレスで流れる。 「お早う、マサルくん。   お早う、マサルくん・・・」      パンツ一丁でウットリと目覚ましを耳に当てるマサル。 「お早う、マサルくん。  お早う、マサルくん。  お早う、マサルくん・・・」      そこへ母親が再び入って来たようだ。      うろたえるマサル。 「あ、か、母さん・・・  だから、必ずノックしてくれって言ってるじゃないか!  ほら、何とかの中にも礼儀ありって言うだろ?  え?・・・  あんたをそんなヘンタイに育てた覚えはない?  余計なお世話だよ!・・・  朝ご飯?  あ、ああ、すぐ着替えて下りるからさ・・・」 マサルは慌ててズボンをはくが、     目覚ましを見てギクリとする。 「ちょっと母さん!  母さんがベラベラしゃべってるから、遅くなったじゃないか。  7時半のJRに間に合わないから、朝めしはもういいよ。  え?・・・  朝ご飯を食べないのは泥棒の始まりだって?  それを言うならうそつきだろ。  え?・・・  45分ので行けばいいだろうって?  いや、だから、早く行った方がいろいろと・・・  う、うわあ!  わあった!  わあったから、首締めないでくれよ!」      マサルは急いで着替えをすませると      カバンを持ち階下に下りて行く。      急いで朝ごはんをとっているマサル。 「え?  三者懇談は4時ちょうどだよ、確か。  ・・・別に何でもいいよ。  いやちょっと待って!  制服とミニスカはやめてくれよ・・・  和服もダメだよ!  何で三者懇くらいでそんなに気合いを入れるんだよ。  え?・・・  ヤマムラ先生がいい男だから?  何考えてんだよ、全く。  ・・・さあ?  独身なんじゃないの?  あの先生若げだしさ。  ・・・だから、母さん結婚してるだろ!  単身赴任だからって、関係ないよ!」      早送りで朝食を終え、身支度をしてから家を出ると      駅まで走りJRに飛び乗るマサル 「はあ〜  やっぱこの時間だと混んでるよなあ・・・  母さんの頭が固いのにも困ったもんだよ。  これじゃあつかまる所もないじゃないか。        JRが揺れて、前の人にぶつかってしまうマサル。 「あ、あ〜!  ごめんなさい・・・  わざとじゃないんです。わざとじゃ・・・            駅に到着し学校に向かって歩き始めたマサル。 「ふう〜。  大変な目にあったな。  エミちゃんには会えねえし。  あのおばちゃん、すっげえ目でにらみやがった。  誰もあんたにチカンなんかするわけねえだろ。  ・・・いや、でも、歳は喰ってても結構美人だったかもな。  意外とラッキーだったかな?  あのおばちゃんのカラダのぬくもりが・・・  いや、待て。  一体何バカな事を言ってるんだ、俺は!  俺の本命はエミちゃんだからな。  年増によろめいてちゃいかんぞ!マサル。  お、うわさをすれば、あれはエミちゃんだな。  校門の後ろで何やってるんだ?  え?  あれは・・・  おーい!  モリユキー!」        友人のモリユキを遠くから呼ぶが、      モリユキはその場を離れてしまったらしい。 「あの野郎、なんでこの俺をシカトすんだよ〜。  エミちゃんもさっさと行っちまったし・・・  え、待てよ?  モリユキがエミちゃんと・・・  まさか、まさかな〜。  あいつにそんな勇気があるわけね〜し・・・  おっと、急がねえと遅刻だぜ!」      教室に入ったマサル。 「あれえ?  みんな何やってるんだ?  え、宿題?  しまったあ!  完全に忘れてたぜ。  お、おい、モリユキ、モリユキ!  宿題やってたら見せてくれよ。  何?  他のやつらに見せてるところだって?  全く、肝心な時に使えねえやつだな。  ああ、もうダメだ、間にあわねえ!  又呼び出しくらって放課後残されるハメになるぜ。  しょーがねえな・・・」      授業にのぞむマサル。      朝から大アクビである。 「ふわ〜あ。  やっぱ寝不足はきついな。  レイカちゃんが、なかなかやらせてくれねえんだもんな。  一体どうやったらクリア出来るんだよ。  やっぱ攻略本買うしかないか・・・」      先生に当てられたようである。      慌てて周りに助けを求めるマサル。 「はい!  え、え〜と・・・  訳すんですね、日本語に。  え?  スワヒリ語でも構わないって?  つまんない冗談やめてくださいよ、先生。」      小声で 「お、おい、モリユキ!  一体どこ当たったんだよ?  ・・・寝てたって?  バカヤロ、授業中に寝るやつがあるか!  あ、先生。  ちょっと待ってくださいよ・・・  え?  もういいんですか?  はい。  お昼に職員室に行けばいいんですね。  わかりました・・・」  時間早送り。      昼休みにヤマムラ先生に呼び出されて      職員室に向かうマサル。 「ホント今日はついてねえな。  厄日だぜ。  今日は弁当じゃねえから、早く食堂行きたいのに呼び出しかよ。  ・・・ん?  しまった!  急いで家出て来たから、母さんにお金もらってねえよ!」      職員室をノックして入るマサル         「失礼します。  あ、あの・・・  すみませんでした!  ・・・え?  説教じゃないんですか?  ・・・い、いや、授業中ぼうっとして、聞いてなかったし・・・  どうせ俺の授業なんか誰も聞いてない?・・・  先生、そんな落ち込まないでくださいよ!  いつも楽しみに聞いてるんですよ。  いつくだらないオヤジギャグが出るかと。  あ、こないだのアレ最高でした!  arrive at(アライブ アット)  あっと言う間に着きました!  ね、ちゃんと聞いてるでしょ?  先生の授業。  ・・・あ、いえ、ホントバカにしちゃいませんよ!  授業はつまんないけど、先生は好きですから。  だから宿題は忘れちゃったんですけど、よろしく。  ・・・ところで、何の用ですか?  ・・・ノリユキですか?  ・・・僕もずっとあいつについてるわけじゃないんで。  でもあんまりひどいことはないんじゃないですか?  ちょっとからかわれるくらいで。  ・・・ええ、行き帰りはなるべく一緒に行ってやってますから。  ・・・はい。  何か気になることがあったら、先生に言います。  ・・・たぶんもう大丈夫ですよ。  あいつ結構からかわれてもケロッとしてますから。  ・・・いや、そんな、先生に頭下げてもらうことはないです。  ああいうやつ見てると、僕自身が放っておけないんで。  ・・・え?  タバコですか?・・・  トイレで?  さあ、僕は吸わないですし・・・  ホントですよ!  たぶんノリユキにちょっかいかけて来る連中じゃないですか?  ・・・いやだから、クラスの男子の半分くらいですよね。  ・・・ホント、それ以上知らないですから。  ・・・あ、今日4時ですね。  ・・・はい、母親だけです。  父親は単身赴任でいないんで。  ・・・それでは、失礼・・・  あ、あの、先生。  ・・・い、いや、やっぱり何でもないです。  ・・・失礼します。」      職員室を出るマサル。      廊下を歩きながら 「先生に金貸してくれとは言いにくいよな〜。  やっぱこういう時は、モリユキに頼むか。  ・・・いや、俺は明日すぐ返すんだから問題ねえよな。  ・・・トイレでタバコか。  そんな古典的なバカもいるんだな。  ま、俺には関係ねえし・・・  何かトイレに行きたくなったな。  用でも足して来るか。」      トイレに入り、小用を足しているマサル。 「ふ〜。  何でションベンした後ってふるえが来んのかなあ?  エネルギーを消耗してんのかも知れないなあ・・・  あれ?」      個室の中から煙が立ち上っているのを発見したマサル。 「さっそく吸ってる奴がいるよ・・・  先生呼んで来るか?  ・・・俺には関係ねえよ。  関わりになるの嫌だから、さっさとここを出るか・・・」      手を洗っていたマサルは、      個室から意外な人間が出て来たのに驚く。 「モリユキ?  お、おい、変なとこで会ったな。  けさは悪かったな、ちょっと家出るの遅くなっちゃって・・・  あいつら、又たかって来たりしなかったか?  ・・・え、今日は宿題を見せてくれって言われただけ?  ・・・これなら、むしろ自分の勉強にもなるからいいって?   お前相変わらず前向きなやつだな。  ま、いいよ。  とにかく行き帰りはなるべく一緒に行ってやるからな。  あいつら、お前が1人の所を狙って悪さして来るんだから。  ・・・おい、モリユキ!  俺ら友達だろ?  別に先生に頼まれたからじゃねえよ。  確かに始めは、お前が学校来なくなったのを、  家が近いんだから様子を見て来てやれ、  って先生に言われたからだよ。   ・・・何のこたあねえ、お前と来たら学校サボって  ギャルゲー三昧だったんだからな。  ・・・ああ、先生には言ってねえよ。  お前のおかげで、俺までギャルゲーにはまっちまったからな。  とてもそんなこと言えねえよ。  18禁のやつばかりだし。  ・・・俺なんか、オカンの目をごまかすのに苦労してるよ。  実はちょっとバレちゃってるっぽいんだけどな。  ・・・親父がいたら大変だよ。  ・・・単身赴任でいないからさ。  ところでモリユキ、もう昼飯食ったの?  ・・・え、何?  ・・・今日、家から弁当持って来るのを忘れた?  相変わらずボケてんな、お前。  実は俺も弁当がねえんだ、今日。  ・・・何?  ・・・金を貸してくれだって!?  ・・・あ、ワリイ。  別に腹を立てたわけじゃねえよ。  俺も金をオカンにもらって来るのを忘れたから、  お前に借りようかと思ってたんだ。  ・・・余分な金はなるべく持たないようにしてるんだって?  ああ、それはいい心掛けだな。  金持ってなきゃあいつらもせびりようがねえからな。  ところで、どうするよ?  困ったな・・・  ようし、こーなったらしょうがない。  飯抜き同士、ゆっくり語り合って昼休みを過ごそうじゃねえか。   ちょうどお前に聞いときたいことがあったんだ。  ・・・いや、こんな立ち話で出来る話じゃねえ。  よし、も1回その中に入ろうぜ。  その前に手を洗えよ、モリユキ。  ・・・え?  こんな所で会ったのがウンの尽き?  うまいこと言うね。  手洗ったか?  よし、中でゆっくり語ろうぜ。」      モリユキと一緒にトイレの個室に入ったマサルは      便座に腰掛ける。 「え?  何で俺が座るのかって?  途中で替わってやるから、まずオメーは立っててくれよ。  ・・・あのさ、他でもねえんだけど、  お前『ときめきパラダイス』全員クリアしたんだよな。  え?  中学生はヤバイから、マリナちゃんとはやってない?  何カタイこと言ってんだよ。  ゲームだろ、ゲーム。  はあ?  ・・・自分にも中学生の妹がいるからイヤだって?  う〜ん、その気持ちはわからんでもないがな〜。  って、んなこたどーでもいーんだよ。  レイカちゃんはどうやったらハッピーエンディングに行けるんだ?  教えてくれよ。  ・・・あの大人しいメイドの子だよ。  実はキスまでは行ったんだけどな。  その後どうしてもやらせてくれね〜んだよ。  次に日曜にデートに誘うだろ?  あれはどこがいいんだ?  ・・・これまでの展開からして、映画館かな?  と思ってな。  そしたら、スッゲーいいムードになって  うちまで来てくれたから、これは?  と思ったら、ひっぱたかれて終わっちまったんだよ。  え?  じんじゃ〜!?  神社か、なるほど。  それは盲点だったよ。  そう言やレイカちゃんは占いとかが大好きだったよな。  さすがモリユキ。  こうゆうことに関しては天才的だな。  ・・・え?  ・・・ミコさんに萌えるんだって?  んなこた聞いてね〜よ!  ・・・え?  ・・・そろそろしんどくなって来たから替わってくれって?  わかったよ。  座らせてやるよ、ホラ。  全くオメーは軟弱だからな〜。  もっとシャキッとしね〜から  あいつらにイジメられんだよ。  ・・・え?  パシリさせられたり、金をせびられたりするのは  立派なイジメだろうが!  金額の問題じゃね〜よ!  事が大きくなる前に先生に言った方がいいんじゃねえか?  モリユキ?・・・・  ヤマムラ先生は信用してもいいと思うぜ。  ・・・わかったよ。  あんなやつらでも友達だって言うのか、モリユキ。  だったらなるべく俺と一緒に行動しろよ。  特に行き帰りはよ。  ところで、モリユキ。  お前さっきタバコ吸ってただろ?  ・・・ケムリが見えたぜ。  ・・・そんなに慌てるなよ。  俺がチクるわけねーだろ。  落ち着けよ。  どんなタバコ吸ってたんだ?  見せてくれよ。」      マサルはモリユキからタバコを受け取ったようだ。 「へえ〜。  お前がタバコ吸ってるなんて、人は見かけによらないもんだな。  まさかって感じだぜ。  くそまじめが服着てるって感じのお前がねえ。  俺なんざ、吸ってもねえのに、タバコ吸ってるだろ?  って先生に疑われる方だもんな。  ・・・え?  ホントか、だって?  ああ、これはホントだ。  俺んちの親父さ、警察官だろ?  すっげえ怖いんだ。  小学校の頃、親父のタバコ黙って吸ってみたのがバレて、  ボコボコにぶん殴られたんだ。  顔が腫れ上がって学校休んだんだぜ。  マジで冗談になんねえよ。 『今度やったら生かしちゃおかんからな!』  って、警官だかヤクザだかわかんねえよ。  うちの親父、見た目もヤクザみたいだしさ。  ・・・笑いごとじゃねえって!  それ以来タバコは吸ってねえな。  ホラよ。(タバコを返す)  モリユキ、お前よくトイレで吸ったりしてんのか?  ・・・え?  今日はいいことがあったから、一服してた、だと?  何をナマイキな。  お、おい、どうした?  急にニヤけやがって、気色悪いぞ、モリユキ。  はは〜ん、いいことって、そういうことか。  どうせ、女の子のパンツが見えた、とかそんなことだろ?  お前典型的な、ムッツリスケベってやつだからな。  ・・・何い?!  俺と一緒にするな、だとお!?  じゃあ、どんないいことがあったんだ?  教えろよ。  教えないと、ただじゃおかねえぞ!  ・・・なあ。  ちょうどいい空間だと思わないか?  ここなら他の誰にも聞かれる心配はねえからさ。」      マサルはモリユキから耳打ちされているようだ。 「何い!  エミちゃんにコクっただとお?!」      マサルはモリユキの首を絞めている。 「はあ、はあ・・・(息が荒い)  わかったから、落ち着けよ。  ・・・え?  お前にじゃねえ、俺に言ってんだよ!  ・・・どんな風にコクったんだ?  ・・・ラブレターを渡した?  ずいぶんやることが古典的だね、お前も。  ・・・いつも俺と一緒で渡す機会がなかっただと?  それじゃまるで俺が悪者みたいじゃねえか!」      マサルは頭を抱えて自分の気を落ち着かせている。 「あのな、モリユキ。  エミちゃんはクラスの男子にすっげえ人気があるんだよ。  俺が知ってるだけでも、狙ってたやつが4人はいる。  だけど試験前だしな、抜け駆けは許さねえって、  みんな牽制し合ってよ・・・  これだから空気の読めねえお前は困るんだよな〜。  ・・・俺か?  俺は別に何とも思っちゃいねえよ。  ガールフレンドならいくらでもいるしな。  ・・・お前が知らねえだけだよ!  ・・・ほう。  で、オッケーの返事をさっきもらったんだな?  良かったじゃねえか、モリユキ。  彼女いない歴17年の情けないお前にも、  ついに彼女が出来たか〜。  ・・・ん?  トゲを感じるって?  お前な〜。  俺が友達の幸せをねたむようなちっぽけなやつに見えるか?  他の連中は知らねえが、俺はお前を応援してやるぜ、モリユキ。  ・・・デートの約束はしたのか?  ・・・ああ、試験が終わった日曜に映画ね。  いや待てモリユキ。  それは失敗するパターンだ。  神社に行け。  神社に行って、ミコさんにお祓いをしてもらうんだ・・・」      心なしか元気のなくなったマサル。 「・・・え?  別に元気がなくなったわけじゃねえよ!  腹が空いただけだ。  ・・・もうこの話はやめようぜ。  お前も今日三者懇だったよな?  ・・・確か俺の前の順番だろ?  進路とかどうするつもりだ?  いやマジな話だけど。   お前小説家になりたいとか言ってなかったか?  ・・・まあ、それで食っちゃいけねえよな。  ・・・俺か?  とりあえず大学には行きたいんだけどな・・・  推薦?  無理だよ無理。  お前こそ推薦もらったらどうだ?  ・・・大学に行けるかどうかわからない、って?  ・・・ああ、お前んち母子家庭だしな。  ・・・高校だって奨学金でやっと通わせてもらってる?  そうか。  お前も大変なんだな、モリユキ。  だけどさ。  俺がこんな事言うのも何だけど、  奨学金もらってるくせに  タバコ吸ってるのバレたらマズイんじゃねえの?」      その時個室のドアを激しくノックする音と共に      ヤマムラ先生の声が。 「おーい!  誰だ、中に入ってんのはー!」      慌てるマサルとモリユキ。 「お、おい!  ヤバイぞ、モリユキ。  すぐ隠せ!  それか、便器に入れて流すんだ!」      ヤマムラ先生のノックと声はますます大きくなる。 「おーい!  開けなさい!  もうバレてるんだからな!」      モリユキはショックで凍り付いているようだ。 「モリユキ!  泣いたってしょうがねえだろうが!  あ〜、もう・・・  寄越せ!」      マサルはモリユキの手からタバコの箱をもぎ取る。 「今開けまーす!」      個室のドアを開けるマサル。 「はい。  生徒指導室ですね。  手洗ってから行きます。」      ヤマムラ先生は先に生徒指導室へ向かったようだ。 「モリユキ、先生行ったぞ。  心配するな。  俺が吸ってたことにしてやるから、お前は余計なことをしゃべるな。  いいか?  言った通りにしないと、承知しねえからな・・・」      三者懇の時間である。      生徒指導室で懇談をしているマサル。 「だから、母さん、先生の行った通りだよ・・・  うん・・・  最近学校でちょくちょく吸ってて・・・  はい、先生。  間違いないです。  モリユキ君は関係ありません。  トイレの中でダベってたら、吸いたくなって、僕が勝手に吸い始めたんです・・・  トイレで話したっていいじゃないですか!・・・  あ、いえ、すみませんでした・・・  母さん!?・・・  ごめんなさい・・・  あ、あの、先生、モリユキ君は?・・・  こんな事に巻き込んじゃって、怒ってるんじゃないかと・・・  えっ!・・・  この学校やめる、って本当ですか、それ?・・・  やっぱり、いじめ、とか・・・  あ、違うんですか・・・  家計を助けるために、働く、って・・・  そうですか。  余計な口出ししてすみませんでした・・・  え!?・・・  あいつが、僕に「ありがとう」と言ってくれ、ってそんな事先生に言ったんですか・・・」      その夜、部屋で謹慎状態のマサル。      母親と話している。 「あ、うん、わかった。  パソコンはしばらくあずかっといてよ・・・  勉強するよ、ちゃんと・・・  いや、だからホントなんだって・・・  モリユキ君をかばって、なんて、そんなわけないじゃん。  知ってるでしょ、モリユキ君ってくそまじめな子なんだから・・・  本当だって!・・・  ねえ、母さん、父さんに言わないの?・・・  いや、いいよ、半殺しにあったって。  俺が悪い事したんだからさ・・・ (不自然な間)  ねえ、母さん。  母さんこそ、ホントの事言ってよ。  父さんと別れるんでしょ?・・・  わかるよ、それくらい・・・  え、もう別れたって?・・・  ははは、いいよ。  あんな暴力親父なんか早く別れて正解さ・・・  じゃあ、俺も、本当の事を言うよ・・・  え?  言わないでいいって?・・・  ああ、そうだよ。  これは男のコケンに関わる問題なんだ・・・・  ゴメンよ、母さん・・・」      母が去り、1人部屋に残されたマサル。      おもむろにケイタイを取り出す。 「さってと。  もっかい、レイカちゃんとやり直しだな。  はは、母さんも、このゲームがケイタイでも出来るとは知らなかったみたいだな・・・」      突然、白鳥ミクの目覚ましがしゃべり出す。 「お早う、マサルくん。  お早う、マサルくん・・・」      それを投げつけて止めるマサル。 「るっせーよ!  バカにしてんのか!」      ケイタイのゲームを起動させようとしながら 「俺だって・・・  俺だって、いつかは・・・」      堪えきれない激情が溢れて絞り出すように慟哭するマサル。      〜おしまい〜