「ジェノサイド・オン・ザ・スタ−リーナイト」 中島清志 作        〔キャスト〕♀4人 ♂1人      ♀ アジ−タ (少女)      ♀ ティンバ (少女)      ♀ キルチェ (少女)      ♀ サビ−クル(老女)      ♂ 男    (不明)      音楽が流れる中開幕 。      濃いブル−のホリゾント明かりだけ。       5人がシルエットに浮かぶ。       みんな別々の方向を向いて座っている。       しばらく流れていた音楽が途切れると1人ずつ立ち上がっては語り始める。  ティンバ「19世紀は革命の世紀と呼ばれた。       多くの人々の血が流され、そして新しい国が出来上がった。」  キルチェ「20世紀は戦争の世紀。       二度の世界大戦。       核兵器が生まれ、ヒロシマとナガサキに投下された。」 サビ−クル「そして21世紀は、テロリズムと殺戮の世紀だった。       アメリカ同時多発テロで幕を開け、テロリストたちは執拗に大国を攻撃し、大国はそれに報復攻撃をもって応えた。       憎しみが憎しみを呼び、ついにテロリスト達を根絶するという名目で、1世紀ぶりに核兵器が投下された。」  アジ−タ「しかし、テロリスト達は根絶されなかった。       殺しても殺しても、それに倍する憎しみに燃えたテロリスト達が次々に生まれた。       彼らは次第に勢力を強め、ついには核を手に入れた。」     男「22世紀は破滅の世紀。       第3次、そして最後の世界大戦が勃発した。」      大音響の爆発音と共に、ホリゾントが真っ赤に変わる、      シルエットたちは皆死んで倒れる。      1人よろよろと立ち上がって  ティンバ「大量の核兵器が投下され、人類は滅亡した。       それから、気の遠くなるような長い長い年月が流れた。       空には何事もなかったかのように美しく星が輝いていた。」      ティンバ倒れる。      音楽が流れ ホリゾントは徐々に濃いブル−に変わり、満天に星が輝く。      音楽が途切れるとかまどの火が輝き始め ホリゾントは朝に変わる。      シルエットたちは皆起き上がり  キルチェ「遠い遠い未来。       世界でただ1人の女が、かつて戦乱に明け暮れた国の山奥で暮らしていた。」 サビ−クル「彼女が旧人類の生き残りなのかどうか、誰にもわからない。      そこへ世界でただ1人の男が遠い国から旅してやって来た。」      シルエットの男と女、出会って結ばれる。  アジ−タ「世界でただ1人の女が、ただ1人の男と出会った。」     男「そして、全ては、再び始まった。」      高原地帯の小さな村である。      初夏の夕暮れ時。      下手の大きな岩の上には、老女が座り祈りを捧げている。     「長老様」と呼ばれているサビ−クルである。      中央で崩れかかった土塀の前では少女がパンを焼いている。      ティンバである。      ティンバは火をおこすための吹き筒を吹く手を休めて  ティンバ「あ−あ、疲れた・・・」 サビ−クル「ティンバ。」  ティンバ「(姿勢を正して)も、申し訳ございません、長老様。」 サビ−クル「いいのですよ。       でも、アジ−タはもっと辛い水汲みに、朝から行かされている事を忘れてはなりません。」  ティンバ「長老様。       食べ物が、後少しになりました。」 サビ−クル「どのくらいもちそうですか?」  ティンバ「後3日・・・       たとえ、食べる物を半分にした所で1週間はもちません。」 サビ−クル「私たちはともかく、キルチェの食べる物は十分確保するのですよ。」  ティンバ「もちろんです。」 サビ−クル「暗くならないうちに、キルチェを呼んでおいで。」  ティンバ「はい。」      ティンバ上手に退場する。     「キルチェ−・・・・キルチェ−」と呼ぶ声がする。      間もなく、ティンバとまだ小さな少女(キルチェ)が手をつないで戻って来る。      キルチェは手に白い粗末な人形を持っている。      ティンバは「駄目って言ったでしょ」等といいながら歩いて来る。  ティンバ「全く、何回言ったらわかるんだろうね、この子は。」 サビ−クル「どうかしましたか。」      ティンバ、キルチェの手から人形を取り上げる。  キルチェ「ボナ−ラ!       返して、返してよ!」  ティンバ「ボナ−ラを外に持ち出しちゃいけないって、言ってるだろ。」  キルチェ「だって・・・」  ティンバ「ワジルダの兵隊さんに見つかったら、取り上げられるんだよ!       それからムチでいっぱいぶたれるんだよ!」  キルチェ「わかったから、返して!」  ティンバ「あんたのわかったはもう聞き飽きたよ。       こうしないとわかんないのか?」      ティンバが人形をかまどの火に投げ入れるふりをすると、キルチェは泣き始める。 サビ−クル「ティンバ。」  ティンバ「冗談です。」      キルチェ、サビ−クルの所へ走って行き、すがりつきながら泣く。 サビ−クル「はい、よしよし。」  キルチェ「ボナ−ラを・・・       殺さないで。」  ティンバ「殺すわけないじゃないか・・・       はい(キルチェに人形を返す)。」  キルチェ「ボナ−ラ・・・       熱くなかった?       ボナ−ラ。」 サビ−クル「キルチェ。       ボナ−ラをお外に連れ出してはいけませんよ。」  キルチェ「はい。       わかりました。」 サビ−クル「それでは、ボナ−ラをお家に返しておあげなさい。」  キルチェ「はい。」      キルチェ、ボナ−ラを抱いて土塀の中に入って行く。      中が家なのだ。 サビ−クル「かわいそうに。」  ティンバ「誰かに見られたら大変です。       やはり、取り上げた方が・・・」 サビ−クル「ティンバ。       本気で言っているのですか?」  ティンバ「・・・いいえ。       申し訳ありませんでした。」 サビ−クル「小さな子供でも・・・       いいえ、小さな子供だからこそ、人はパンのみにて生きるものではありません。」  ティンバ「どうしてワジルダ軍はこんなに厳しくなったのでしょうか?」 サビ−クル「カメリアとワジルダの争いのもとには、宗教的対立があるのです。       カメリアの影響力を恐れ、ワジルダは戒律で私たちタルグスクの民を縛ろうとしている・・・」  ティンバ「私たちと、ワジルダの神は違います!」 サビ−クル「その通りです。       ワジルダの神は偶像崇拝を禁じています。       神の像は破壊され、写真をとる事、絵を書く事、果ては子供が人形で遊ぶ事さえ、許されなくなったのです・・・」       戻って来たキルチェを、サビ−クルが手招きすると、白い大きな布を渡す。 サビ−クル「キルチェ。       今日から、お外ではこれがボナ−ラです。       大事にして、一緒に遊んであげるのですよ。」  キルチェ「(にっこり笑って)うん。       ボナ−ラ、あっちに遊びに行こう!」  ティンバ「駄目よ。       もう日が暮れるんだから。」 サビ−クル「それにしてもアジ−タは遅いねえ・・・」       向こうに行こうとしていたキルチェが、手を振って喜んでいる。  キルチェ「アジ−タだ!       アジ−タ−!」 サビ−クル「帰って来たかい?」      ティンバと同年代の少女(アジ−タ)が、倒れた男を引きずるようにして帰って来る。      ティンバ駆け寄って  ティンバ「アジ−タ!」  アジ−タ「森の入口にこの人が倒れていたの。」 サビ−クル「お水はどうしましたか?」  アジ−タ「置いて来ました。」 ティンバ「あたし、取って来る。       森の入口だね?」      アジ−タがうなずくと、ティンバ急いでその場から去って行く。      アジ−タは男をその場に寝かせる。  キルチェ「おじちゃん、死んでるの?」  アジ−タ「いいえ。       息はしてるわ。」 サビ−クル「どこかお怪我でも?」  アジ−タ「それが外傷はないようなのです・・・       恐らく飢えで衰弱されているのでは・・・」  キルチェ「死んじゃうの?・・・       嫌だ!」 サビ−クル「お水を飲ませてさしあげなさい。」      ちょうどそこへ、ティンバが容器に入った水を持って戻る。  ティンバ「大切な物を置いて来ちゃ駄目じゃんか。」  アジ−タ「でも、この方が・・・」  ティンバ「ほっときゃ良かったんだよ。」 サビ−クル「ティンバ!       人の命より大切な物がありますか。」  ティンバ「長老様。       お言葉ですが、この男、カメリア兵かも知れません。」  キルチェ「キャ−ッ!」      キルチェ、悲鳴を上げてサビ−クルの所へ行く。  アジ−タ「カメリア兵が、どうして・・・」  ティンバ「何者かわからないんだろう?」  アジ−タ「私たちタルグスクの同胞かも・・・」  ティンバ「髭を生やしてない男が、か?」  アジ−タ「確かに、カメリア人は髭を伸ばさないとか・・・」 サビ−クル「待ちなさい・・・       ワジルダの兵隊さんか、あるいは私たちの知らないお国の方かも知れないではありませんか。」  アジ−タ「とにかく、気付けにお水を・・・」      ティンバ、持っていた容器をしぶしぶアジ−タに渡す。      アジ−タはスプ−ンですくった水を、男の口に運ぶ。  ティンバ「カメリア兵だったらどうすんだよ。       もったいない。」 サビ−クル「カメリア兵でなかったら、どうするのです。」  ティンバ「私たちに、人を助ける余裕などありません。」 サビ−クル「そのようなお考え、神はおよろこびになりませんよ。」      アジ−タが水を飲ませると男は何やら呻いたが、すぐに又気を失ってしまう。  ティンバ「はいはい。       そいつはそこに寝かしといて、私たちは晩ご飯だよ。       もう暗くなって来たじゃんか。」 サビ−クル「そのように致しましょう。」  アジ−タ「あのう、私・・・       この方をみております。」  ティンバ「何言ってんだ。       男だよ。       男女同席は御法度だよ。」 サビ−クル「ご病気の場合は、神もお許しになりましょう・・・       アジ−タ、頼みましたよ。」  アジ−タ「はい。       ありがとうございます。」  ティンバ「長老様。       この男がカメリア兵だったら、どうするのですか。」 サビ−クル「アジ−タ。       出来るのですね?」  アジ−タ「はい。」 サビ−クル「カメリア人は、人ではありません。       もしもの事があれば私たちを呼ぶのですよ。」  アジ−タ「それにはおよびません。       わたくしが責任を取らせて頂きます。(懐からナイフを取り出して、男の心臓の上から刺す仕種を見せる)。」  ティンバ「当たり前だよ。       あたしはそんなのに巻き込まれるのはまっぴらだからね。」      ティンバ、かまどの上の食べ物を盆のような物に乗せる。  ティンバ「あんたの分だけ、置いとくよ。」  アジ−タ「ありがとう。」  キルチェ「おじちゃんに掛けてあげて。」      キルチェがサビ−クルにもらった白い布を伸ばすと、アジ−タは、それを男に掛ける。      3人がひざまづいて丁寧に頭を下げると、アジ−タも同様に返礼し、3人は土塀の向こうに入って行く。      辺りはあっと言う間に暗くなり、空には星が沢山見える。      1人で食事をしていたアジ−タが思いついたように水とパンを男の口に運ぶと、男は再び呻く。      アジ−タはナイフを構えて  アジ−タ「気がつきましたか?」     男「ここは・・・どこだ?」      アジ−タ、ナイフを収める  アジ−タ「ワジルダの兵隊さんですね。       良かった・・・」     男「なぜだ。」  アジ−タ「カメリア兵ならば、生かしておくわけにはいきません。」     男「そうか・・・       どうして、俺がワジルダ兵とわかったのだ?」  アジ−タ「カメリアの言葉は、わたくしたちタルグスクの言葉とは全く違います。」     男「・・・水をくれ。」      アジ−タが水をくんでスプ−ンで与える。     男「ありがとう。」  アジ−タ「わたくし、アジ−タと申します。       あなたのお名前は?」     男「俺は・・・       わからない・・・」  アジ−タ「無理しないで!」     男「俺は一体・・・」  アジ−タ「もう、眠って下さい。」      男が眠ってしまう。      アジ−タが男の服の中を探るとどこかから一葉の写真が  アジ−タ「女の人?」         男「(何やらわけのわからない呻き声)・・・       マ−ム・・・       アイワナゴ−ホ−ム。」  アジ−タ「マ−ム!?       その言葉は・・・」      それがカメリアの言葉だと気づいたアジ−タは、動揺して写真を取り落とす。      完全に暗くなりシルエットに浮かぶのは、アジ−タがナイフをふりかざして、男の胸に突き刺そうとする姿。     男「マ−ム!       ・・・アイワナゴ−ホ−ム!」      さっきより強く泣いているような男の言葉を聞いたアジ−タは、ナイフを捨てる。      再び何もしゃべらなくなった男のそばで、アジ−タは泣きながら神に祈るような態勢である。  アジ−タ「・・・ママ・・・」      アジ−タ、男の服に写真を返してやる。      その時土塀の中からサビ−クルが現れる。  アジ−タ「長老様。」 サビ−クル「その方のお具合は?」  アジ−タ「先程、お目覚めになりました。       言葉からして、ワジルダの兵隊様に間違いありません。」 サビ−クル「私は体の具合をお聞きしたのですよ。」  アジ−タ「申し訳ありません。       やはり、食べ物がなくて弱っておられただけかと・・・       水を飲ませると、落ちついてお休みになりました。」 サビ−クル「そうですか・・・       さあ、もう皆眠りました。       私が替わりますから、あなたもお休みなさい。」  アジ−タ「いえ、わたくしはまだ大丈夫です。」 サビ−クル「男女同席すべからず。       あなたはまだ結婚前の身ではありませんか。」  アジ−タ「わかりました・・・       長老様に神のご加護を。」      アジ−タ、サビ−クルにていねいにお祈りをしてから、土塀の中に入って行く。      サビ−クルは空の星を見上げて サビ−クル「今夜も、綺麗な星空だねえ。」      ホリゾントを残して暗転(シルエットが写る)。      朝が来た。      目覚めた男は、アジ−タに何か食べさせてもらって、かなり元気が出て来たようだ。  アジ−タ「本当に、何も覚えておられないのですか。」     男「・・・ああ。」  ティンバ「余分な食べ物はないんだけどなあ。」 サビ−クル「ティンバ。 言葉を慎みなさい。」     男「食べる物がないのか?」  ティンバ「援助物資を町まで取りに行かないと・・・」     男「俺が行って来てやるよ。」  ティンバ「え!?       ホントに?」 サビ−クル「何をおっしゃいます。       この方はご病気の身ではありませんか。」     男「情けないけど、腹が減って倒れてただけだ。       どこも悪いわけじゃない。」  アジ−タ「しかし、町はとても危険です。」  キルチェ「そうだよ・・・       ヒュルヒュルヒュル・・・       バ−ン!・・・       うっ!       やられたあっ!」      キルチェ、まるで遊びのように空爆で人が死ぬ様子をやっている。 サビ−クル「キルチェ。       お客様の前ですよ。」  キルチェ「ボナ−ラ!       ボナ−ラ、大丈夫だった?」      キルチェ、白い布を抱いて話しかけている。  ティンバ「キルチェ。       あっち行ってお姉ちゃんと遊ぼう。」  キルチェ「あっ!       カメリアだ!」  ティンバ「こら!」  キルチェ「じゃ、ティンバがカメリアで、キルチェがワジルダの兵隊さんだよ。」  ティンバ「はいはい。」      ティンバ、キルチェを抱っこして連れて行く。 サビ−クル「北の町への空爆は激しくなる一方です。       沢山の住民が、こうして山の中に避難して暮らしています。」  アジ−タ「しかし、食べる物は時々町に取りに行くしかありません。       ワジルダの方が、援助物資を配って下さるのです。」     男「そりゃ、ワジルダじゃねえよ。」  アジ−タ「え?       何とおっしゃいましたか?」     男「あ、いや・・・       まあ、俺の知らない事なんだろうな。」 サビ−クル「町を離れる事の出来ない方も大勢いらっしゃいますが・・・       私たちは、身寄り1つない、女子供の集まりですから。」     男「町までは遠いのかい?」  アジ−タ「女の足では、往復に2日はかかります。」     男「よくこんな所で暮らそうなんて思ったもんだな。」 サビ−クル「もちろん、私たちも出来れば町で暮らしたいのです。」  アジ−タ「けれど町はもう、まともな人間の暮らせる場所ではありません。」     男「そんなに空爆がひどいのか?」  アジ−タ「空爆だけではありません。       町には、兵隊さんがいっぱい・・・」 サビ−クル「アジ−タ!」     男「なるほどな。       まあ、俺は軍人だから・・・」  アジ−タ「行って下さるのですね。」     男「もう少し回復したらな。」      ティンバとキルチェ、戻って来る。  キルチェ「お馬さんが、いた。」     男「何だって?」  ティンバ「あなたの馬ではないのですか?」  キルチェ「真っ白いお馬さん。」     男「そうか・・・       はぐれちまって、もう死んだとばかり思ってた。」  ティンバ「やせこけて、あんまり元気がなかったよ。」     男「よし。       じゃあ町まで一緒に行かせてくれ。」  ティンバ「あの弱りようじゃ、無理なんじゃないかな。」  キルチェ「キルチェが元気にしてあげる。」     男「じゃあ、その馬はお嬢ちゃんにあげるよ。」  キルチェ「やったあ!・・・       ねえねえ、ボナ−ラって名前にしてもいい?」  ティンバ「又、ボナ−ラかい?」  サビ−クル「馬のような財産を頂いては申し訳ありませんよ。」  ティンバ「だって、おじちゃんがくれるって言ったもん。」  アジ−タ「本当によろしいのですか?」     男「ああ・・・       どうせ、ロクに餌も食ってないからもうあまり役に立たんだろう。」  キルチェ「ボナ−ラと遊んで来る!」     男「お嬢ちゃん。」  キルチェ「キルチェだよ。」     男「キルチェちゃん。       ボナ−ラを可愛がっておくれよ。」  キルチェ「うん。       いっぱいいっぱい可愛がってあげる。」     男「それからさ、俺はおじちゃんじゃないよ。」  キルチェ「わかった。       お兄ちゃん。」      キルチェ、場を去る。     男「ボナ−ラか・・・」 サビ−クル「あの子の、妹の名前です。」     男「妹?」 サビ−クル「もうこの世にはおりません。       ここへ一緒に移り住んで来たのですが、妹の方はすぐに亡くなってしまいました。       栄養失調で・・・」  アジ−タ「長老様。       失礼ですが、お客様には不愉快なお話ではないかと・・・」     男「小さな子供は、食べ物がないとすぐこたえるだろう。」  ティンバ「だから、あたしらは食べなくてもキルチェには食べさせるようにしてるんだ。」     男「そうと聞いたら、ぐずぐずしてられないな。」      男、立ち上がる。  アジ−タ「まだ、無理です!」     男「軍人の体力を馬鹿にするんじゃないよ。」      男、少しふらつく。      アジ−タ、駆け寄って支える。 サビ−クル「もう少し休んでからになさいな。」     男「すまない・・・       町の方向を教えてくれ。」  アジ−タ「どうしても、今出発されるのですね。」  ティンバ「おいおい、アジ−タ。」      アジ−タ、はっとして男を支えていた手を離す。 サビ−クル「私たちタルグスクの女は、結婚するまで男性との接触は極力避けるように、神に教えを受けております。」  アジ−タ「本来なら、顔も隠し、親戚以外の男性と話をする事も禁じられております。」 サビ−クル「このような山中では、そこまで厳格には出来ませんが・・・       神はご寛容でいらっしゃいますから。」     男「なるほど。       それでアジ−タちゃんは赤くなってるわけだな。」  アジ−タ「(顔を背けて)な、何をおっしゃいますか!」      アジ−タ、男に顔を向けずに、ある方角を指し示している。  ティンバ「その方向が町だよ。       道は一本しかないから間違えようがない。」     男「よし。       何となく力が出て来たよ。       俺って生まれてこの方、女の子には縁がなかったからな・・・」      男、出て行く。      女たち何となくホッとした様子。  アジ−タ「一体、何なのでしょう、あの男は。」  ティンバ「あんたに気があるんじゃないのかい。」  アジ−タ「冗談ではありません。」 サビ−クル「まあ良いではありませんか。」  ティンバ「長老様。       あの男は本当に食料を持って戻って来るでしょうか?」 サビ−クル「人を疑うのは、神の子供のする事ではありません。」  ティンバ「しかし、何者であるかさえわからないのに。」 サビ−クル「待つのです。       ただ祈って待ちましょう。」       3人、男の出て行った方向に向かって祈っている。       キルチェが戻って来る。  キルチェ「ねえ、お兄ちゃんが森の方へ行っちゃったよ。」  アジ−タ「何か、言ってなかった?」  キルチェ「ううん。黙って、私の方を見て笑ってた。       それで、バイバイってやったら、ずっと森の方へ・・・」  アジ−タ「元気そうだった?」  キルチェ「わかんない・・・       でも、時々座って休んでた。」      女たち、顔を見合わせる。  ティンバ「こりゃますます不安だね。」 サビ−クル「2日だけ待ちましょう。」  ティンバ「ま、馬を置いてったから、良しとするか。」  アジ−タ「ティンバ・・・」  ティンバ「あたしゃ始めからあの男なんか信用しちゃいないよ。       どっちかと言うと、あのままもう帰って来ない方に賭けたいくらいだね。」  アジ−タ「人を疑うなんて・・・」  ティンバ「アジ−タ。       あんたよっぽど、いいお家で育ったんだろうね。       あたしはね、小っちゃい頃から、人なんか信じるな、って教わって来たんだよ。」 サビ−クル「誰に教わったのですか?」  ティンバ「もちろん、口じゃみんな人を信用しなさい、って言ってたよ。       だけど、みんなやる事は違うんだ。       お父ちゃんは、すぐに帰って来れますって兵隊さんに連れて行かれたけど・・・」 サビ−クル「わかりました。       もうおやめなさい。」  ティンバ「お母ちゃんだってさ・・・」  アジ−タ「あんただけじゃないよ。」  ティンバ「嘘ついてなぐさめようたって、御免だよ。」  アジ−タ「嘘じゃないよ!       私だって帰る家がないんだ。       お父さんも、お母さんも・・・」  キルチェ「パパ・・・       ママ・・・(泣き始める)」 サビ−クル「いいですか。       ティンバもアジ−タもキルチェも、みんな、このタルグスクの神様の子供ですよ。       どんな事があっても、神様だけはいつも見守って下さっているのですよ。」      少女たちは、みんな泣いている。      時がたった。      飛行機が低空を飛んでいる音が聞こえる。      アジ−タとティンバが身をかがめて、キルチェを呼んでいる。  アジ−タ「キルチェ! キルチェ−ッ!」  ティンバ「キルチェ−ッ!」      少し離れた所から爆発音とキルチェの悲鳴が聞こえる。      アジ−タ、音の方向へ向かおうとするがティンバが必死になって止める。  アジ−タ「キルチェ−ッ!」  ティンバ「アジ−タ!       駄目だ!       そっちは危険だよ!」  アジ−タ「キルチェ!       キルチェ−ッ!」  ティンバ「人間、死ぬときゃ死ぬんだよ。       あんたまで死に急いでどうしようってんだ。」      キルチェが激しく泣きながら走ってやって来る。      アジ−タとティンバはキルチェを見てホッとしてへたり込む。      走り込んで来たキルチェをアジ−タ抱き止める。  アジ−タ「キルチェ・・・       良かった・・・       良かったよ。」  ティンバ「この大馬鹿たれが!(キルチェを叩く)」      サビ−クルが土塀の中から現れる。 サビ−クル「まあまあ、一体何の騒ぎでしょう。」  アジ−タ「長老様。」  ティンバ「カメリアの飛行機が・・・」 サビ−クル「大方、北の町へ行ったのでしょう。」  アジ−タ「カメリア兵の顔が見えるくらい、低く飛んでおりました。」 サビ−クル「安心なさい。」  ティンバ「怖いよ・・・       安心なんか出来っこないじゃんか!」 サビ−クル「あなたたちがうろたえてどうするのですか!」  アジ−タ「申し訳ございません。」  ティンバ「だけど・・・」 サビ−クル「ティンバ!       あなたも、もう大人になったのでしょう?」  ティンバ「はい・・・」      男が現れる。     男「はっはっはっはっ。」 サビ−クル「何がおかしいのですか。」     男「長老様のおっしゃる通りだ。       カメリアがこんな所を空爆なんかするわけがない。」 サビ−クル「そうです。       この村には何もない。       男たちはみんな兵隊さんになって北へ行った。       後に残されたのは、町を逃れて来た女子供と、荒れ果てた畑だけ・・・」  アジ−タ「ではなぜあのような低い所を飛ぶのですか。」     男「カメリアだって、こんな山の中のド田舎の地図なんか持っちゃいないさ。       だから下を見て確認しながら、北に飛んで行くんだろうよ。」  ティンバ「じゃあ、さっきの大きな音は?」     男「ん?       音だって?」      泣き止んでいたキルチェが再び泣き始める。  アジ−タ「キルチェ・・・       何があったの?」  キルチェ「ボナ−ラと遊んでたら、バ−ン!って大きな音がして・・・       ボナ−ラは・・・」     男「そりゃあ、地雷だな。」  アジ−タ「何ですって!」  ティンバ「キルチェ!       あんた、行っちゃいけない木の向こうに行ったのかい?」  キルチェ「だって・・・       ボナ−ラが・・・」  ティンバ「本当に、大馬鹿もんだよ、あんたは!(キルチェを叩く)」     男「馬ですんだんなら、良しとするんだな。」  アジ−タ「キルチェ・・・       けがはないのね?・・・       良かった(キルチェを抱き締める)」  キルチェ「でも・・・       ボナ−ラは・・・」 サビ−クル「神様のおぼしめしですよ。」     男「そうだ。       この国には、あっちこっちに地雷やら不発弾が埋まってる。       カメリアもワジルダも、手辺り次第に地雷を仕掛けやがったからな。」  アジ−タ「しかし・・・       停戦合意の時、地雷はほとんど処理されたのでは?」     男「ああ。       埋めた場所がわかるやつはな。       だけど沢山埋めたまま死んじまった馬鹿者がいっぱいいるのさ。」 サビ−クル「私の主人はね、地雷で命を落としたのですよ。」      間。      キルチェの泣き声だけが響いているが、そのうち泣き疲れたキルチェはサビ−クルにすがって眠り始める。 サビ−クル「あの人は、爆発した瞬間私を守ろうとして突き飛ばして下さいました。       そして自分は、爆発をまともに受けて・・・」  ティンバ「嫌だよ・・・       そんな話、もう聞きたかねえよ!」  アジ−タ「ティンバ!」      ティンバ、耳を塞いでその場を離れる。 サビ−クル「あの子のご両親は戦争でお亡くなりになったと聞きます。       そしてたった1人の身内だった弟は、去年、地雷で・・・       これも、神のおぼしめしです。」     男「そうだったのか・・・       ちょっとなぐさめにでも行って来るかな。」 サビ−クル「なりませぬ!」     男「もうあの子も女になってるそうじゃないか。」  アジ−タ「あなたには・・・       デリカシ−という物がないのですか!」     男「そんな物ねえよ・・・       頭の上をカメリアの爆撃機が飛んで行ってるってえのに、デリカシ−なんか持ってられるわけがないだろう。」 サビ−クル「あなたが、この国の、タルグスクの男であったならば、先程のお言葉、到底許す事は出来ませんよ。」     男「若い男と女が一緒に住んでるんだぜ。       少しくらい仲良くする事があったっていいだろうに。」 サビ−クル「あなたは、この子たちを娶ろうとでも言うのですか。」  アジ−タ「何をおっしゃるのですか、長老様!」     男「そんな事が出来たら悩みゃしないさ・・・       教えてくれよ、一体俺は何者なんだ?」      男、場を去ろうとする。 サビ−クル「ティンバの所に行くような事があれば、いくらあなたでも容赦はしませんよ。」     男「さっきのは冗談だよ。       それに俺は、アジ−タちゃんの方が好みだからな。」      男、アジ−タに何かサインを送りながら去って行く。  アジ−タ「な、何という無礼な!・・・」 サビ−クル「若い男とは、あのようなものですよ。」  アジ−タ「私の存じあげている男性の中に、あのように罰当たりな方はおりませんでした。」 サビ−クル「私たちタルグスクの民とは違うのですよ。」  アジ−タ「あの方はいつまでここにいらっしゃるおつもりなのでしょう?」 サビ−クル「もう半年にもなりますか・・・       とにかく、あの方の記憶が戻らぬ以上、むげに追い払うわけにもいきますまい。」  アジ−タ「それはわかります。       しかし・・・」 サビ−クル「それにあの方のおかげで私たちは大いに助かっているではありませんか。」      男、ティンバと連れ立って戻って来る。      アジ−タはティンバの元に駆け寄る。     男「そうだろう、アジ−タちゃん。」  アジ−タ「ティンバ!・・・       (男をにらんで)全くあなたという方は・・・」     男「おい待ってくれ。       俺は何もしてねえぞ。」  ティンバ「そうよ、アジ−タ。       私の方からこの人の所へお話に行ったの。」 サビ−クル「ティンバ!       このタルグスクの掟を知らぬとは言わせませんよ。」     男「未婚の男と女が、1対1で席を同じくしてはいけない、って言うんだろ?」  ティンバ「寂しかったんだよ。       ちょっと話してみただけだよ。」 サビ−クル「神様はそのような事をおよろこびにはなりません。」     男「頭の固い神様なんだな、タルグスクの神様ってえのは。」  アジ−タ「それ以上暴言なされるようなら、許してはおけませんよ。」     男「なあ、俺は現実主義者なんだよ。       たぶん、ワジルダのな。」 サビ−クル「おそらくそうでありましょう。」     男「俺が井戸を掘ってやったんだぜ。」  アジ−タ「倒れていたあなたを見つけて、看病してさしあげたのはこのわたくしです。」     男「わかってるよ。       もちろんあんたらが俺の命の恩人さ。       だから、俺はあんたらのために出来る事は何でもしてやっただろう。」  ティンバ「この人のおかげで、1日かけて水くみに行かなくてもよくなった。」     男「新しい作物の作り方や、薬になる植物の事も教えてやった。       食べる事の出来る動物を狩って来たり、もちろん町まで援助物資を取りに行く事も・・・」 サビ−クル「その通りです。       あなたは、私たちのために沢山の良い事をして下さいました。」     男「少しは、感謝してもらってもいいと思うんだけどな。」 サビ−クル「タルグスクの神は謙虚さを尊ぶのです。あなたのように自分の事を吹聴なされるのは・・・」     男「神様がよろこばねえってか。」  アジ−タ「お黙りなさい!」     男「わかったよ。」  ティンバ「ねえ、長老様もアジ−タも固過ぎるよ。」 サビ−クル「神様を冒涜しては、このタルグスクの地で生きていけませんよ。」  ティンバ「(小声で)反対だろうが。」  アジ−タ「ティンバ!       それが長老様に向かって言う言葉なの?」  ティンバ「あたしはひっでえ貧乏の出だからさ、言葉が汚いんだよ・・・       神様のおぼしめしってやつを、あたしはもう聞き飽きたのさ。」     男「彼女が一番現実的だな。」  ティンバ「そうさ。       この人があたしらに現実って事を教えてくれた。       もしも神様のおぼしめし通り、井戸も掘らず、今までと同じ作物しか植えないで、動物もとって食べなかったら、どうなってる?       今頃あたしら飢え死にしてるよ。」 サビ−クル「もしもの話をするのはおやめなさい。」  ティンバ「お父ちゃんもお母ちゃんも、神様の戦いってんで死んだんだよ・・・       それで、弟が地雷踏んづけて死んじゃったのも、あれも神様のおぼしめしってのかよ!」      ティンバ、泣いている。  アジ−タ「ティンバ・・・       もういいよ。」 サビ−クル「どんな事があっても、あなたはタルグスクの神の子なのですよ。」  ティンバ「ごめんなさい、長老様。       私が言った事をお許し下さい。」     男「あ−あ。       俺はもう寝るぜ。」      男、かまどの上の食べ物を無造作に取ると、土塀の中に入って行く。      あたりはもう暗い。  アジ−タ「長老様。       わたくしたちも休みましょう。」 サビ−クル「私は、もう少しここで星を見ております。       食べ物も全部持ってお行きなさい。」  ティンバ「それでは失礼致します。」 サビ−クル「この子をお願いね。」      アジ−タ、寝ているキルチェを背負ってやる。      ティンバは盆の上にかまどの上の食べ物をのせると、丁寧に礼をして土塀の中に入って行く。      サビ−クルは、座って空を見上げている。      次第に夜が深まり、空には沢山の星が輝いている。      そこへ男が戻って来て、隣に座る。     男「男女同席でも構わないだろう?」 サビ−クル「あなたが判断なさい。」     男「長老様はもう、女と考えなくてもいいよな。」 サビ−クル「あなたは本当に無礼なお方ですわね。」     男「ワジルダは男尊女卑の国らしいからな。」 サビ−クル「男というものは、外でいくら威張っていても、女たちには優しくするものです。 時には命を掛けてでも女を守る。それが本当の男尊女卑ですよ。」     男「俺もそうしているつもりだが。」 サビ−クル「まあいいでしょう・・・       それよりどうしましたか、こんな夜中に。」     男「眠れないんだよ。       長老様こそ、こんな夜中に風邪ひくぜ。」 サビ−クル「人間長くやっていると、眠る時間は少なくて良いのですよ。       無理に眠ったところで夜中に目が覚めるだけですから。」     男「そんな風にはなりたくないな。」 サビ−クル「これも神様のおぼしめしです・・・       ところで、何か私に御用でも?」     男「ああ。       馬の事だけどな。」 サビ−クル「馬?」     男「地雷で死んじまったんだろう?」 サビ−クル「ボナ−ラの事ですか?       明日、土に埋めてやらねばなりますまい。」     男「あれ、食っちまうわけにはいかないかな?」 サビ−クル「・・・キルチェがどう思いますか・・・」     男「だから、相談してるのさ。」 サビ−クル「何て、恐ろしい事を・・・」     男「タルグスクは、馬を食っても平気なんだろう?」 サビ−クル「・・・そんな事を、よくご存じですわね。」     男「知ってるさ。       馬を食っちゃいけないのはワジルダの宗教だ。」 サビ−クル「あなたは、平気なのですか?」     男「・・・だから言っただろう。       俺は現実主義者なのさ。」 サビ−クル「ワジルダの方が、馬を食するなど信じられません。」     男「信仰ってのは、守ってるやつもいるけど、俺みたいに柔軟なのもいるんだよ。」 サビ−クル「そもそもワジルダとカメリアのいがみ合いは、宗教が一番の原因ではありませんか。       ワジルダでは、馬を食するカメリアの民を、野蛮人と忌み嫌っている筈です。」     男「馬鹿な話さ・・・       ワジルダを恐れて、あんたらタルグスクの人間も馬を食べないようにしている。       しかし、それは北だけの話だ。       南の町に行ってみろ、馬肉料理の店が沢山並んでるぜ。」 サビ−クル「カメリア兵が駐屯しているからでしょう。       カメリアは・・・       本当に恐ろしい、人の生き血まで吸って生きている人たちの国です。」     男「カメリア人だって人まで食いやしないさ。」 サビ−クル「言葉の綾です。」     男「今俺は馬の話をしてるんだよ・・・       いいかい、あんたらタルグスクの人間は馬を食べても平気な筈だ。       何しろ、昔は肉と言えば馬肉だった位だからな。」 サビ−クル「そのような恐ろしい話はなさらないで下さい・・・       誰かに聞かれたら・・・」     男「こんな山中にワジルダのスパイがいるわけねえだろう。」 サビ−クル「あなたがスパイかも知れません。」     男「・・・へえ。       世話になった人間にそんな疑いをかけるのも、タルグスクの神様のおぼしめしってやつなんだな。」 サビ−クル「本当にごめんなさい・・・       でも、察しては頂けませんか?」     男「何を?」 サビ−クル「馬を食べた事を密告されて、ワジルダに処刑された者が何人も・・・」     男「へえ、驚いたな。       カメリアがこの国をボロボロにしたのは知ってたが、ワジルダもそんなひどい事を・・・」 サビ−クル「カメリア軍の侵攻を恐れての事です。       ワジルダも神経質になっているのです。」     男「やっぱりこの辺りじゃワジルダの肩を持つんだな。」 サビ−クル「カメリアは残虐非道な悪魔の国です。       ワジルダの力を借りなくては、タルグスクは悪魔に支配されてしまう・・・」     男「そいつは思い過ごしじゃないのか?」 サビ−クル「あなたはカメリアの恐ろしさをわかっておられないのです。       カメリアに襲われた町では、男たちは全員処刑され、女たちは・・・       このような非道が許される筈がありません!」     男「・・・それは当たらずと言えども遠からずだろうな。       戦争とはそういうものだ・・・       しかし、俺に言わせれば、カメリアもワジルダも同じ穴のムジナだな。」      飛行機が低空を飛んで行く音 サビ−クル「又、カメリアの爆撃機です。       この所、ずいぶんと多い。」     男「この辺りの制空権は完全にカメリアが握っているようだな。       冬に入る前に、徹底して空爆で北部を叩くつもりかも知れない。」 サビ−クル「このまま、カメリア軍が進んで来るようでは・・・       何としてもワジルダに踏ん張ってもらわなければ・・・」     男「ワジルダがあんたらを守ってくれてるとでも思うのかい?」 サビ−クル「一体あなたは何をおっしゃりたいのですか。」     男「ワジルダだって、別にタルグスクを守ってやろうなんて思っちゃいないさ。       ただカメリアの侵攻が、自分たちの領土に及んで来るのを恐れているだけだ。」 サビ−クル「ですから、それで結果的に私たちを守って下さっているのでは・・・」     男「馬鹿言っちゃいけない。       ワジルダもカメリアも、自分たちは血を流さず、このタルグスクの人間同士を戦わせているんだよ。       言ってみれば代理戦争だな。」 サビ−クル「そんな・・・」     男「そんな事も知らなかったのか?       あの子たちの親が、戦争に行って誰と戦ってると思うんだ。       カメリアなんかじゃない。       同じ国の兵士たちと殺し合ってるんだよ。」 サビ−クル「そのような噂にまどわされるわけにはいきません。」     男「信じたくない気持ちはわかるけどさ・・・」      又、一機、飛行機が低空を飛んで行く音 サビ−クル「あの飛行機に乗っているのはカメリア兵ではないと言うのですか。」     男「飛行機に乗ってるのはカメリア兵さ。       絶対、安全なんだもんな。」 サビ−クル「どういう事ですか?」     男「爆撃機に乗って、全く無抵抗のタルグスクの町を空爆するだけだ。       山にピクニックに行くより安全さ。       でも、地上軍はそうはいかない。       こんな山奥に立てこもったゲリラみたいな連中と戦うのは、命がけだ。」 サビ−クル「戦争とは命がけの行為でしょう。」     男「連中に聞かせてやりたい言葉だな。       違うんだよ、カメリアはタルグスクの人間をやとって前線に立たせてる。       ワジルダは悪魔の宗教の国だと宣伝してな。       一方で、北の方じゃワジルダが同じやり口でタルグスクの人間を徴兵している・・・       命をかけて殺し合ってるのは、あんたらタルグスクの人間同士なんだよ。」 サビ−クル「そのようなデマは、聞きたくもありません。」     男「俺は真実をしゃべってるんだ。」 サビ−クル「あなたは一体何者なのですか?」     男「わからないと言ってるだろう。」 サビ−クル「そんな人間の言う事、信用出来る筈がないではありませんか。」     男「わかったよ。       そんな事はどうでもいい・・・       今は馬を食べる相談をしたいんだ。」 サビ−クル「駄目だと言ったら?」     男「なあ、頼むよ・・・       俺は、キルチェのために、長老様に決断してもらいたいんだ。」 サビ−クル「キルチェのため?」     男「そうだ。       長老様の目が節穴じゃなければ、わかってるだろう?       キルチェは完全に栄養失調だ。       あれじゃ、この冬は絶対越せない。       いや、この1か月もつかどうかさえ怪しいもんだ。」 サビ−クル「なぜ、あなたが、そんな心配を?」     男「なあ、この通り頼むからさあ。(その場にひれ伏して土下座している)」 サビ−クル「顔をお上げなさい。」     男「冬になれば食料も満足に調達出来ない。       俺は、あの子がこのまま死んで行くのを見るのは忍びないんだよ!」 サビ−クル「空を見上げてごらんなさい。」      2人、しばらく星空を見上げている。 サビ−クル「どう思いますか?」     男「・・・美しい。」 サビ−クル「タルグスクは山と野原しかない国です。       貧しくて誇れる物は何もない・・・       たった1つこの素晴らしい星空の美しさだけが、私たちの誇りなのです。」     男「空には、こんなに沢山の星があったのか・・・」 サビ−クル「町は壊され、田畑は荒れ果てても、いつでも空を見上げればこの満天の星空が私たちを見守って下さっているのです       ・・・しかし、この美しい星空の下で、今日も空爆が繰り返されています。       一体、人間はどこまでおろかになれる生き物なのでしょうか?」     男「俺は・・・       俺は・・・」 サビ−クル「泣いているのですね・・・       あなたが、純粋な気持ちを持ったお方である事がよくわかりました。」     男「・・・あの子を死なせたくないんだ!       お願いします!       だましてでも、キルチェにボナ−ラの肉を食わせてやってくれ・・・」 サビ−クル「わかりました・・・       さあ、もう顔を上げて。       今度は私から、あなたにお願いがございます。」     男「何なりと言ってくれ。」 サビ−クル「あなたは心の美しい、素晴らしい男性です。       どうでしょう?女の子たちの1人を娶ってもらえませんか?       あの子も、あなたに思いを寄せておるのです。」     男「・・・ティンバですか?」      サビ−クル、軽く笑う。     男「何がおかしいのです。」 サビ−クル「あなたが、これまで女の子と縁がなかったわけがわかりました。」     男「長老様ともあろうお方が、そんな軽口を・・・」 サビ−クル「ティンバはまだ子供ですよ。       もう一人の方。」     男「・・・悪い冗談でしょう。       信じられません。」 サビ−クル「あなたは、何と鈍感なお方なのでしょう。」     男「それに、俺はどこの何者かもわからない人間ですよ。       ど、どうやって嫁を貰うなんて事が・・・」 サビ−クル「いつまでお芝居を続けるおつもり?」     男「・・・変な勘繰りはやめてくれませんか。       俺は、本当に自分が何者かまだ記憶が戻らないのです・・・」      再び、飛行機が低空飛行する音。      アジ−タが土塀の中から出て来る。  アジ−タ「どうして、おふたりが?・・・       こんな夜中に。」 サビ−クル「あなたこそ、どうしましたか。」  アジ−タ「飛行機の音が何度も・・・       ここは無事だと思っても、とても安心して眠ってはおれません。」      今度はティンバが出て来る  ティンバ「どうしたんだい、みんな・・・       騒々しいよ。」  アジ−タ「ティンバ、あなたも?」  ティンバ「ああ・・・       飛行機の音が聞こえるたびに目が覚めちゃって。」      又しても、飛行機が低空飛行する音。  ティンバ「おかしいよ、これ・・・       絶対おかしい!」      アジ−タ、向こうの方を指さして  アジ−タ「何か・・・       落ちて来た。」     男「伏せろ!!」      みんな慌てて身を伏せるが何も起こらない。      4人はこわごわと頭を上げる。     男「爆弾ではなかったみたいだな。」  ティンバ「怖い・・・」 サビ−クル「落ちた後燃焼する爆弾もあると聞きます。」     男「それならとっくに燃え始めてるはずさ。」  アジ−タ「とにかく、家の中に入りましょう。」     男「そうだな・・・       朝になってから調べに行ってみよう。」      キルチェが寝ぼけた様子で、出て来ると、男の方へやって来る。      いつの間にかすっかりなついているようだ。  キルチェ「お兄ちゃ−ん。」     男「キルチェ。(抱いてやる)       大丈夫だよ。       何でもないんだ。       お兄ちゃんたちは、お星様がとっても綺麗だから、みんなで見てたのさ。」  キルチェ「キルチェも見る−。」     男「そうかい。       少しだけだよ。」      みんな一緒に星空を見上げている。      朝になった。      みんなが、落下物を調べに行った男を待っている。      男は大きな箱と紙のチラシのような物を手に持っている。     男「誰か、これを読んでくれ。」      アジ−タ、チラシを受け取ると、読み始める。  アジ−タ「タルグスクの皆さん。       これは私たちからのプレゼントです。       箱の中には食べ物が入っています。」  ティンバ「ホントかよ・・・       ホントなら、神様からのプレゼントだぜ。」  アジ−タ「まだ先が書いてあるわ。」  ティンバ「一体、誰からだ?」  アジ−タ「私たちは・・・       カメリア軍です。」  ティンバ「どういう事なんだ?」 サビ−クル「箱から離れなさい。」      男以外、箱と反対の方へ離れて行く。     男「おい、大丈夫だよ。       俺がここまで運んで来たんだからさ。」 サビ−クル「カメリアの名が出た以上、寸分たりとも油断はなりません。」     男「まだ続きがあるんだろう?       最後まで続けて読んでくれ。」  アジ−タ「私たちは、町を、完全に、占領、しました。       山に逃れて、抵抗しても、無駄です。       心ある、タルグスクの皆さん、白旗を上げて、見せて下さい。       私たちは、皆さんを 助けて、おいしい食べ物と、暖かい住む所を、あげます。」  ティンバ「捕虜になれって事か?       それとも、何かの罠か?」  アジ−タ「まだ先があるわ・・・       これを見たら、今日のうちに、白旗を上げて下さい。       今日の夜から、私たちは、この山を・・・       空爆で焼き払います。       カメリア。」  ティンバ「何だよ、そりゃ。       わけがわかんねえよ。」 サビ−クル「どうして空爆の前に、食料などを・・・」     男「一般人を傷付けるつもりはないというメッセ−ジのつもりだろう。」  アジ−タ「私たちは一体、どうすれば・・・」     男「こいつらの言う通りにするしかない。       ちょうど、白い布もそこにある。」      男が、大きな岩にかけてある白い布を指さすと、キルチェが走り寄って来て  キルチェ「ボナ−ラ!(布をとってたたむと、抱きかかえる)」 サビ−クル「カメリアの捕虜になる事など、考えられません。」     男「こんな所で空爆にあったら一巻の終わりだぜ。」 サビ−クル「山では空爆の効果がないと聞いた事があります。」     男「馬鹿言え。       それは姿を隠せる洞穴なんかがある所だ。       山と言っても、こんな平らな高原地帯なんかでは、あっと言う間に森が焼かれて悲惨な事になるぞ。」  ティンバ「あたし・・・       怖いよ!」 サビ−クル「カメリアに捕まれば、もっと怖い事が待っています。」  ティンバ「でも・・・       食べ物も、住む所も、くれるって・・・」 サビ−クル「女として、とても耐えられぬ事が待っているかも知れませんよ。」     男「待てよ・・・       死ぬ事以上に、耐えられない事があるわけないだろう。」 サビ−クル「いいえ。       時には死ぬ方がましな事も、この世の中には存在いたします。」  ティンバ「あたし、死ぬのは嫌だ!」     男「そうだ。       死んじまったらおしまいだ。       それが現実ってもんだよ。」 サビ−クル「アジ−タ。       あなたは?」  アジ−タ「わたくしは・・・       長老様にお従い致します。」     男「生きたまま焼かれる方がいいって言うのか?」  ティンバ「キルチェ!」      いつの間にか無邪気に箱の方にやって来ていたキルチェは、箱のふたを開けている。  キルチェ「あっ!       クッキ−。」  ティンバ「やめな!」      一番始めに気付いたティンバが慌ててキルチェを制している。  キルチェ「おいしそうなクッキ−だよ。」 サビ−クル「カメリアのやる事です・・・       毒が入っていないとも限りません。」     男「長老様。       あなたは、いつも人を疑ってはいけないとおっしゃっておられますが。」 サビ−クル「カメリア人は・・・       人ではありません。」     男「・・・カメリア人だって、人ですよ。」 サビ−クル「あなたはどうして、カメリアを擁護するのですか!」  アジ−タ「やめて!」 サビ−クル「アジ−タ。       あなた、もしかして・・・」  キルチェ「ねえ、お腹すいたよう・・・       クッキ−食べてもいいでしょ?」  ティンバ「駄目だったら!」      キルチェ、泣き出す。  ティンバ「あたしが毒見してやるよ。」     男「いや、俺がやる。       何だかきな臭いものを感じるんだ。」  ティンバ「いいよ・・・       長老様。       あたしは死ぬのは嫌です。       だから、カメリアの言う事を、おいしい食事と、暖かい住む所を、信じてみます。」 サビ−クル「あなたも、カメリアの恐ろしさがわからないのですね。       私の主人も、子供たちも、みんな、カメリアの手によって殺された・・・」  ティンバ「わかってらあ・・・       あたしのお父ちゃんも、お母ちゃんも、カメリアと戦って死んだんだからさ・・・」 サビ−クル「では、なぜ?」  ティンバ「死ぬ前にもう一度だけ、人を信じてみようって思ったんだ。       カメリア人だって、人って字を書くんだろう?」      ティンバ、箱の一番上にあったクッキ−を取って一口食べるが、とたんにひどく苦しみ始めて  ティンバ「やっぱ・・・       人なんか・・・       信じちゃ・・・(事切れる)」  キルチェ「キャ−ッ!」 サビ−クル「キルチェ!」      サビ−クル、キルチェを箱のそばから引き離す。      ティンバの死体のそばに、男は呆然と立ち尽くしている。 サビ−クル「わかってたんだよ・・・       この悪魔!」     男「これは・・・       これは・・・       きっとワジルダの陰謀だ!」 サビ−クル「出てお行き!       殺されたくなかったら、さっさとここを出て行くんだよ。(ナイフを出して構えている)。」     男「俺にはもう、行く所はないんだ・・・」      男、箱からクッキ−をいくつか取り出す。     男「こいつには、たっぷり毒が盛ってあるようだな。」 サビ−クル「なかなか、いい心掛けだね。」 アジ−タ「待って!・・・       お願い、教えて。       あなたは、なぜ私たちを助けてくれたの?」     男「聞いてくれるのですか?」      間     男「俺は・・・       カメリア軍特殊部隊戦闘員。       山岳ゲリラ戦の専門部隊でした・・・       俺はあんたらと同じです。       父親をワジルダとの戦争で亡くしました。       ワジルダは悪魔の国だ。       父親を殺したワジルダのやつらを殺してやるんだと、志願して軍に入ったんです。       女手1つで俺を育ててくれた母親も、喜んで俺を戦争に送り出してくれました・・・       でも、これは俺だけじゃない。       カメリアでは、誰も彼もが、ワジルダをやっつけるのは正義の戦いだと思っています。       なぜなら、沢山の罪もないカメリア人が、ワジルダに殺された。       そう信じているからです。」 サビ−クル「正義の戦いなどというものを、あなたは信じているのですか。」     男「はい・・・       少なくとも信じておりました。       でなければ、母を置いて危険な戦場などへ来る事はなかったでしょう。」  アジ−タ「お母さん?」     男「そうです。       俺は母に誓って、この戦争にやって来たのです。       それも一番前線のゲリラ戦部隊で・・・       俺はこの手で、父親の仇であり、カメリアの敵である、ワジルダの悪魔をぶっ殺してやるんだ・・・       そう母に誓って来たのです。」 サビ−クル「父の仇を殺して、スッキリしましたか?」     男「いいえ・・・       俺はこの手で、沢山の人間を殺して来ました。       でも、でも、それは悪魔のようなワジルダ兵ではなかった。       (泣きながら)全部、このタルグスクの口髭を生やした男たちだったのです。       こいつらは悪魔の手先だ、だからこいつらを殺すのも正義のためだ・・・」  キルチェ「お兄ちゃんが、パパを殺したの?」     男「そうさ。」  キルチェ「うそつき!」     男「うそじゃない・・・       俺が殺したんだ。(泣く)」 サビ−クル「あなたがそこで泣いたとて、殺された者たちには何の供養にもなりますまい。」     男「その通りです・・・       でも、それはまだ地獄の入口でしかありませんでした。       タルグスクのゲリラと殺し合っているうちに、俺たちの部隊はどんどん狂って行きました・・・       昨日まで隣にいた仲間が1人、又1人とやられていくのです・・・       怖かった・・・       この恐怖に打ち勝つためには、相手を容赦なく殺していくしかないのです。       人を殺す事を何とも思わなくなり、それどころかまるで狩りでもしているような快感を覚えるようになりました。       町に入れば、無抵抗の人達を捕まえて虫けらのように殺しました。       女を捕まえて、みんなで辱め、そして殺しました・・・」 サビ−クル「悪魔が、悪魔の所業を告白したところで、懺悔にもなりませぬ・・・       潔くそこで自害なさい。」     男「待って下さい!・・・       ある日、俺はいつものように捕まえた現地の女性を裸にしようとしました。       その女性は、しかし若くはなく、ちょうど俺の母親くらいの女性でした。       その人は、若い女性のように取り乱して暴れたり抵抗する事は全くありませんでした。       ただ俺が手をかけた時、悲しげな顔でこう言ったのです。      『あなたのお母様は、このような事を喜ばれるのですか?』・・・       俺は雷に打たれたようなショックを覚え・・・       その場で何度も戻しました。      『意気地なし!』       周りの連中はそう言って俺に唾を吐きかけ、そのままその女性に襲いかかっていったのです・・」 サビ−クル「もう話の先は見えましたよ。       あなたは、良心の呵責に耐えかねて軍を脱走し、そして死ぬつもりだったのに、私たちに助けられてしまった・・・」     男「つまらぬ話を聞いて下さり、ありがとうございました。」  アジ−タ「待って!       カメリアの人たちは、みんな悪魔なの?       あなただけが特別なの?」     男「いいえ。       みんな同じ、いいやつばかりですよ。       それに部隊には、カメリアが雇った現地の、生真面目なタルグスクの兵士たちも大勢いました。       それが、戦場では悪魔に変わっていくのです・・・       そこでは正気の人間こそが狂っており、狂気の人間が正義なのです。       これがこの世の地獄でなくて、何でありましょう・・・       アジ−タ。       俺を少しだけ狂気の淵から救ってくれてありがとう・・・(クッキ−を何枚も頬張って倒れる)。」  アジ−タ「嫌−っ!」      アジ−タ、倒れた男の側に駆け寄り、箱からクッキ−を取り出す。 サビ−クル「アジ−タ!       早まってはなりませんよ。」  アジ−タ「長老様。       申し訳ございません。       わたくしはこの方とご一緒に、天国に行きとうございます・・・(クッキ−を口に入れて倒れる)。」 サビ−クル「アジ−タ!」      3人の死骸に向かってサビ−クルとキルチェはしばらくお祈りを捧げる。      飛行機の音が近付いて来る。 サビ−クル「キルチェや。       あそこの棒を取っておいで。」  キルチェ「うん。」      キルチェが土塀に立て掛けてある長い棒を取ってくる。      サビ−クルは白い布をそれに取り付けている。 サビ−クル「キルチェ。       あなたの力で、その白旗を持っておきなさい。」  キルチェ「・・・重いよ。」 サビ−クル「私はこの先もう長くはありません・・・       キルチェ、あなたは今日あった事を覚えておくのですよ・・・       いつまでも・・・       星空の下の空爆がなくなる日まで・・・」      キルチェ、立ち上がってしっかりと白旗を掲げている。      サビ−クルは深々とお祈りを捧げている。      飛行機の音がますます近づいて大きくなり 音も光もFO。      再び開幕時のような濃いブル−のホリ明かりの中にシルエットが浮かぶ。      静かな音楽が流れ、倒れていた者は起き上がり語り始める。  ティンバ「白旗を見つけて爆撃機から下りて来たカメリア兵たちの前で、長老様サビ−クルは自らの命を絶った。」      サビ−クル、ナイフで手首を切り、倒れる。      ティンバも倒れる。  アジ−タ「キルチェは泣く事も忘れたかのように呆然と、カメリア兵に連れられて飛行機に乗り込んだ・・・       しかし収容先で、食べ物を口にせず、数日後に死んだ。」     キルチェ、アジ−タ倒れる。     男「カメリアの兵士達はその夜、容赦なく山を焼き払った。」     ホリゾント真っ赤に変わる。     男「洞穴を見つけると、出て来るように呼びかけ、投降しなかった多くの生存者たちを生きたまま火炎放射器で焼き殺した・・・       数日後、タルグスクという国は、この地上に存在しなくなった。」      ホリゾント濃いブル−に変わり、満天に星が輝く。     男「真っ赤に燃え上がる地獄の炎の上で、空には何事もなかったかのように美しく星が輝いていた。」      男、倒れる。      音楽が高鳴り、閉幕。