「1本!」 中島清志 作  【登場人物】♂2人 ♀2人       ♂ 田中雄太郎・・・高校2年生。柔道部。              ♂ 佐藤純・・・・・高校2年生。柔道部。       ♀ 田中真紀・・・・短大2年生。雄太郎の姉。       ♀ 田中さやか・・・高校1年生。雄太郎の妹。      雄太郎の部屋である。      かなり広い和室で、柔道家井上康生のポスターが貼ってある。      高校生の部屋としては立派過ぎるくらいだ。      どこへ部活を終えた雄太郎と純が入って来る。   純「おじゃましまーす。」 雄太郎「ああ、どうぞ。」      純は部屋の大きさに驚いている。   純「これ、ホントにお前の部屋なの?」 雄太郎「そうだよ。」   純「スッゲエなあ     ・・・こりゃ柔道の試合が出来そうじゃん。」 雄太郎「そりゃちょっとオーバーでしょ。」   純「いや、出来るだろ・・・     よーし、もう一丁稽古つけてやるか。」 雄太郎「え、ここで?」   純「そうだ。よし、来い!」      純と雄太郎は制服のままで組み手になる。      雄太郎は気乗りしない様子だが、実力上位のようで、すぐに純を投げ飛ばすと寝技に入る。   純「うわ、いててて・・・ もう、1本だよ、1本!     参りました!」      雄太郎技を解いて離れる。   純「雄太郎、お前ホントつええよなあ。」 雄太郎「ははは、そんなことないよ。」   純「俺が弱いだけか・・・」 雄太郎「そんなことないでしょ。     純君、素質あるよ。」   純「お前には全然歯が立たねえんだけどな。」 雄太郎「だって、ホラ、純君は高校入ってから柔道始めたでしょ。     僕はもう小学校入る前からやらされてたし。」   純「何とか卒業するまでに一度はお前に勝ってみたいんだけどな。」 雄太郎「もう半年もすれば、きっと純君の方が強くなるよ。」   純「ところでさ、俺に話があるって、一体何?」 雄太郎「うーん・・・     ちょっと、いや、かなり言いづらいことなんだけど・・・」   純「もったいつけんなよ。」 雄太郎「もしかしたら、純君すっごく嫌な気分になっちゃうかも知れないんだけど・・・     それでも聞いてくれる?」   純「おいおい、そんなこと言われちゃ聞きづらいだろ。」 雄太郎「やっぱり嫌かな?」   純「どういう話かわかんねえのに、答えようがないよ。」 雄太郎「そうだよね。     ホントは聞いて欲しいんだけど、やっぱりやめとくよ。」   純「え、もういいの?」 雄太郎「あー、ちょっと待って・・・     やっぱり聞いて欲しいな。」   純「なんだよ、ハッキリしないやつだな。」 雄太郎「ちょっと聞いてみるんだけど、純君って付き合ってる女の子、いるの?」   純「いや、残念ながらいない。」 雄太郎「あ、じゃあさ、どんな女の子のタイプが好きなの?     クラスの子とかでいいから・・・」   純「なんでお前にそんなこと言わなきゃならねえんだ?」 雄太郎「あ、いや、気にさわったんならいいよ。     ごめんなさい。」   純「ははあ。」 雄太郎「なんだよ。」   純「とうとうお前も春が来たんだな。」 雄太郎「何言ってるの。」   純「好きな女の子が出来たんだな。     そうだろ?」 雄太郎「違うよ。」   純「隠さないでもいいんだぞ、雄太郎く〜ん。」 雄太郎「違うって。」   純「黙ってろ!     ・・・そうか、ついにお前にも好きな子が出来たか。」 雄太郎「いやホント違うんだけど。」   純「だいたいお前おかしいもんな。」 雄太郎「何が?」   純「全然女の子に興味がないようなフリしやがって・・・」 雄太郎「フリじゃないんだけど。」   純「お前すごく女の子に人気あるのにな。」 雄太郎「そう?」   純「そうだよ。     俺なんかさ、何人か女の子にお前のこと聞かれたことあるもん。」 雄太郎「ホントに?」   純「ホントだよ。     田中君と話がしたいんだけど、とか。」 雄太郎「へえ。」   純「話しかけりゃいいじゃん、って言ったら、大人しそうだから話しかけにくいんだって。     だけど、カッコいいから話してみたいんだって・・・     くそう!     だんだん腹が立って来た。」 雄太郎「何で純君が腹を立てるの?」   純「当たり前だろ。     俺だって彼女なんかいねえし。     なんでお前ばっかりモテルんだよ。」 雄太郎「いや、モテたとかいう話じゃないし。」   純「ま、いいよ。     で、誰よ?     お前が好きになった子は?」 雄太郎「だから違うんだってば。」   純「じゃ何で俺に好きな女の子のタイプなんか聞いたりするんだ?」 雄太郎「あー・・・     だからそれはもういいんだよ。」   純「どうも煮え切らないやつだな。     お前だって女の子に興味がないわけじゃないだろ?」 雄太郎「そりゃまあ・・・」   純「だよなー。     高校2年だもんな。     女の子に興味津々で当然だよな。     ああ、女の子のカラダはどうなってるんだろう?」 雄太郎「そんな変な興味はないよ。」   純「何が変なんだよ!」      純、腕まくりすると、上腕部の内側をつねっている。 雄太郎「何やってるの?」   純「いいから、お前もやってみろ。」 雄太郎「えー?     なんで?」   純「いいから!」      2人で腕の内側をつねっている。      純は幸せそうだ。   純「いいか、雄太郎。     ここってすごく柔らかいだろう?」 雄太郎「そうだね。」   純「女の子のカラダってのはな、全身がこんな具合に柔らかいんだよ。」 雄太郎「はあ?」   純「だから、こうやって目を閉じて想像すんだよ。     ああ、あの子のムネはこんな感じかなあ・・・」 雄太郎「変態っぽいよ。」   純「うるせえ!     じゃあ、フトモモはどうだろう?・・・」 雄太郎「いやもっと変態度上がったよ、純君。」   純「こうやって来たるべき日のためにイメージトレーニングしておくんだ・・・」      部屋の入口をノックする音  真紀「ゆうちゃーん。     入っていいー?」 雄太郎「あ、いいよー。」  真紀「おじゃましまーす。」      真紀が入って来る。   純「あ、あの、あの・・・」  真紀「ゆうちゃんのお友達?」 雄太郎「うん。     柔道部の佐藤君。」  真紀「ああ。     いつも弟から話は聞いてます。     柔道のパートナーだとか。」   純「は、はい!」 雄太郎「お姉ちゃん、なんか用?」  真紀「お客さんにお茶でもお出ししなきゃ。」 雄太郎「いいよ。」  真紀「駄目よ。     大切なお友達なんでしょう?」   純「あ、いえ、おかまいなく・・・」  真紀「コーヒーがいいですか?」   純「あ、は、はい・・・」  真紀「ゆうちゃんはブラックよね。     佐藤君は?」   純「ぼ、僕もブラックで。」      真紀出て行く。 雄太郎「純君、ブラックは駄目じゃなかったっけ?」   純「んなもん、砂糖3杯なんて言えるかよ。」 雄太郎「なんで?」   純「かー。     お前の姉ちゃんってキレイなんだなあ・・・」 雄太郎「そんなことないでしょ。」   純「働いてるの?」 雄太郎「いや、短大。     今年卒業だよ。」   純「てことは、ハタチかあ・・・」 雄太郎「いや、まだ19かな。」   純「な、なあ、雄太郎。     彼氏とかいるのかなあ?」 雄太郎「え、お姉ちゃん?     さあ、いるんじゃないの。」   純「だよなー。     あんなキレイなんだもんなー。」 雄太郎「いや、だから、そんなことないって。」   純「それに、なんか優しそうだし。」 雄太郎「人が来てるからだよ。     ホントは昔からオテンバでさあ、僕なんかよく泣かされたもんだよ・・・」      真紀が盆にコーヒーと菓子をのせて入って来る。  真紀「何か変なこと言ってなかった?     私のこと。」 雄太郎「え?     なんのこと?」  真紀「とぼけたって駄目よ。     聞こえてたんだから。」 雄太郎「なんだ、人が悪いなあ。」  真紀「もう!     ゆうちゃんったら。」      真紀、雄太郎を軽くこづく。 雄太郎「いってえ!」  真紀「それじゃ、ごゆっくり・・・     あ、ゆうちゃん。     お姉ちゃん、ちょっと出かけて来るから。」 雄太郎「ああ、例のやつ。」  真紀「そ。     今日は期待してもいいわよ。」 雄太郎「ははは。     食べられるやつならいいな。」  真紀「もう、ゆうちゃんったら。」      真紀、再び雄太郎を軽くこづくと出て行く。   純「もう、ゆうちゃんったら!」      純、雄太郎を思いきり殴る。 雄太郎「やめてよ。」   純「いいなあ。     俺もあんなキレイな姉ちゃんに叩かれてえよ。」 雄太郎「何言ってんだか。」   純「お姉さん、どこ行ったの?」 雄太郎「ああ。     料理教室。」   純「へえ〜。」 雄太郎「花嫁修業だって。」   純「え、もう結婚するのか?」 雄太郎「まさか。     それがうちって古臭い考え方しててさ。     女の子はいつでもお嫁さんに行ってもいいように、って母さんが通わせてるんだ。」   純「オヨメさんかあ・・・     ああ、もう駄目だ。     ムラムラして来た。」 雄太郎「はあ?」   純「なあ雄太郎。     お前、俺に相談があるんだよな。」 雄太郎「そうだった。     とんだ邪魔が入っちゃったけど。」   純「ここってお前の部屋だよな。」 雄太郎「うん。」   純「なあ、相談聞いてやるからさ、そのかわりに見せろよ。」 雄太郎「何を?」   純「エロ本とか、ビデオとか持ってんだろ?     見せてくれよ。」 雄太郎「そんな物持ってないよ。」   純「嘘つけ!     俺なんか自分の部屋がないからさ、いつも隠す場所に困ってんだよ。     おかんに見つかって説教されたりさ。」 雄太郎「へえ。     かたいんだね、君のお母さん。」   純「いや、あの時は小学生だったからな。」 雄太郎「よく手に入ったね、そんな本。」   純「公衆便所に落ちてたのを持って帰ってな・・・     って、んなこたあどうでもいいんだよ!」 雄太郎「あの、とにかくそういう本とか持ってないんだけど。」   純「ホントかあ?」      純、部屋の中を探る。      ポスターを見て   純「だいたい、なんで井上康生なんか貼ってるんだ?     どうせなら井上和香にしろよ。」            いろいろ探っているが、目当ての物は見つからないようだ。      純はデスクトップのパソコンを見て   純「なあ、これってお前のパソコン?」 雄太郎「そうだよ。」   純「専用なのか?」 雄太郎「うん。」   純「わかったぞ・・・     使ってみてもいいか?」 雄太郎「え?     別にいいけど・・・」   純「あ、今動揺したな。」 雄太郎「そんなことないよ。     じゃあ、はい、どうぞ。」      雄太郎パソコンを立ち上げる。   純「えっと・・・・     お、これだな、マイピクチャー・・・」 雄太郎「あ、それはちょっと・・・」   純「やっぱ図星だな。」 雄太郎「いやホント、それは羞ずかしいんだけど・・・」   純「いいって、いいって。     お前もやっぱ男だな。」 雄太郎「純君、なんか勘違いしてるよ。」   純「今さら隠さないでもいいんだよ。     それとも何か?     見せるのが恥ずかしいくらい凄いとか・・・」 雄太郎「たぶんガッカリするから、やめといた方が・・・」   純「まあ遠慮なく見せてもらうぜ。」      純、マウスをクリックする。 雄太郎「ああ、恥ずかしいな。」   純「なんじゃコリャ?」 雄太郎「僕のちっちゃい頃からの写真だよ。     アルバムみたいなもん。」   純「そんなしょーもないもん、入れてんじゃねえよ!」 雄太郎「あー、ごめんね。」   純「いや謝んなくてもいいけど。」 雄太郎「本当に純君が好きそうな物とか持ってないんだよ。」   純「マジでか?     自分の部屋やパソコンを持っていながら、エロ本だの、ビデオだの、持ってねえって言うんじゃないだろうな。」 雄太郎「だって、本当に持ってないんだからしょうがないよ。」   純「かーっ。     んなことで好きな女の子が出来ても仕方ないだろ!」 雄太郎「意味わかんない。」   純「子孫が繁栄しないじゃないか!」 雄太郎「ますます意味不明だけど。     それに好きな女の子が出来たなんて言ってないよ。」   純「ちょっとどいてくれ。」 雄太郎「何?」   純「インターネット使うぞ。     いいな。」 雄太郎「いいけど。」   純「こうなりゃ自分で探してやるよ。」 雄太郎「え、何を?」   純「検索するんだよ。     えーっと、何がいいだろ?・・・     やっぱこれだな。     女子高生・・・」 雄太郎「えっ?     女子高生って・・・。」   純「やっぱエロの王道と言や、女子高生に決まってんだろ。」 雄太郎「ちょっと、変なもの探さないでよ。」   純「何が変なんだよ。     どうせお前だって、インターネットでそういうの調べてるんだろ?」 雄太郎「そんなことないよ。」   純「ウソつけ!」 雄太郎「ウソじゃないって。」   純「健全な高校2年生男子なら、そういうのに興味を持って当然だろう。」 雄太郎「女子高生なら、毎日いっぱい会ってるじゃない。」   純「ば、馬鹿野郎!     それとこれとは話が別だ。」 雄太郎「とにかくそういうエッチな検索はやめてよ。」   純「なあ雄太郎。     お前ホントにそういう検索したことないの?」 雄太郎「もちろん。」   純「じゃあ教えてやるよ。     女子高生、と、後検索ワードは何がいい?」 雄太郎「何って・・・」   純「ああ、わかった。     お前に聞いたのが間違いだったな。     う〜ん。     女子高生、と来たら、パンチラ。     よし、これで行こう!」 雄太郎「ねえ、ちょっとホントやめてよ。     変なサイトにつながったら困るじゃない。」   純「るせえよ!」      純、止めようとする雄太郎を突き飛ばして、マウスを押す。   純「よし!     出た出た、これだ。」      純、もう1度マウスを押す。」   純「おお!」 雄太郎「あなたは18歳以上ですか、って書いてあるよ。     ノーを押さなきゃ。」   純「バカ言え。」      純、イエスを押したらしい。   純「ありゃ?」 雄太郎「さっきと同じ画面みたいだけど。     ねえ、もう閉じようよ。     背景画面がイヤラシイし。」   純「イヤラシイ?     制服来た女の子がニッコリ笑ってるだけじゃねえか。」 雄太郎「だからそれが。」   純「よ〜し。     意地でもこのスカートの中を見てやるぞ。」 雄太郎「きっと黒いのはいてるって。」   純「なわけあるか!     えい!     あれ?     あれれれ?」 雄太郎「なんか画面が勝手にどんどん開いていくよ。」   純「お、おい、雄太郎。     これ、どうやったら止まるんだ?」 雄太郎「知らないよ。     切ってみたら?」   純「切れねえんだよ!」      そこへ外から声が さやか「ただいまー。     ゆうちゃーん、入っていいー?」 雄太郎「あー、ちょっと待って。」 さやか「入るよー。」      あわててパソコンの画面を隠す純。      高校の制服を着たさやかが入って来る。      学校から帰宅したらしい。 さやか「あ、こんにちは。」   純「こ、こんにちは。     おじゃましてます。」 雄太郎「あ、柔道部の佐藤君。」 さやか「ああ。     ゆうちゃんが良く話してる・・・」   純「佐藤です。     はじめまして。」 雄太郎「駄目じゃない。     待ってって言ったのに、勝手に入って来ちゃ。」 さやか「えー?     いいじゃん。」 雄太郎「親しき仲にも礼儀ありって言うでしょ。」   純「雄太郎、お前そんなカタイこと言うなよ。」 さやか「ねえ。」   純「そうですよ。     まあ遠慮なく。」 さやか「ゆうちゃん、パソコン使ってもいい?」 雄太郎「あ、今使ってるところなんだ。     佐藤君と一緒に。」 さやか「えー、何なに?     ゲームでもやってるの?」   純「あ、いや、ちょっと・・・」 さやか「見せてもらってもいいですか?」 雄太郎「さやかちゃん、駄目だよ!」      雄太郎、さやかを手招きして離れた所でヒソヒソ話。 さやか「えー?     今から?」 雄太郎「頼むよ。     たまたま今日がいいタイミングでさ。」 さやか「わかった。」      さやか、入って来たドアと反対側から出て行く。   純「危機的状況だったな。」 雄太郎「まだ問題は解決してないよ。」   純「そうだった。     一体どうすりゃいいんだ、これ。」 雄太郎「いろいろやってみたら。」   純「そうだな・・・     あっ!」 雄太郎「えっ?」   純「お、おい、何だかヤバい画面が出て来た。」 雄太郎「もう、勘弁してよ。」   純「ごめん!     これホントにヤバいや。     金払えって書いてる。     5万6千円って・・・」 雄太郎「どっからそんなお金になるのよ。」   純「月間契約見放題だって・・・     この野郎、まだ何も見てねえぞ!」 雄太郎「あー、そういうのはほっとけばいいよ。」   純「いいのか?」 雄太郎「うん。     授業でやったでしょ。     ワンクリック詐欺って。」   純「あーこないだやったな。     そっか・・・       そんじゃこの際ついでにこのENTERってとこから入ってみようぜ。     見放題なんだろ?」 雄太郎「こりないね、純君。」      部屋の外から声 さやか「入るよー。」      さやか遠慮なく入って来る。 雄太郎「あー、また・・・」 さやか「ごめーん。     すぐ友達んとこ、行って来るから。」 雄太郎「暗くなるから気を付けてね。」 さやか「うん。     じゃーね。」   純「あ、お気を付けて・・・」      さやか出て行く。 雄太郎「ごめんね、遠慮のない妹で・・・     純君?」   純「かわいいなあ・・・」 雄太郎「純君って、女の子なら誰でもいいわけ?」   純「違うよ。     ホントにかわいいじゃん。」 雄太郎「そう?」   純「お前はいつも一緒にくらしてるからわかんねえんだよ。     全く、お姉ちゃんはキレイだし、妹はかわいいし、羨ましい奴だな。」 雄太郎「純君って、お姉ちゃんや妹みたいなタイプの女の子、好き?」   純「ま、そうだな。」 雄太郎「そっか・・・」   純「それが、どうかしたか?」 雄太郎「いや、何でもないよ。」   純「なあ、雄太郎。     あの、さやかちゃんだっけ?」 雄太郎「ああ、妹の名前はね。」   純「今、隣の部屋で着替えてたんだよな。」 雄太郎「そうじゃない?」   純「もう駄目だ。     俺、さやかちゃんが着替えてる所、想像しただけで鼻血が出そうだ。」 雄太郎「落ち着こうよ。」   純「落ち着いてるさ。」      純、腕の内側の柔らかい部分を握って目を閉じている。 雄太郎「また変な想像してるの?」   純「瞑想してると言ってくれ。」      雄太郎、やれやれと大きなため息をつくと、パソコンの画面を閉じに行く。 雄太郎「切れたよ、純君。     もう落ち着いた?」   純「ああ。     大丈夫だ。」 雄太郎「本題に入ってもいいかな?」   純「え?・・・     あ、ああ、もちろん。     俺に話があるんだったよな。」 雄太郎「うん。     今さ、この家の中には純君と僕しかいないよね。」   純「ああ、そうだな。」 雄太郎「だから僕も勇気を出して言うよ。     ちょっと待っててくれる?」   純「ああ、いいよ・・・     おい!     そっちは妹の部屋じゃなかったっけ?」 雄太郎「絶対笑わないでよ。」      雄太郎、さやかの部屋へ引っ込む。      純はいろいろ想像して落ち着かない。      しばらくして、さやかの制服を着た雄太郎が戻って来る。      純は、つい吹き出してしまう。 雄太郎「純君。」   純「ご、ごめん、つい・・・」 雄太郎「いいよ。     笑いものにしてくれれば。」      深刻そうな雄太郎に、純も冗談ではないと気づき、慎重に口を開く。   純「あのさあ。     それって冗談じゃないよな。」 雄太郎「うん。」   純「あ・・・     えっと・・・」 雄太郎「ありがとう。     まじめに考えてくれてるみたいで。」   純「そ、それはどうも。」 雄太郎「実は僕、本当は女なんだ。」      間   純「マジで?」 雄太郎「うん。」   純「えっと、あの、ついてないってこと?」 雄太郎「いや、ついてるんだ。     残念ながら。」   純「あー・・・     そうか・・・」 雄太郎「だけど、心の中では女なんだ。」      間 雄太郎「ごめんね。     急にこんなこと言われても困るよね。」   純「まあな。」 雄太郎「小学校の頃からなんだ。     自分がなんかおかしいなと思い始めたのは。」   純「お前、ずっと柔道やってたんだよな。」 雄太郎「うん。     それもある。     高学年の頃から男の子と組むのがすごく嫌で・・・     なんで自分は男の子と試合しなきゃいけないんだろう?     男の子の服を着なきゃいけないんだろう?     他の女の子と同じようにスカートはいちゃいけないの?     自分は女の子なのに・・・」   純「雄太郎・・・」 雄太郎「なんで女の子なのにおちんちんがついてるんだ!     何かの間違いか悪い冗談だよ、これは・・・」   純「お前、それずっと悩んでたの?」 雄太郎「うん。     だけどさ、中学の時テレビで性同一性障害ってのやってて、すぐピンと来たよ。     これ、僕と同じだって。     それからインターネットとか本とか調べて、同じような人がたくさんいることがわかったんだ。」   純「俺もたしか中学の授業で聞いた覚えがある。」 雄太郎「でさ、母さんに相談したんだ。」   純「冗談だと思われただろう?」 雄太郎「うん、最初はね。     だけど、僕が集めた資料とかで説明したら、だんだんわかってくれて。     お姉ちゃんや妹も今じゃよく理解してくれてるんだ。」   純「それで、その服も・・・」 雄太郎「うん。     純君にだけは言っておきたくて、それにはこれが一番てっとり早く分かって貰えるんじゃないかな、って、さやかと相談して貸してくれるように頼んでたんだよ。」   純「なんで俺に言う気になったんだ?」 雄太郎「いやだなあ。     恥ずかしいじゃない・・・」      女の子のように恥ずかしがり、もじもじしている雄太郎に、純は困惑する。   純「な、なんだよ・・・」 雄太郎「純君は僕のこと、嫌い?」   純「嫌いなわけないだろ。     友達じゃないか。」 雄太郎「良かった・・・     僕も純君のことが好きなんだ。」   純「そうか・・・     それは嬉しいよ。」 雄太郎「純君!     逃げないでよ。」   純「いや、逃げてなんか・・・」 雄太郎「だって後ろに引いてるじゃない!」   純「それは、お前が近づいて来るからだよ。」      気がつくと、純はほとんど壁ぎわまで後退している。   純「なあ、おい、雄太郎。     悪いけど、ちょっと考える時間をくれないか?」 雄太郎「ああ、ごめんね。     こんなこと急に言われちゃ、純君だって困っちゃうよね。」   純「ああ・・・     あの、とりあえずさ、そのセーラー服着替えて来てくんない?     落ち着いて考えられないからさ。」 雄太郎「やっぱり、気になっちゃう?」   純「そりゃやっぱりな。     つい今しがたまで、お前は男だとばかり思ってたわけだから・・・     そんな簡単に気持ちの切り替えは出来ねえよ。」 雄太郎「うん。     わかった。」      雄太郎がさやかの部屋に引っ込む。      純はそれを確認すると、反対側のドアから静かに部屋を出る。      しばらくして男物の服に着替えて来た雄太郎は、純が黙っていなくなったことに愕然とする。      失ってしまったものの大きさに、座り込み声を押し殺して泣く雄太郎。      しばらくすると戻って来た純が、雄太郎のそばに立つ。   純「雄太郎。」 雄太郎「純君。」   純「ごめん。     俺って最低だな。」      間   純「何かさあ、あんまりビックリしちまって、恐くなって逃げようとしたんだ。     本当にごめん。 許してくれ。」 雄太郎「いいよ。     そうなることも覚悟してたから。」   純「よかねえよ。     お前とは親友だよな。     そのお前が、勇気を出してカミングアウトしてくれたのに、俺はそこから逃げようとしちまって・・・     ホント、最低だよな、俺。」 雄太郎「でも、戻って来てくれたんだ。」   純「なあ雄太郎。     お前、本当に女なのか?」 雄太郎「うん。     余計なものがついてるけど、心の中は完全に女だよ。」   純「そうか・・・」 雄太郎「高校を卒業したら、手術して身体も女になるつもりなんだ。」   純「え?お前、そこまで・・・」 雄太郎「うん。     性同一性障害って認められれば、日本でも可能なんだ。     僕はたぶん認められると思う。」   純「親もオッケーしてるの?」 雄太郎「母さんはね。     一緒に調べてくれたくらいだから・・・」   純「お姉ちゃんや妹も?」 雄太郎「もちろん。     問題は父さんなんだ。」   純「単身赴任なんだっけ?」 雄太郎「うん。     ずっとニューヨークに行ってて、滅多に帰って来ないんだ。     だから僕のことも全然知らないと思う。」   純「そりゃあ、ビックリするだろうな。」 雄太郎「うん。     何しろ頭が古いからね。」   純「ところでさ、名前も変えるの?」 雄太郎「うん。     出来ればそうしたいよ。」   純「お前の名前って、オスに太郎だもんな。     どう見ても男の名前だよな。     俺なんか、純、だからな。     昔からよく女と間違えられて嫌だったもんだよ。」 雄太郎「僕の名前が純ならよかったのにね。」   純「そうだな。」 雄太郎「雄太郎だもんね・・・     ゆうこがいいかな?それともゆうだけの方がいい?」   純「お前長男だよな?     名前からして。」 雄太郎「うん。     やっぱり親は男の子が欲しかったみたいで。」   純「ああ、それよくわかる。     俺なんか、よく、あんたは長男なんだから、って言われるもんな。」 雄太郎「だから父さんが知ったらどう言うかな?     って不安なんだよね。」   純「あのさあ、アメリカとかって、よくわかんねえけど、日本よりそういうのが進んでんじゃねえの?」 雄太郎「そういうのって?」   純「ほら、よくゲイの人がデモ行進してたり、ニュースでやってるじゃん。」 雄太郎「ゲイとは違うよ。」   純「いやそうだろうけど。     俺が言いたかったのは、お前の父さんだって男だとか女だとかって考え方が変わってるんじゃないかってこと。」 雄太郎「純君はどうなの?」   純「え?な、何が?・・・」 雄太郎「とりあえず父さんのことはいいよ。     それより、純君の本当の気持ちが知りたい。」      間 雄太郎「僕さ、高校を卒業したら、頑張って純君に好かれるような女の子になるよ。     手術すればカラダだって・・・」   純「ご、ごめん、ちょっと待ってくれ。     俺やっぱりさ、お前が女になって、その、付き合うってのが、どうしてもイメージわかねえんだ。」 雄太郎「・・・そうだよね。」   純「だからさ、俺にも心の準備をさせて欲しい。」 雄太郎「うん。」   純「まずは、これまでと同じような友達同士でいてくれよ。     男としてさ。」 雄太郎「そう出来るといいな。」   純「・・・まあ、これまでと全く同じ気持ちで、ってのは無理だけどな・・・     ところで柔道は続けんのか?」 雄太郎「もちろん・・・     いや、あの、純君さえよければ。」   純「そうか・・・     よし、ここで一丁もんでやるか!」 雄太郎「ホントに?」   純「寝技はなしだぞ。」 雄太郎「うん・・・」      2人、その場で組み合う。      どちらかの技がきれいに決まって  2人「1本!」      〜おしまい〜