15分1人芝居「行列の出来る結婚相談所」 中島清志 作  【登場人物】♀1人        ♀ 女・・・結婚相談所所長。33才独身。                    結婚相談所の相談室内である。      ソファーに座った女が、相談に来ている男に向かって話している。     「山田さん。  何回言ったらわかるんですか?  そういうオドオドした態度が女性に嫌われるんですよ。  だから、そこでいちいち謝らない!  いいですか?  まず、相手をしっかり見て話してください・・・  山田さん、どこ見てるんですか、あなた?  そんな風に目線が下がってるとね、ハッキリ言ってイヤラシイ感じがしちゃうんですよ。  わかります?  え?  ムネ大きいですね?  って、オイコラ!  何言ってんですか、あなた。  え?  相手をホメたつもり?  山田さ〜ん。  そりゃあ確かに第一印象で相手の人をホメてあげましょうって、言いましたよ。  だけど、会ったばかりの人のカラダのことなんかに触れるのはタブーですよ。  第一、ムネ大きいですねって、それ私にケンカ売ってるんですか?  え?  ウソでもいいからホメろと言われた?  はい、言いましたよ私、この前確かに。  だけどあなた、それかなりずれてるでしょ、同じホメるにしても。  わかります?  え?  わからないから、結婚相談所なんかに来てるんだって?  はいはい、そうでしたね、ごめんなさい。  こういう時は「素敵な服ですね。」とか「そのメガネ、しゃれてますね。」とか、身に着けたものをホメるのがいいかも知れませんね。  え?  山田さ〜ん。  それ、今私が言った言葉繰り返してるだけじゃないですか。  少しは応用してくださいよ。  私のメガネはしゃれてなんかいませんから。  度が強くて気にしてるんだから、逆効果ですよ。  え?  メガネを掛けた女性に萌えるんですって?  や、や、ま、ださ〜ん。  え?  スカートが短くて素敵ですね?  帰っていいです!  山田さん。」      女は呆れて席を立とうとするが、男に謝られてヤレヤレと再び座り直す。 「山田さん。  もういいですから、そんな風に必要以上に謝るくせを直してください。  そうやって頭下げてると、後頭部が薄くなってるのがバレますしね。  え?  気付いてなかったんですか?  見た所かなり来てますからね、はい。  まだ今のうちにお相手を捕まえといた方がいいですね。  そのためには、何度も言いますけど、オドオドしないことです。  もっと自分に自信を持って。  え?・・・  あー、確かにね。  そりゃあ、高卒でフリーターってのは、決して有利な条件じゃないですよね。  まあでも、世の中割れ鍋にとじ蓋とも言いますし・・・  言い方が悪い?  はいはい、ごめんなさい。  私は、高卒でフリーターのあなたでもオッケーという女性がたくさんいらっしゃるってことを言いたかったんですよ。  え?  ウソじゃありませんよ。  イマドキ、学歴なんか気にする女性の方が珍しいくらいなんですから、もっと自信を持ってください。」      女、立ち上がると後ろの机から書類の束を取って男に渡す。 「これが今、山田さんあてにお見合いの申し込みがあった女性の釣書をまとめたものです。  ほら、こんなにたくさん・・・  え?  年上ばかりだって?  山田さん、ぜいたく言ってどうするんですか!  あなた、おいくつでしたっけ?  え?  まだ28?  私より5つも下じゃないですか。  え?  5つくらいなら許す?  何をまあ、図々しい・・・  あ、いや、失礼しました。  あなたのような人は、年上の女性の方が向いていますよ。  「愛は歳の差を超える」って言葉もありますし・・・  ほら、この人なんかどうですか?  すっごい美人。  叶姉妹かと思いましたよ。  え?  お母さんくらいの年齢だって?  もう、わがままなんだから。  わかりました、年下を探せばいいんでしょう?  あ、この人はどう?  顔が趣味じゃない?  何てまあ、ヒドイことを・・・  昔から「美人は3日で飽きるけど、ブスは3日で慣れる」って言うじゃないですか!  え?  私の方がヒドイ?  わかりましたから、そんな泣きそうな顔しないで・・・  あ、この人かわいいですよ。  歳だって、まだハタチ!  掘り出し物かも知れませんよ・・・  え?  バツイチで、子供が2人いるのは嫌?  山田さん、あなた、子供が嫌いなんですか?  え?  好きじゃない・・・  駄目ですよ、それはお見合いの席で絶対言ってはならない禁句の1つです。  女の人はね、子供が好きって言うだけで、いい人のように錯覚してしまうんですから。  え?  話がズレてる?  ズレてなんかいませんよ!  私は、お見合いして、デートして、婚約して、という結婚までの一連の流れがうまくいくように、あなたにアドバイスしているんです。  山田さん、あなた私の言うことを素直に聞かないと、いつまでたっても結婚なんかできませんよ。  髪の毛だって危ないんだから、もっと危機感を持ってください。  そうです。  結婚するまでは、たとえウソをついてでも、話の内容には十分注意しなきゃいけません。  たとえば、あなた趣味は何ですか?・・・  山田さん、失礼ですが、あなた女性にモテたことないでしょう?  え?  付き合ったこともない?  そうでしょうね・・・(深いため息)  え?  ため息つかないでくれって?  あら、ごめんなさい。  えーと、山田さん。  女の人にはインドアの趣味は言わない方がいい。  さっきあなたが言った、ビデオ鑑賞に、コンピュータゲーム、なんてのは最悪ですね。  アダルトビデオとエロゲーが趣味って、バレバレじゃないですか。  え?  何でわかるのかって?  そりゃあわかりますよ。  (小声で)あいつがそうだったもんな・・・  あ、いや、こちらの話です。  何と言ったらいいですかね・・・  山田さん、あなた全身からそういうオーラが出ちゃってるんですよ。  彼女いない歴28年、趣味はオタク系って言う・・・」      女、立ち上がって落ち込んでいる男をはげますように 「ねえ、山田さん。  そんなに落ち込むことはありませんよ。  こういう時にこそ、私のプロとしてのアドバイスが役に立つんですから。  簡単なことですから、良く聞いてください。(座り直す)  いいですか。  まず、あなたの趣味は、スノボーにサーフィンということにしましょう。  思い切りアウトドアで。  え?  いいんですって!  どうせ、見合いして何回かデートしたら、速攻で婚約しちゃえばいいんですから、バレっこないですって。  それにこういうのはイメージの問題だから、結婚すれば関係ないです。  はい。  世の中そういうもんですよ。  ところで・・・(釣書の束を見せながら)  どなたかとお見合いしてみます?・・・  そうですか。  それは残念です。  じゃあまた、いいお話があったら連絡しますね。  え?  子連れはダメですか・・・  バツ1は?  あ、1までならオッケーですね。  そりゃまあ、出来ればハードルは下げた方が・・・  あ、年齢も30代までならオッケーと。  わかりました。  それでは。  え?  今度の日曜ですか?  申し訳ありませんが、土日はお休みですので・・・  え?  仕事じゃない?  山田さん、それもしかして私を誘ってるんですか?  ごめんなさい。  ええ、ツメの先ほどもないですね、そんな気持ちは・・・  ですから、あれは一般論を申し上げただけでしてね。  あなたと私じゃ全然釣り合ってないでしょ。  私の方が5つも歳上だし・・・  え?  「愛は歳の差を超える」?  超えませんよ。  少なくとも私にとってはね。  それに私は、こんな仕事ですけど、起業してやってるんですよ。  え?  手伝うですって?  山田さん、それ、世間では「ヒモ」って言うんですよ。  まあ、最低の男じゃないかな?・・・  (営業スマイルで)はい、今日の料金は振り込みでお願いしますね。  ありがとうございました!  また、ぜひお越しください!」      深々と頭を下げている女。      〜おしまい〜