15分1人芝居「ゴトーくん」 中島清志 作 【登場人物】♀1人        ♀ 北大路綾・・・(高校演劇部員)                   舞台上には北大路綾が1人。      観客席にいる1人の男子高校生を見ると、舞台を下りる。 「あーっ!  ゴトーくーん!  やっぱり来てくれてたんだー  うれしいなー。」      彩、ゴトーくんを引っ張って舞台に上げる。 「ねえ、ゴトーくん。  え?  ゴトーくんでしょ?君。  え、違う?  あ、いいのいいの、ゴトーくんでさ。  だって私、ずっと待ってたんだよ。  昔からお芝居で待たせる役の人って、ゴトーに決まってるじゃない?  だから、芸名ってことでいいから、ゴトーくん。  え?  下の名前?  そんなのどうでもいいよ。  ピョン吉でも、Q太郎でも、好きなのにして。  とにかくさ、ゴトーくん。  私、ホントに、ずっとずっと待ってたんだよ、君のこと。  ありがとう!  ゴトー君。」      彩、ゴトーくんの手を両手で固く持つと、うやうやしくお辞儀している。 「あ、あのね・・・  私、ゴトー君のこと、昔からずっとあこがれてて・・・  うん。  草場の陰からじっと見守ってたんだよ。  え?  草場の陰はヤバイって?  もう!  細かいこと気にしないでよ、ゴトーくん。」      彩、両手で握り締めたゴトーくんの手を胸に押し当てると 「私の、この胸に溢れる想いを、どうか受け取ってください!」      本当に胸に当たる寸前で、パッと両手を離す。 「なーんちゃって。  そんなわけないよね。  今始めて会ったのにさ。」      舞台を下りようとするゴトーくんを、彩はあわてて呼び止める。 「ちょっと待ってよ!ゴトーくん。  そんなさめた目で見ないで!  私のこと、変な子だなって思ってるでしょ。  悲しいよー。  こんなにゴトーくんのこと思ってるのに・・・  もう私、ゴトーくんから冷たくされたら生きて行けないんだから!  この舞台で、ぜーんぶ服を脱いで、舌を噛んで死んでやる!  え?  何で服を脱ぐのかって?  やだなあ、サービスだよ、サービス。  高校演劇だからって馬鹿にしないでよ。  私、脱いだらすごいんだからね。  あ、いや、だから行かないでよ、ゴトーくん!  今君に行かれたら、私ここでストリップしなきゃいけないんだよ。  それでもいいの?  この、鬼!ヘンタイ!セクハラおやじ!  うちの演劇部は廃部になって、この会場は以後永久に使用禁止。  校長先生がテレビに出て、まさかあの生徒があんなことするなんて思いもしなかった、とかわけのわかんない弁明する羽目になるんだよ。  そうよ。  始めから大人しく言うこと聞いてりゃいいの。  そしたら、このくらい見せてあげるからさ、ホラホラ。(スカートを少しめくって見せる)  え?  別に見たくない?  オイ、コラ!  黙って聞いてりゃ、ぶっ殺されてえのか?てめえ!  私のフトモモはよ、チラッと見るだけで、えーと、15万円くらいの価値があるんだよ。  え?  セコイ?  そりゃ私だってホントは百万円くらいって言いたかったんだけどよ、そりゃさすがにボッタクリだからな・・・」      彩、つきものが落ちたかのように、急にニッコリと笑うと 「あの、ゴトーくん。  今のはホントの私じゃないから、誤解しないでよね。  私、演劇部の北大路綾って言うんだけど・・・  え?  私、演劇部だって知ってるの?  ねえ、どうして?  今始めて会ったんだよね、私たち。  もしかしたら、ゴトーくんと私、目に見えない赤い糸でつながってるのかも知れないよ。  ほら、ここに赤い糸がさ・・・」      彩、指を見せると、2、3歩ゴトーくんから遠ざかって行く。 「あっ!!・・・  切れちゃった・・・  切れちゃったよ、赤い糸。  ゴトーくんがついて来てくれないから・・・  ねえ、責任取ってくれるんでしょうね?  いや、結婚してくれ、なんて言わないけどさ。  とりあえず、演劇部に入部してくれるよね?」      彩、ハッと何かに気付いたかのように手を打って 「あ、そっか!  ゴトーくん、今演劇部の公演見に来てくれてたんだ。  だから私が演劇部員だって、わかったわけね。  さすがだわ。  君のように優秀な頭脳の新入部員をさがしてたのよ。  演劇部、入ってくれるでしょ?  えー、どうしてえ?  こんな所に来てるってことは、君相当ヒマってことだよ。  え?  まさかゴトーくん、他の部に入ってるとか・・・  それはあり得ないことだよ、ゴトーくんに限ってさ。  だって、何しろゴトーって名前なんだからね。  いや待ってよ。  ゴトーは芸名だったか・・・  あ、言わなくていいよ。  当ててあげるよ、君が何部だか。  芝居やる人間は観察が大切だから、雰囲気でわかるんだ、これホント。  ズバリ君、柔道部でしょ?  あの、モテないクラブナンバーワンと言われる柔道部・・・  柔道部さん、ごめんなさい・・・  え?違う?  あ、じゃあ、アニメ部だ!  何でって、君アキバ系の匂いがするんだけど・・・  え?  気のせい?  じゃあ何よ・・・  帰宅部の部長!?  やっぱヒマなんじゃなーい!  だったら入るしかないよ、演劇部。  これからは演劇やってる男の子がモテるんだよ。  ホントだって!  ○×△□だって、▲■◎×だって、モテる男は、みんな俳優でしょ?  大丈夫だよ。  ゴトーくん程度でも、絶対モテモテだから。  少なくとも演劇部には女子しかいないから、カワイイ子がよりどりみどりだよ!・・・  ま、今の所、部員は私しかいないんだけどね・・・  あ、待ってよ、ゴトーくん。  ゴトーくーん!」      舞台を下りるゴトーくん。      彩は後を追いかけるが、途中で諦めて大きなため息をつく。      舞台に戻ろうとするが 「あーっ!  ヨシダくーん!  やっぱり来てくれてたんだー」      〜おしまい〜